第百十話 神に最も近い石Ⅹ
以前にもお伝えしましたが、
この作品は第十二回ネット小説大賞を受賞し、出版されることとなりました!
発売日は10月30日に決まりました!
また書籍に合わせて、タイトルを「迷宮のナダ」に変更しておりますので、今後は「迷宮のナダ」を応援して頂けると幸いです!
詳しいことは活動報告にも書きましたので、一度ご覧いただけると嬉しいです!
宜しくお願い致します!
「そんなっ!」
まるでこの場所自体に開けた空間があるだけで、どこにも道が繋がっていないかのようである。だが、分厚い氷の壁によって部屋自体が閉ざされているので、もしかしたらこの壁のどこかに、道があるかのかもしれないと、ハイスが氷の壁を叩き壊そうと剣で思いっきり叩いた。
だが、分厚い氷は薄っすらと傷がつくだけで、びくともしなかった。
似たような反応は他のどのパーティーメンバーも浮かべている。
そして――絶望が背後から迫り来る。
「――ここが、お前たちの墓場でいいのか?」
これまで『ラヴァ』のメンバーが急ぐように通ってきた道から、悠々と――ポリアフが現れた。
彼女は行き止まりになった『ラヴァ』の冒険者達ががおもしろいのか、あえて急ぐことはせずにゆっくりと歩くのである。
ポリアフが歩く度、彼女の周りには白い雪が舞い散った。舞った氷は壁に張り付き、より一層分厚くなっていく。部屋の中心にポリアフが到着し、片手を振るとシィナが溶かした部分までもが氷に侵食されるので、ナダ達は壁から一歩引いた。
「まだ殺さんぞ?」
挑発するように言うポリアフ。この部屋全ての氷の壁はさらに分厚くなり、針のような細かい氷が生えていく。ナダ達はもう一歩壁から引いた。
「どうする――?」
ポリアフへと、いつでも戦えるように太刀を構えたオウロはナダへと視線を送った。
「……どうしようかな?」
そんなナダは一人、周りとポリアフを交互に見ていた。
やはり、ポリアフにニレナの面影はなかった。姿かたちは同じはずなのに、表情の“邪悪さ”が違う。
人を慈しみ、守る存在ではなく、害そうとする傲慢な神の姿だ。そんなポリアフに、どうにもナダは不快感しか覚えなかった。
ナダは冒険者なので学園にいた時は当然のように十二神を信仰しているが、個人としては殆ど神を信じていない。冒険者になった始めの頃はギフト使いに成れるかと希望を抱いて、何度か教会に祈ることもあったが、いつしかそんな習慣はなくなった。
ギフトに目覚めなかったからである。
いや、それだけではない。
ナダはかつて一年生の時にパーティーを組んだ仲間を思い出す。その頃はまだ幼く、パーティーの誰もがアビリティに目覚めていたかった時である。当然ながらナダも目覚めていないが、学園での評価はまだ高い時だった。
理由としては――強かったからだろうか。
アビリティに目覚めていない者の中でも、ナダはひと際強かった。同年代の中でも大きな体と強い力、それだけで同じ武器を扱っても差が出るものだ。ナダはずっとモンスターを殺していたので、パーティー内でも尊敬される事が多かった。
そんな時、パーティーは迷宮に潜ったばかりなのにも関わらず、たまたま階層違いの“はぐれ”と戦った。当然ながら満足のいく武器を持たず、技量もなかったナダはパーティーメンバー二人の重傷という犠牲を糧にナダがその“はぐれ”を叩き殺した。
そんな重傷を負った仲間が痛みに耐える中で、ずっと祈っていたのである。ナダがモンスターと必死に戦って、そして殺して、背負って迷宮内を移動する時も「助かりますように。モンスターに勝てますように。無事に迷宮から助け出されますように。神様、どうか私を助けて下さい」と。
ナダはそんな言葉を聞いて、戦いにおいて神など何の役にも立たない、と思った。何故なら戦う時に神へと祈りを馳せる仲間は重傷を負い、モンスターを殺す術のみを考えた自分は殆ど怪我を負っていない。その結果、戦いにおいて、“神”という不純物がいかに邪魔なのか、己と敵以外の何が必要なのか、ということにナダは結論づいた。
もちろん、神を否定するわけではない。ギフト使いは神から力を与えられた結果とナダは教わっているし、ギフトに助けられた事は何度もある。
だが、ナダ本人においては、戦いの場において、神に祈ることは無駄だと思っている。そんな事をする暇があれば、相手の弱点や行動パターンを考えた方がいいと思っていた。
「我が見る限り、貴様らの中のリーダーはそこのでか物であるな?」
ポリアフは小さな体で見下すように言った。
「そうだな――」
ナダは気楽にポリアフを見定めながら、己の中にある疑問を考えていく。
どうにも――引っかかるのだ。
自分の中の疑問点が一つに繋がろうとしている。
ニレナに降臨した神であるポリアフ。神は力を貸さず、冒険者を殺そうとする。
過去の伝記に書かれていたと言う、アダマスは神を退けた。
氷の空間に、明らかに人為的な氷の壁。誰が開けたか分からない穴。謎だらけに空間に落ちた――腕。
だが、答えはまだ出ない。
「見る限り腕のよさそうな冒険者であるな。忌々しい男ともよく似ている――」
ポリアフはナダをよく観察すると、忌々し気に唇を尖らせた。
彼女の周りの冷気が渦巻くように強くなり、それと共にナダ達へと降り注ぐ雪がまるでブリザードのようになっていく。
「……誰の事だよ」
急に褒められたかと思ったら、貶されたのでナダはどう反応していいか分からなかった。
「そなたにはどうでもいいことだ。さて、殺すか――」
そして、ポリアフの殺意がナダへと向く。
ポリアフは右手の指の照準をナダへと定めた
「ナダ、何かしなかったら、私たちは全員“死ぬ”のよ!」
ナナカの言葉を聞いて、ナダの頭の中で――全てが線に繋がったような気がした。妄想かも知れない。勘違いかもしれない。だが、ナダの中で唯一信じられる道が“これ”だった。
ポリアフの右手から氷の槍が生み出されると同時にナダは距離を詰める。そしてこちらへと放たれた氷の槍をナダは――青龍偃月刀で砕いた。
「で――お前は“死ぬ”のか?」
ナダは白い息を吐いていた。そんな中でも全く体の動きは変わらず、ポリアフへとゆっくりと歩きながら嗤った。
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