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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第九十三話 底ⅩⅧ

 アビリティの進化とは、誰にでも起こる事ではない。

 一生起こらない冒険者もいるという。

 また、アビリティの進化と成長も学術的には違う、と学者は結論づけていた。

 アビリティを数多く使い鍛えれば、成長はどのアビリティにも必ず起きるものだ。成長とは例えば剣に纏う炎が以前より大きくなったり、火力が上がったりすることである。単に威力や範囲が上がることが多い。


 だが、進化は違う。

 それは『唯一技能ワン・オフ・アビリティ』の形を大きく変化させるものだと、学者は定義している。


 英雄であるマナは、最初のアビリティは手甲を隠すだけだった。そこから何度もの進化を経て、全身鎧を生み出すアビリティへと変わった。アビリティの進化の教材としてよく語られる事例である。


 では、カテリーナはどうか。彼女自身は、これまで“一度だけ”アビリティの進化を経験したことがあった。

 それはアビリティに目覚めて数か月後の事だった。その時はモンスターとの戦闘が終わった後の事だった。


 モンスターを倒した充足感と共に、カテリーナを包み込むように力を与えてくれたのだ。

 当時はモンスターと戦う事によって体が興奮し、死闘を制したことで全能感に包まれているのだと思っていた。

 だが、違った。

 その時の感覚は、まるでアビリティが目覚めた時の“違和感”に近かったのだ。


 そもそも、最初に目覚めたカテリーナのアビリティは今ほど強力なものではなかった。発動条件は一緒。鞘に納めた状態で光と共に剣の威力を上げるもの。だが、当時の光はとても弱く、淡い粒子のようなものが剣に纏わりつくだけだった。

 だが、アビリティを使う前より、使った後の方が剣の威力は格段に上がっていたので、当時からカテリーナは『閃光セントリカオ』を酷使する日々が続いていた。その結果。ある日アビリティが進化し、今のように眩い光も共に放つようになったのだ。


 あの時の“違和感”は今でも思い出すことが出来る。

 身体の中から力が溢れ出し、漏れるかのように全身が発光する。“違和感”は人によって大きく違うのだが、カテリーナの場合は光に満ちた家の扉を夜に開けた時のように光が体中こぼれだすのだ。

 カテリーナの胸の中心から発光し、やがて全身を包み込む。そして光の中から現れた時、カテリーナは剣を頭上に掲げて叫んだ。


「『光の剣セントリカオ・イスパーダ


 これまで一瞬しか輝かなかったカテリーナの剣に光が満ち、刀身から離れない。そのまま盾で守られたヒードラに剣をぶつけると、カテリーナは斬撃と共に斬撃の形をした光波を放ち、これまでよりも深くヒードラを斬り裂いた。


 だが、その力は『閃光セントリカオ』よりも消耗が激しいらしく、放った後動けなくなり肩で呼吸していた。

 もちろん水の剣達はそんなカテリーナを襲うが、ナナカの『鉛の根シュンボ・ハイス』がカテリーナを逃がす。


「凄いわね!」


 カテリーナの一撃を間近で見ていた素直な感想を述べた。

 ナナカが見た冒険者の中でも最上位の一撃であり、ヒードラで無ければほとんどのモンスターは一撃で倒せるかと思えるほどの威力だった。


「それは……よかった…………」


 カテリーナは一向に回復する様子がないようだ。

 新しいアビリティの形は消耗が大きい。

 それを彼女自身が一番感じ取っていた。


 カテリーナが思うに「『光の剣セントリカオ・イスパーダ』とは『閃光セントリカオ』のようにただ光を放ち、剣速を上げるアビリティではなく、光を“物質化”することが出来るアビリティだった。

 先ほどのヒードラを大きく斬り裂いたのはまさしく、“光の物質化”だった。光をそのまま斬撃として放ったのである。もしかしたら厳密には違うのかも知れないが、カテリーナは実質的にアビリティの進化によってこれまでとは違い、遠距離攻撃を手に入れた。


 もちろん、以前までの『閃光セントリカオ』の使い方が出来る事もカテリーナは感じていた。ギフトの進化の方向性としては単純に新しくできる事が増えたのである。

 光を光として使う事も出来れば、光を攻撃として使う事も出来る。もしももっと鍛えればより多くの使い方が出来るのではないか、とカテリーナは自分のアビリティの可能性に歓喜していた。


 カテリーナは『鉛の根シュンボ・ハイス』に捕まったまま呼吸を整えて体力を回復すると、再度『光の剣セントリカオ・イスパーダ』を使って、自身の剣に光を固めた。


 その状態のまま、今度は放たずに襲ってくる水の剣を光の剣で弾く。先ほどと同じように剣を振るっているのに、鞘から出していない剣の筈なのに、カテリーナの剣はこれまでよりも重く、強くなっていた。


 カテリーナは剣を振るいながら思う。

 カテリーナが自身のアビリティが進化した時、すぐに光のギフトとの相似性に気付いていた。光のギフトも様々な形があるが、その中の一つに光を物質のように使う者があった筈だ、と。

 だが、やはりアビリティとギフトは違うものなのだ。カテリーナのアビリティに祝詞はない。

 彼らほどの自由さもカテリーナのアビリティには許されていなかった。現に剣の刀身以外から光を出せる気がしなかった。他の武器、例えば槍の刃からなら『光の剣セントリカオ・イスパーダ』を放つことは出来ると感じていた。


 またアビリティの進化としては、自由度が上がった事が最も大きいだろうと思う。これまでのカテリーナのアビリティとしては、必ず鞘に武器を納めなければならなかった。そうしなければ、アビリティをつかったとしても弱々しい光が刀身から放たれて“溜める”ことが出来ない。そうなれば剣速は殆ど上がらず光で目を潰すことも出来なかった。


 だが、『光の剣セントリカオ・イスパーダ』は違う。光を固める事ができるので、それ自体を鞘のように扱う事が出来るのだ。

 今のまま、好きな時に光の斬撃を放つことができ、光で目つぶしができ、剣の威力をこれまで以上に上げた攻撃もすることが出来る。


 カテリーナのアビリティの進化としては、これ以上ないものだった。

 カテリーナはそんな『光の剣セントリカオ・イスパーダ』を使ってこれまで以上に攻めようとする。ヒードラから少し離れてしまったので、氷の足場を頼りに真っ正面から突っ込んだ。目の前を阻む水の盾は剣で弾き、襲ってくる水の剣はこれまで同様に水のギフトの助力を借りながら華麗に避ける。


 まだヒードラの体に直接届く距離ではない。カテリーナの元に大量の水の武器が襲ってくる。カテリーナの危険性にヒードラが気づいたのだ。

 だが、ある程度、距離が近づいただけでカテリーナには十分だった。


「『光の剣セントリカオ・イスパーダ』!」


 進化した直後の使い方と同じ光の斬撃を放つ。

 だが、使い方を少しだけ変えた。剣に込めた“力”を全て放つのではなく、七割ほどに調整する。その光の刃は先ほどよりも明らかに小さく、光も強くないが、大量の盾を退けて皮膚を傷つけるほどの威力があった。


 カテリーナはアビリティを放ってもまだ余力があったので、ナナカの協力を得ずともその場から離れる事が出来た。そして剣に残った“力”でヒードラの水の盾と剣を退ける。

 その状態でアビリティが再度使えるようになるのを待つのである。そしてアビリティが使えるようになれば、再度剣に光を纏わせる。


 そこからのカテリーナの戦いは作業であった。

 明らかに強くなった『光の剣セントリカオ・イスパーダ』を使って水の武器を退けて次々に光の斬撃でヒードラの体に傷をつけていく。

 だが、全力ではないカテリーナの剣はヒードラにそれほど深く傷をつけることができない。


「任せたぞ――」


 カテリーナは一人で戦っているが、ヒードラの身体のどこかで戦っている仲間を信じ、“その時”を待った。

アビリティのついての説明が全然足りてないように思うので、アビリティをメインにした外伝を書いています! 近々公開予定です。またお知らせしますので是非読んで頂けると幸いです。


いつも感想やいいねなどをくださり、ありがとうございます。とても執筆の励みになっています!

また「@otogrostone」というアカウントでツイッターもしておりますので、よかったらフォローもお願いします!

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更新ありがとうございます! 外伝の方も楽しみに待ってます!
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