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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第百三話 神に最も近い石Ⅲ

 七人は水の満ちた穴に落ち、そして先を泳いで進んで行くとやがてゆっくりと水に満ちた洞窟は上りになって行き、水もなくなってきた。新鮮な空気に七人は久方ぶりに遭遇する。ゆっくりと呼吸を整えた七人が露わになった階段を昇って行くと、開けた場所に到着した。


「元のマゴスに戻ったみたいだ――」


 隊列の一番前で切り込み隊長をしていたカテリーナが不思議そうな声を出した。

 そこは明らかに“マゴス”であった。

 薄く水が張ってあり、岩でできたダンジョン内。まるで振り出しに戻ったかのような錯覚に陥るが、一つだけ違う部分はあった。

 マゴスでは天井の鍾乳石が光っていたのに対し、現在は岩でできた地面自体が薄く水色に発光している。また天井は薄暗いが、夜空に星が満天に輝くように小さな光が輝いているためどれだけ高いかが分からない。


「でも、まるでここは夜みたい。不思議ね――」


「夜という事は終わりが近いということではないでしょうか?」


「そうだといいけれど――」


 ナナカの疑問に、ニレナが返した。

 不思議な事にこの道にはモンスターは一匹とて存在していなかった。

 迷宮の最深部であり、未知の場所。全員が辺りを注意しながら進んでいるが、自分たち以外の足音はおろか、気配すら感じなかった。


 そのまま先へと進むと、やはりモンスターの気配は全くなかったが、徐々に明るくなっていった。

 空は星雲から晴天に変わったかのようにマーブル模様の大理石が青と白のコントラストを描き、足元にある水面はそんな光を反射して美しいコバルトブルーへと変わっていく。

 奥へ向かうにつれて天井が徐々に低くなり、ナダが頑張って手を伸ばせば届く範囲になれば、今度は左右の壁までマーブル模様の大理石になった。それらの壁を水面が歪んで反射するので、どこからが境目か分からなくなる。


「綺麗……」


 地球上では全く見ない光景にナナカが思わず感嘆の言葉を呟いた。似たような感情はどのパーティーメンバーも抱いているようで、周りの景色に圧巻された。

 まさしくここは青の世界であった。

 水の青と、大理石の青。二つの青が世界を彩る。

 だが、モンスターはまだいない。


 それから暫く『ラヴァ』のメンバーは青の洞窟を進んだ。

 すると段々と道が広がっていき、人影が見えてきた。一瞬、モンスターかと思ったのだが、こちらに近づいてくる様子はない。だが、いつ襲われてもいいように『ラヴァ』のメンバーは注意しながら近づいて行く。

 特にニレナとシィナはいつでもギフトを発動できるように事前に祝詞を唱え、自らの周りをそれぞれ氷と水で包み込む。

 他のメンバーも武器を構えていつでも迎撃できる準備を行う。

 だが、その人影が動く様子は全くなかった。

 ある程度近づいたところで、オウロが人影の正体に気づいた。


「まさかっ!?」


 オウロは『ラヴァ』から人影に走って近づいて行く。いつの間にか武器も鞘にしまっていた。


「いきなり、何なのだっ!」


 先頭にいたカテリーナもオウロに続いて走り出す。他の仲間も釣られるように後を続いた。

 人影は全部で五体もあった。

 その中の一つに近づいたオウロは跪いて感嘆の声を漏らしている。


「……これは?」


 オウロに追いついたメンバーは人影の正体が分かった。

 彼らは、自分たちと同じ“人”だったのだ。さらに言うのならば、ただの“人”ではなく、“冒険者”である。彼らは一様に同じ武器を持っていた。それは特徴的な武器で、“オウロと同じ武器”である太刀であった。誰もが腰に普通の太刀と背中に大太刀を背負っている。全て黒刀だ。


「……黒騎士だ。私のご先祖は、深海に沈んで遂には辿り着いていたのだ」


 オウロはその中の一人に縋りついたまま嗚咽を漏らす。

 ナダはそんなオウロを見守りながら、また別の黒騎士に近づいた。彼らは武器こそ黒刀であったが、その他の鎧はかつてオウロが身に着けていたような黒い鎧ではなく、ナダ達が来ているのと同じく薄く肌に張り付くような防具である。

 だが、現代の物とは違い、彼らは魚の皮をなめした物であるが、精製技術が低いのか肌に張り付くようなものではなく、上からすっぽりと被る形のもので多少着ぶくれしているようだった。


 さらにナダが気になったのは彼らの顔だった。

 黒騎士伝説がいつの時代の物かナダは詳しくは知らない。ただ、アダマスと同じ時代なら気が遠くなるほど昔の話である。それなのに彼らの顔は生前と同じ形を保っている。ナダの目の前にいるのは、若い男性だ。

 だが、その肌を触ってみると、ナダは顔をしかめた。


「石のように固いな――」


 まるでナダの心臓と同じように、石のように固まっていた。

 そんな彼らは一様に先を見つめており、そこには――扉があった。両開きの扉であり、マーブルン模様の大理石で作られている。扉だと思える溝はあるが、それ以外には取っては何もなかった。


「彼らは石のように固まった、というのか?」


 ハイスも黒騎士に近づきながら感想を言った。驚いているようでもあった。


「……そうみたいだな」


「オウロ、この事は知っていたのか?」


「いや、聞いた事もない――」


 ハイスの質問にオウロは戸惑ったように言った。

 どうやら本当に知らないようであった。

 腕を掴んでみるとやはりそれも石になっていて、どうやら全身が石になって固まっているのである。


「……石、か」


 ナダは石となった彼らの様子を見ながら思わず心臓を握りそうになった。自身にも彼らのように同じく石となっている。

 だが、彼らほど症状は進んでいない。

 何故彼らの全身が石になっているのか、ナダには見当すらつかなかった。もしもこれが英雄病だと言うのなら、自分もこうなるのではないかという恐怖に駆られる。


「まさかこれって作りものじゃないわよね?」


「……迷宮にこんなものを作る酔狂な方はいないと思いますけど、ギフトだと可能なのでしょうか?」


 ナナカとニレナは同じ黒騎士へと向き合い注視しているが、やはりそれを本物の人だとはどうにも疑っているようだ。


「ナダは、どう思う? ……顔色が悪いがな」


「……人だと思うぜ。過去にここまで辿り着いた戦士たちだ。どうしてこうなったのかは想像がつかないが、人が石になることも迷宮ではきっとあるんだろうな。原因は分からないが」


 ハイスの顔色が悪いという指摘に、内心ナダはどきりと驚いた。

 『ラヴァ』のメンバーには誰にも“英雄病”の事を深くは言っていなかった。信じてもらえないと思ったからだ。心臓が石ころになり、不老不死になったのと荒唐無稽な話だから。もしもこうなる前に英雄病を自分が聞いたとしても、きっと信じなかっただろうと思うからでもある。


「この先に人を石に変える“何か”があるのか、ないのか、それは分からないが、ナダ、先にはもちろん進むのだろう?」


 カテリーナは人が石になったという惨状を見ても、特に動揺はしていないようで、先を見据えていた。

 ――扉である。

 迷宮に度々あるという扉は、隔てる物とされている。今の場所から新しい場所へと繋ぐためのものだ。そこはまるっきり環境が変わることもあれば、秘宝が存在する場所へと繋ぐものも多い。


「……ここしか道はないんだろう? なら、行くさ」


「ナダさん、壁に紋章がありますわよ」


 いつの間にかナダの傍にいたニレナが、その扉の横に剣で削ったかのような紋章を見つけた。迷宮内では様々なパーティーが多種多様な紋章を迷宮内で残すが、ナダにとってそこにあったのはとても見慣れたものであった。

 三本の爪が生えた龍の足跡――アダマスの紋章である。


「それはアダマス様の紋章か?」


 先祖から離れたオウロはアダマスの紋章を手でなぞる。

 この紋章がアダマスのいつの冒険時代につけられたものなのかは全く想像がつかないが、彼らが生きていた時代を考えてからさかのぼるときっとほぼ誤差に違いないだろうと思った。


「そうみたいだな。じゃあ、先へ進むぜ。覚悟はいいか?」


 ナダは仲間達に聞いてから、反対者がいない事が分かると両開きの扉を両手でそれだけ押して開ける。

 瞬間――部屋の中からナダ達を襲うように青い光が現れてナダの身体全てを包み込み、何も見えなくなった。

 ああ、そうだ。

 とナダは思い出す。

 かつてこのような光に出会ったことがあったのだ。

 そう、あれはかつてラルヴァ学園で学園最強の冒険者を決める時だった。そしてトーへに潜り、そこで一体のはぐれを倒した。様々な武器を扱う騎士のようなはぐれである。

 彼を倒して先の扉を開いた時、このような光で出会ったのだ。


 そう思えば、あの時から全てが始まったと言ってもいい。

 あの光を浴びてしばらくしたのちに“英雄病”にかかったことに気づいたのだ。

 あの時は新しい四つの迷宮のイメージが頭に浮かぶが、今回はそんな事はなく、ナダは光に包まれた後、思考が遠くなりやがて意識を失った。

更新が遅くなって申し訳ございませんでした!

来週は予定通り土曜日の二十二時投稿予定ですのでまた見て頂けると幸いです!

ちなみに洞窟のイメージはマーブルカラテドルというチリにある洞窟です。一度は見に行ってみたい場所の一つでもあります!


いつも感想やいいねなどをくださり、ありがとうございます。とても執筆の励みになっています!

また「@otogrostone」というアカウントでツイッターもしておりますので、よかったらフォローもお願いします!

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