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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第九十七話 底ⅩⅩⅡ

 カテリーナは『光の剣セントリカオ・イスパーダ』の使い方を探っていた。

 このアビリティは――強い。

 剣に施すだけで格段に威力が上がり、光を開放すればより大きな一撃を与える事が出来る。また以前とは違い、そのままの状態で光を開放することも可能で敵の目を潰す場合でもわざわざ鞘に納めると言う手間すら必要なかった。


 あとはタイミングだけ。自分の意思で、好きなように使う事が出来る。これまで苦労していたモンスターであっても、楽に倒せるようになるアビリティだ。

 だから――どうやってヒードラを倒すか。カテリーナはそれだけ考えていた。


 そんな時、カテリーナはオウロの行動を観察してから、彼がアビリティを使っていることに気が付いた。そしてその効力も思い出した事で、彼の毒が効きやすいようように傷を作ることにする。


 カテリーナは『光の剣セントリカオ・イスパーダ』を使い、けれども全力で使おうとはせずに小さく光を分割しながらヒードラに傷を作っていく。それはオウロの毒を仕込むための軌跡である。


 そして――オウロの毒が効いた。

 ヒードラの動きが止まる。

 その瞬間、カテリーナの思考が切り替わる。

 どうヒードラの大ダメージを与えるのか、『光の剣セントリカオ・イスパーダ』をヒードラのどこに当てれば威力が出るのか、カテリーナが考えるのはそれだけだった。これはカテリーナにとって自慢ではないが、事実として『光の剣セントリカオ・イスパーダ』はパーティーの中で最も威力の出る一撃だと思っている。


 光の開放をしないままカテリーナは剣でヒードラを雑に斬りながら様々に移動する。どこに必殺の一撃を与えればいいか探すのである。

 そして、水の手が幾つも復活した中に、カテリーナは一つの光明を見つけた。

 ――ナダである。

 『ラヴァ』のリーダーである彼が、ヒードラに深い一撃を与えたのである。さらにその場所へ何度も武器で殴り、より傷が深くなっている。水が赤く染まっている。これまでヒードラに付けられた傷の中で最も深いものであった。

 カテリーナはそこへ移動しようと体の方向を変えた時、足元に水の壁を感じた。そのまま足を深く折り曲げて、勢いよく蹴り放つ。そのまま氷の道を走るようにして、カテリーナは件の場所へ辿り着いた。

 多少の水の手は復活している。だが、先ほどまでのように多数の盾で守られているわけではない。

 ――いける。

 攻撃を放つ前からカテリーナは確かに手ごたえを感じていた。

 アビリティの感覚は分かっている。全身から力を溢れ出すような感覚。それを収縮してアビリティにするのである。カテリーナはその感覚をより強くし、アビリティが進化した時よりも強く放てるように力を振り絞る。

 体に痛みが奔り、口が歪みそうになるのをカテリーナは気合で抑え込む。体が爆発しそうになるような力をアビリティとして収縮するのだ。その状態のまま傷口の前まで移動し、水の手を剣で直接切り払いながら――


「『光の剣セントリカオ・イスパーダ』!」


 力強い声と共に、カテリーナは全力の光の斬撃を放った。

 その一撃は幾つかの水の手などは気にも留めず、ナダの作った穴へと吸い込まれるように深く突き刺した。

 どこまで深く損傷を与えたのかは分からない。だが、確実に命を削り取る一撃だった筈だ。


 全力のアビリティを放ったことで、カテリーナは体から力が失われるような感覚に襲われる。全身が上手く扱えない。

 濁流のように流れ出る血の滝にカテリーナは溺れそうになる。それに抗う事はできず、水の手がカテリーナを襲う前にヒードラから離れる事となった。


「やるな――」


 血に流されたカテリーナと交代する形で、オウロがヒードラの傷へと到達する。



 ◆◆◆



 オウロはカテリーナとすれ違った直後、シィナに目をやった。するとオウロの足元に様々な水の壁が作られる。オウロは小刻みにそれらを蹴って、より加速する。

 体の“熱”をオウロは自覚していた。

 ああ、そうだ。

 オウロは足に“熱”を込めながらより力強く水の壁を蹴っていく。その度に踏みしめる力がより大きくなる。


 この力はきっと常に自分と共にあったものなのだ。どこかで感じ取っていたが、自覚はあの白いガラグゴとの戦いまではなかった。あの時に極限まで神経が研ぎ澄まされて意識できるようになったのだ。


 なるほど、とオウロは思う。

 これほどまでに“熱”を意識して使うと、ここまで流暢に動けるのかと。まるでこれまでの自分の動きが一段と進化したようだった。だが、この力は未だにどう使えばいいかまだよく分かっていない。


 オウロはその力を実感しながら、シィナの助力を受けながら刃を前方へと構えたままヒードラの深い傷口へとその身を投じた。すぐに血の濁流にのまれそうになる。だが、それに抗うように体に熱を回して辺り一面を斬り裂いて行く。


 視界が血に染まり、全身が血に溺れ、もはやどこにいるのかすらオウロには分からない。けれども決して腕に力を込める事は辞めず、その場を縦横無尽に斬りまくる。


 そんな時、オウロは生ぬるい血ではなく――温かい水を感じた。

 シィナのギフトだ。

 それがオウロの足元をそっと支えて、背中を強く押してくれた。

 自分の進む道は向こうなのだと、オウロは強く意識する。シィナの導く方向へオウロはより強く剣が振るえるように体に“熱”を回す。そのまま全力で剣を振り下ろした。


 ヒードラの体内が一瞬の内に大きく引き裂かれる。

 そしてオウロは背後に人影が高速でやって来るのを感じた。

 ――ナダだ。

 まるで矢のような速さでこちらへと突っ込んでくる。オウロはその邪魔をしないように身体を横へと避けた。


「――待ったかよ?」


 ナダは両手の武器を全力で振り下ろして、オウロよりも雑に広範囲を斬り裂いた。


「狙いが甘いぞ――」


 オウロはそんなナダを誡めるように言った。


「殺せればなんだっていいさ――」


「それにはオレも賛成だ――」


 ナダとオウロは血に濡れていることによって周りが見えないが、二人の存在はお互いが感じ合っている。

 ヒードラの体内で二人は背中合わせになった。

 もはやヒードラの水の手は襲ってこない。


「狙うは心臓か?」


「殺しきるならそうだろうな――」


 ナダの狙いにオウロが頷く。


「じゃあ、どっちが殺すのか勝負だな――」


「ふん、勝つ気か?」


「当然だ――」


「なら、正面から受けてたとう――」


 それからすぐに二人は体内を斬り進める。

 ヒードラの身体の内側は既にシィナのギフトが掌握している。二人の足場はシィナの水が作り出してくれる。

 さらにニレナのギフトがそれに追従する。ヒードラの体内の血を凍らせるようにギフトが侵食し、二人の傍から凍らせ始める。そのギフトは確実にヒードラの命を削っていく。

 二人はそれを感じながら愚直に剣で先へと進んで行く。

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