第九十四話 底ⅩⅨ
オウロは地道に攻撃をしていた。
ナダ、ハイス、カテリーナがつけた傷へとそっと刃を添わせる。刃に殺意に満ちた毒を纏わせながら徐々に、ヒードラを毒で侵すのである。
だが、オウロは自らの牙を隠すように、決して自分で傷をつけるという派手な行動はしない。
オウロの攻撃はヒードラにはあまり危険度は高くないように見えたのか、襲ってくるのは水の腕であり、武器も持っておらずその数も少ない。
またオウロのアビリティは移動に向くものではなかったため、ニレナとシィナの助力を最大限に借りながらヒードラの身体を移動する。その結果だが、オウロはヒードラの身体から追い出される事が殆どなかった。
確実にヒードラを毒で侵せた。
ヒードラは殺す。その意志は酷く強いものであるが、どう殺すかが重要だと考えていた。相打ちをする気は全くなかった。自分だけで殺すと言う気もない。頼れる仲間たちの助力を十分に受けながら最小限の力で殺したいのである。
これからの冒険を見据える為に。
そう考えた時、やはりオウロの仕事は“毒”であった。自信のあるアビリティだった。体に力を回し一人で果敢に攻める選択肢もあったかもしれないが、そのような攻撃は一人だけだと有効的でも、今の状況だと攻撃力のあるナダの下位互換であり、カテリーナの一撃には大きく劣る、というのがオウロの見解だった。
そう考えた時、オウロは自身の原初に立ち戻る。
格上殺しとまで言われた自身のアビリティ。その力をコロアに見初められて、ナダがアギヤに入ったように、当時のトップパーティーの一つに見初められたのだ。
そして当時のリーダーであるコロアの片腕となり、やがては代替わりし、『デウザ・デモ・アウラル』のパーティーリーダーとなって、学園のトップの冒険者の位置についた。
そんなオウロの原動力になったのは間違いなく『蛮族の毒』であり、目覚めてから今までずっと頼ってきた。
はぐれも幾度となく倒したのだ。
ガラグゴを一人で倒した時だってそうだ。あの時だって、最終的には『蛮族の毒』に助けられた。
だから今だって、これまでの自分を築いた『蛮族の毒』に頼ろう、と思った。
オウロは強く自身のアビリティを信じながら確実にヒードラの傷口へと毒を流していく。
今は全く効いていない様子でも。
ヒードラの身体は大きい。どれほどの毒をヒードラに流せば効くのかが、オウロには一切分からない。そもそも強いモンスターであればあるほど、オウロのアビリティは効きづらいのである。
そもそもオウロは、浅層のモンスターであれば撫でるだけで殺せるような毒の持ち主なのだ。
強力なはぐれにさえ効くその毒は、どれも強力なものばかりだった。
今回、オウロがヒードラに流しているのは主に麻痺毒である。即死系の毒ははぐれには通じない事が多いため、戦闘に隙を生み出す毒を調合している。そうすれば、頼りになる味方が討伐してくれるだろう、と信じているからだ。
オウロは幾度となくアビリティを使う。
どれも強力な毒であるため、一つ一つの傷に流すたびに体から“力”が失われていく。感覚としては、体が冷たくなっていくのに近いだろうか。あまりアビリティを多用しないオウロであるが、強力なはぐれと戦う時にはこのような状況に陥る事も稀にある。
オウロはこの感覚を切っ掛けにして、ラルヴァ学園時代の事を思い出した。きっと今と同じような状況になる事が多かったのは、自分がリーダーとしてパーティーを率いた時ではなく、誰かの下で今のようにメンバーの一人として冒険している時だったのだ。
オウロはかつて、ラルヴァ学園において『デウザ・デモ・アウラル』というパーティーに所属する前にも別のパーティーでも活動していた事がある。
それは当の昔に卒業してしまったヴェールという男が率いるパーティーである。
当時の学園でのパーティーとしては、ランキングにも引っかからない寂れたパーティーであった。『デウザ・デモ・アウラル』ように学園でも屈指の実力があるパーティーとはとても言い難い。
当時のオウロは目覚めた自身のアビリティを、足手纏いとさえ感じていた。
オウロがヴェールのパーティーに入ったきっかけとしては、学園の二期生でアビリティに目覚めたばかりのオウロはまだ学園で何者にも認められていなかったが、ヴェールにスカウトされる形で所属したのである。
オウロの『蛮族の毒』はその時に鍛えられたと言ってもいい。
そのパーティーにに所属するまでは、オウロの認識としては自分の事を剣使いとしての実力がある、としか感じることができなかった。あの頃の『蛮族の毒』はまだ弱く、どれだけ力を振り絞ってアビリティを使ったとして満足に通じるのは弱いモンスター達、ぐらいの認識しかなかった。むしろアビリティよりも、幼い頃より磨き抜かれた剣技によってモンスターを倒す場面の方が多く、アビリティを殆ど使わずにオウロが切り込み隊長でモンスターを斬り殺して行くからこその戦果が多かった。
そんな時からオウロは、自分のアビリティが好きではなかった。
オウロが求めていたアビリティはもっと別の形だったのだ。剣には自信があった。誰よりも力をつぎ込んできた。物心つく前から黒騎士を目指し、訓練してきたのだから、同級生の誰よりも剣の腕があるという自負すらあった。
だからそんな自分の剣を上げるアビリティか、自分自身をサポートするアビリティをオウロは望んでいた。この“底”へ来るために。
例えば剣速を上げるアビリティ、カテリーナの『閃光』のように。例えば収容系のアビリティ、ハイスの『秘密の庭園』のように。例えばギフトのように剣に付加してより威力を上げるものが欲しかった。
だが、実際に得られたのは『蛮族の毒』という、雑魚にしか通用しないアビリティだったのだ。当時のオウロは麻痺毒のみしか扱えず、自分のアビリティは使い物にならないもの、と自らを蔑んでさえもいた。
毒を待つ暇があれば、それよりも早く剣技によってモンスターを殺すことが出来たからだ。
だが、ヴェールの見る目は違った。
オウロの敬愛する先輩は、こう言ったのだ。
「オウロ、もったいないよ――」
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