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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第百十六話 神に最も近い石ⅩⅥ


「あぁああああああああ!!」


 オウロは口から絶叫しながらそれでも攻めていく。

 だが、ポリアフはそんなオウロの癖を見切ったのか、銀の直剣でオウロの横一文字の剣を強く弾いた。

 その反動を利用して、オウロは逆一文字に剣を繋げる。


 ポリアフの結晶の曲剣では防ぐような剣の形ではなかったが、受けた。いや、既にポリアフの左手にある剣は曲剣ではなく、氷によって拡張された結晶の大剣へと生まれ変わっていた。

 ポリアフは大剣の重さを利用して、オウロの剣を下に押さえる。銀の直剣が煌めく。霰が銀の直剣の軌跡を彩る。オウロは反射的に剣を放してポリアフを蹴って距離を取ろうとするが、それよりもポリアフの銀の直剣の方が早かった。オウロの右手首をポリアフは切断した。


 だが、ポリアフの左腕をナダの青龍偃月刀が狙っていた。ポリアフはオウロへの攻撃を優先したため、ナダの攻撃は避けていなかった。左腕に氷を厚く纏う。

 ナダはその事に気づきながらも、オウロが作ってくれた機会を無駄にはしない。余計な事はしない。振り上げた青龍偃月刀を全力で振り下ろす。一切の躊躇なく。ポリアフの腕は氷があったとしても、ナダに青龍偃月刀の前には簡単に切り落とされた。


 ポリアフは悲鳴を上げる事もなく、青龍偃月刀を振り下ろした後のナダへ一歩踏み込んで銀の直剣で弧月を描く。

 ナダはそれを見えていたが、避ける暇などない。ナダもさらに一歩強く踏み込んだ。

 二人の距離が零になる。ポリアフの剣は最高速になる前だったのでナダの肩を浅く斬り裂いただけだ。だが、凍傷が傷口に侵食する。血を止める代わりにナダの肉体を“止めよう”とする。

 ナダはそれに気づきながらも、やる事は同じだ。下から青龍偃月刀を跳ね上げる。

 ポリアフは踏んで止めた。銀の直剣でナダの首を狙う。

 オウロが腰の後ろに差していた小太刀を抜き、ポリアフへと片手を伸ばした最速の突き。

 それに反応したポリアフがナダの首からオウロの小太刀を払おうと、銀の直剣の軌道を変えた。

 剣を弾かれたオウロはそれでも勢いを殺すことはなく、ポリアフに突っ込む。

 二人は蜘蛛の糸のようにもつれあう。

 だが、互いに刃は相手へと向けている。

 下になったオウロがわけも分からず伸ばした小太刀はポリアフの腹部を浅く斬り裂き、上にいたポリアフはオウロの腹部を深く斬り裂いた。

 ポリアフはオウロの腹部に剣を残したまま、その場から高く飛んだ。

 迫り来るナダの青龍偃月刀の突きから逃げるためだ。

 ポリアフは軽業師のようにナダの青龍偃月刀の上に乗った。

 ナダはポリアフを落とすように青龍偃月刀を振り払う。

 ポリアフはその場から遠くへと飛んで移動するが、着地の瞬間を狙って青龍偃月刀の横振り。

 いつの間にか新しく生み出していた粗末な氷の剣で受けようとするが、ナダはそれを打ち砕いた。だが、ポリアフが一歩ナダへと踏み込んだことによって切り刻まれる事はなく、柄の部分によって頭が揺れた。

 ポリアフの身体がぐらつく。

 ナダは青龍偃月刀を振り上げて、距離を調整して振り下ろす。

 ポリアフはふらつきながらもナダへと一歩踏み込んで躱し、氷によって硬質化した拳によってナダの腹部を殴った。

 ナダは低く呻いた。

 ポリアフはさらに腕を引いてもう一度殴ろうとしたが、そんなポリアフへ銀の直剣が刺さったままのオウロが抱き着くように体当たりする。

 二人がまた縺れたが、既に武器を手放したオウロには追撃手段がない。それでもオウロは殴ろうとするが、ポリアフが銀の直剣を捻じるように抜いた。オウロは激痛によって体が上手く動けない。

 ポリアフは巨体のオウロを蹴って退かし、迫り来るナダへ構える。

 武器はナダの方が長い。ナダはリーチの差を活かして青龍偃月刀で薙ぎ払った。

 ポリアフは一歩下がって寸で避ける。髪の毛が数本切れた。

 ナダは回転を殺すことはなく、その場でもう一度周りながらポリアフを狙う。

 ポリアフは同じ攻撃だったので、今度は地面に這うように避ける。ナダへの脛切りを狙った。

 ナダはそれが分かっていたかのように青龍偃月刀の軌道を変えて、柄を使って圧し潰す。ナダは再度青龍偃月刀を振り上げた。

 大したダメージのなかったポリアフはその場から跳ね上がって、ナダの頭上をも超えた。雪のベールがポリアフの背中を押す。

 ナダは迫り来るポリアフの銀の直剣の軌道を見て、青龍偃月刀の構えを変えた。右手で持って後ろに大きく引き、左手で刃の近くの柄を支える。突きをする構えであった。


 ポリアフはそんなナダの狙いが分かると、空中で剣を振るった。吹雪をナダへと打ち出した。

 転がるように避けるナダ。

 ポリアフは雪のベールによって空中でも自由に軌道を動かせるのか、その場で方向をゆらゆらと変える。さらに剣を振るう。空中に生み出した氷の氷柱が次々とナダに落ちていく。

 ナダは構えを解いて避ける事に専念する。

 そんなナダの正面に不意にポリアフは現れた。ナダが青龍偃月刀を振るうよりも早く銀の直剣を振るう。ナダの首を狩り取ろうとした。ナダは咄嗟に利き手とは逆の左手を前に出し、命を守った。左手が無惨にも斬り裂かれた。肘から先がなくなり、鮮血が舞う。即座にナダは腕を振るい、そんな血をポリアフへの目潰しとしてかける。

ポリアフの前に赤い雪が咲くが、気にもとめずにナダへと剣を再度振るう。

その時には既にナダは青龍偃月刀を中心で持って動きやすいように構えていた。右手一本での単純な突きである。躱すのは簡単だったので、ポリアフは斜め前に足を踏み込もうとするが、その動きをナダは予見している。手首を返して石付きでポリアフを引っ掛ける。

 ポリアフの身体がふらついた。剣は空中を空ぶる。

 ナダは青龍偃月刀を後ろに大きく引いた。左手はもうない。右手だけで扱うには、青龍偃月刀は大きすぎる。自由には動かせない。だが、振るう事だけならできる。ポリアフへと刃で攻め立てる。

 ナダの青龍偃月刀に以前の力はない。ポリアフへと簡単に捌かれた。体勢を立て直したポリアフは逆にナダを攻め立てる。ナダは重い青龍偃月刀を素早く扱う事ができず、一つ、二つ、三つ目の斬撃は受ける事すらかなわなかったので、前方へ縺れるように青龍偃月刀を手放した。

 ナダは手首のない左手で、ポリアフへと倒れこむように殴りかかったのである。ポリアフはそれをうけながらも銀の直剣でナダの腹部に横から突き刺した。

ナダは低いうなり声を受けながらも殴りかかった左手でポリアフを抱きしめる。


「捕まえた――」


 ナダは腹部をねじれこまれながらも口角を上げて、にたあ、と嗤った。そのまま足を絡めてポリアフを背中から落とす。

 だが、ポリアフにダメージはない。ポリアフはより深く剣を突き刺した。

 ナダは苦痛に顔を歪めながらも、自由な右手で地面に落ちているオウロの太刀を拾う。ポリアフには馬乗りになっている。逆手で掴んだ太刀でポリアフの腹部を力強く突き刺した。

 ポリアフも腹部を刺された事によって酷く呻いた。


 お互いに腹部に剣が突き刺さったまま、力を込めて抉る。お互いに死に体だった。さきに腕から力が無くなったのは、以外にも――ポリアフであった。その場で力なく横たわる。


「ぐっ、ここまでか――」


 口から血を吐きながら虚ろな目をするポリアフ。

 だが、ナダも状況はあまり変わりなどしない。太刀から手が離れ、ポリアフへと倒れた後に、横に体が流れる。


「俺は死なないらしいぞ――」


 ナダは大怪我負いながらも勝ち誇った顔でいった。体は無惨な赤に染まっている。


「我にも死という概念はない。この体の持ち主もだがな。酷く残念であるが、今回の勝ちは貴様らに譲ってやろう。もうこの小娘に憑依するような力は残されていないからな。久しぶりの生身を、我は堪能した。満足したぞ――」


 ポリアフは酷く楽しそうに言った。

 まるで今までの戦いが娯楽かのような口ぶりだった。


「そうか……」


 ナダはすでに出血多量と数々の怪我によって意識が飛びそうだった。どう足掻いても体が動かない。

 それを見越したポリアフが巨体のナダへ馬乗りになった。


「そなた、名は?」


 負けを認めたポリアフはもう動かないナダを見て、勝ち誇った顔をした。


「ナダだ――」


「そうか。ナダか。そなた、この“奥”を目指す英雄なのだろう?」


「ああ――」


「なら――また会おうぞ――」


 ポリアフはそう言って、ナダの唇に自らの口元を寄せた。

 柔らかい触感の呪いと共に、ナダの意識は無くなった。

いつも感想やいいねなどをくださり、ありがとうございます。

本作品の書籍版が10月30日に発売予定するので、「@otogrostone」というXのアカウントでキャラ紹介などもリポストしております。

興味のある方は是非フォロー宜しくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
なんとかニレナパイセン奪還……というかニレナパイセンも死ななくなったならだいぶん無茶できますね!……そういう話でもない?
chu!
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