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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第九十六話 底ⅩⅩⅠ

 ナダはそのオウロの言葉を待っていた。

 これまでのナダはヒードラに傷をつけながらも、行うことと言えば“水の手”の注意を引くこととオウロの為に傷をつけることぐらいだ。ダーゴンの時のように多少の怪我を無視しながら攻撃することもしなければ、一手間違えれば死ぬような攻防も行わない。

 ナダはこの場に置いては一人だけでヒードラに勝とうとする愚行はしない。あくまで仲間を活かすために行動する。

 そうすれば、仲間達がこの状況を打開してくれるだろう、と信じていたからだ。


 確かにヒードラは強大な敵だ。

 ダーゴンと同等かそれ以上の敵かも知れないし、これまでナダが倒してきた敵の中でも最上位に位置するほど強いだろう。

 だが、ナダはそれでも仲間なら何とかするだろう、と信じている。それだけの仲間を集めたからだ。迷宮の深層に潜るにあたってこれ以上ない仲間を集めたのだ。

 その中に英雄はいない。偉大な活躍を納めた冒険者は“まだ”いない。だが、ナダが思うに彼らならきっといつかそのステージに立てる冒険者だと思っている。


 そして――毒が咲いた。

 オウロのアビリティが通用したのである。

 ヒードラの様子が一変する。これまで水の腕が無数に活気に動いていたのが、急に萎れたように横たわる。水の武器は霧散し、ナダを阻むものは何もなかった。ナダがヒードラを斬ろうと槍と剣にそれぞれ力を入れて握りしめて、氷の道を強く踏みしめる。


 だが、そんなナダよりも早く攻撃する者が現れた。

 湖中に太陽のように大きな光が一瞬現れた。カテリーナだ。彼女がアビリティを使ったのだ。

 障害のないその一撃はヒードラを深く斬り裂き、水中に赤い花を咲かせる。

 それでも抵抗を試みようとするヒードラは大きく体を捩るが、その動きすらも鈍かった。オウロの毒が芯まで効いているようだった。


 ナダはそんなカテリーナの姿を見て、思わず顔に笑みが浮かんだ。

 カテリーナは冒険者として一皮むけたのだ。以前の彼女にヒードラを大きく斬り裂くほどの威力はなかった。今までの冒険を通じて彼女の中で変化が生じたのだ。その一撃は、『ラヴァ』においてはナダですら出すことが出来ない間違いなく最上の一撃であった。


 そんなカテリーナに集中するヒードラの機敏を、ナダが見逃すわけもなかった。

 素早く息を潜めてヒードラの背に降り立ったナダも、陸黒龍之顎と青龍偃月刀を二つとも逆手にもって深く皮膚に突き刺して、そのままヒードラの背中を踏みしめたまま前へと進んだ。ナダの進んだ場所に二本の道が出来る。ヒードラの血で溢れた道だ。


 だが、それもつかの間の事だ。すぐにヒードラに効いていた毒の容態は、次第に回復へと向かう。ナダの道を阻むように水の手が徐々に生まれ始める。もう毒の効き目が弱まっているのである。

 そんな時、ナダはオウロの言葉を思い出す。


 ――どんなはぐれにでも私の毒は通じると思うが、きっと二度目はない。モンスターにもどうやら抗体はあるらしいからな。彼らのそれは、人よりも遥かに速い。


 つまり、ここがナダ達にとって一番のチャンスであり、これを逃がすと真正面からヒードラを倒すしかなくなる。

 だからナダがこの隙を逃がすことなどない。


 息を深く吸う。

 “熱”を体に回す。ダーゴンの時と同じだ。武器をより強く振れるように。先ほど限界まで力を使ったナダだが、熱が衰える様子はない。むしろ戦うごとにボルテージが上がり、力はより強くなっているような気がする。

 ナダはそのままの状態で、ヒードラの頭上に立った。大きな皮膚がナダの目の前に広がる。氷の足場を使って足から力を強く伝える。ダーゴンの時のように鋭く早い一撃ではなく、重く鈍い一撃を狙う。この場で必要なのは威力だけだ。


 ナダは陸黒龍之顎で斬り裂いて、青龍偃月刀で抉った。ナダの全身が赤い血に包まれる。それでもナダは止まりなどしない。深くえぐった場所へ何度も斬りつける。息が上がろうと、筋肉が千切れそうな感覚に陥ろうと、ナダの手が止まることはない。目の前を赤に染めながらずっと武器を振るい続ける。皮膚を深く掘ることでナダはヒードラの命を奪おうとしていた。


 だが、そんなナダへ――水の槍が幾つも襲い掛かった。

 ナダはそれに気づいていながらも手を止める事はなく、最後の一撃とばかりに青龍偃月刀で腕が皮膚に埋まるほど深く刺した。

 そしてナダの身体へ水の槍が刺さろうとするが、その前にナナカの声が響いた。


「『鉛の根シュンボ・ハイス』」


 ナダの身体を灰色の根が包み込んで、水の槍から防いだ。


「自分の身は自分で守りなさいよ!」


 大木のような根っこで体をぐるぐる巻きにされたナダに向かって、ナナカが怒るように叫んだ。


「お前が守ってくれると思っていたんだよ。近くにいたのは分かっていたからな――」


 ナダは悪びれもなく言った。

 その間にも優しいナナカがナダを危険地帯から離れるように移動させる。


「もし私が守れなかったらどうしてたのよ!」


「お前はそんな奴じゃないのを知っているからな――」


「……あんた、人を信用し過ぎているといつか死ぬわよ――」


「……問題ねえよ」


 ナダは遠い目をしながら言った。


「で、まだ戦えるんでしょ?」


 何を言ってもきっと変わる様子のないナダへこれ以上言うのを面倒になったナナカは、根っこからナダを開放する。


「お前らが戦えなくなっても戦うさ――」


 ナダは足を深く曲げた。


「それなら、突っ込みなさい。私がサポートするわ」


 と、ナナカはいたずらに嗤いながら『鉛の根シュンボ・ハイス』の形を変える。ただの根っこから、螺旋を描く。それはナダの足元に生み出し、幾つもいくつも螺旋を重ねる。これがナダに機動力を生むのだ。


「久しぶりだな――」


 かつてアギヤの時代の時によく使ったすべだった。


「でしょ? ぶっとべ――!!」


 ナナカの声と共に、解放された螺旋エネルギーを使ってナダはヒードラへ突撃する。

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