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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第八十五話 シィナⅦ

 ギフトの使い過ぎで頭が熱くなり痛くなっていたシィナは、水中に飛ぶダーゴンの首を見ていた。

 ここまでの道のりは長かった、と自分でも思う。

 期間にしては数年であるが、実感はそれ以上だった。

 一人になった最初は寝ても覚めても仲間のことばかり考えていた。もしくはダーゴンへの恐怖が蘇って体が震えるのだ。夜にうなされて眠れない事も多々あり、自室の部屋の隅でずっと縮こまっていたこともあった。心と体が安定しなかったのである。常にダーゴンの事を思い出し、仲間の記憶が全てすり潰されるのである。シィナにとっては絶望の日々だった。


 それからは神に祈ることで心を助けられた。ひたすらに祈ることで救いを求めたのである。時にはマゴスを出て、十二神教の聖地のひとつに赴き、神父に助言を求める事さえあった。信仰心が無かったらどこかで廃人になっていたのかもしれない。それでも仲間を失う悲しさとダーゴンへの怖さは忘れる事はなかった。


 そんな時期も乗り越えて、『ラヴァ』という新しいパーティーに巡り合うのにも時間がかかった。

 最初はダーゴンを倒せる冒険者に出会わなかったのである。

 もしかしたら、いたのかも知れないが、彼らは自分と巡り合わなかった。縁がなかったとも言えるだろう。

 シィナは依頼を送った全ての冒険者を知ったわけではないが、今にして思うと彼らではダーゴンと戦うのは無理だったのかも知れないと思うほど、マゴスの環境は辛かった。単純にモンスターの実力も高かった。雑魚でさえ、他の迷宮で手こずっているような冒険者が挑むような強さではない。シィナでさえマゴスと相性のいい“水のギフト”を持っていなければ、まだ挑むのは早かったかもしれないと思うほどだった。

それ以外にも多くの壁を乗り越えてここまで来たのだ。


 そして、ナダと出会って、彼の凄さを知った。強さを知った。

 最初は失礼な男かと思った。人の心の隙間に問答無用に入り込み、心の傷など気にしないで踏み込み男だと。だが、それすらも彼自身の目的があったのだ。後にマゴスに賭ける彼の熱意に、シィナは納得できた。

 過去には、ソロで冒険を続ける奇人とも思ったことがある冒険者だ。

 冒険者としての栄誉には興味がなく、ただただ迷宮に潜る冒険者。最初は情報を聞くとお金を稼ぎたいだけの冒険者かと思った。実力はあったので、数年前の当時からカルヴァオンの獲得量が多かったからである。もしもマゴスで一人あたりのカルヴァオン獲得量なら、ソロの時代でも余裕で一位と言えるだろう。

 実力は超一流。多数のパーティーからも誘われている。それなのにソロにこだわる彼は、やはりシィナから見れば変態だとしか思えなかった。

 だが、彼の行動には全て意味があったのだ。

 ――マゴスの完全攻略。それを目指せないパーティーメンバーなど、彼には眼中になかったのだ。

 金を稼ぐ事などにはもう興味はない。既に多額の金額を手に入れているのだから。マゴスでも稼いでいる金額だけならトップクラスであろう。もしかしたらパライゾ王国全体で見ても上の方だと思う。

 その理由も、『ラヴァ』に入ったのちに彼は語ってくれた。


 彼は“石化病”という奇病にかかっている。

 胸が石ころのように固くなり、地上にいると時々激痛を発するのだと言う。迷宮内でのみかかるその奇病を治す方法を見つけるため、迷宮に潜り、果てには四大迷宮の攻略を目指していると言った。

 なんという目標だろうか、とシィナは思う。

 現在から過去に至るまで、そんな事を成し遂げたのはアダマスだけであり、ナダはそんなアダマスの後を追っているのだと、淡々と言っていた。


 そんなナダと出会って、『ラヴァ』と出会って本当によかったと、今になってシィナは自身をもって言えるだろう。

 彼らはマゴスにいる他のパーティーと同じく、本気でマゴスの攻略を狙っていた。

 リーダーであるナダは当然の事、マゴスへの思いが人一倍強いオウロ。ナダを一番に信頼しているニレナ。それについてきたナナカ。『ラヴァ』が見出した冒険者であるカテリーナ。

 きっと誰もがナダの輝きにつられたメンバーなのだろう。

 特にシィナの後に入ったハイスは、彼に感化されて入った冒険者だった。パーティーの方針や冒険の方向性に口をはさむことはあっても、それは彼の今までの冒険からのアドバイスであって時に賛成し、時にすり潰していた。だが、彼のような熟練の冒険者がいることによって『ラヴァ』はより高みを目指すことができた。


 シィナは思う。

 自分自身もこのパーティーに入ることで成長できたと。

 冒険者として、何よりギフト使いとしてこのように高みへと昇ることが出来た。


 今となっては、『ダーゴン』を倒すことが自分の第一目標だったはずなのに、このように冒険者として『アルデバラン』にいる時よりも大きく成長できたことが、『ラヴァ』に所属した最大の成果かもしれないと自分でも思うほどなのだ。

 ダーゴンに勝った。

 倒すことが出来た。

 この結果はひとえに仲間のおかげであるが、自分自身の成長が無ければなしえなかった結果だ。

 仲間に水のギフトの祝福を施しながら、さらに足場を作ると言うギフトを使い、さらには敵のモンスターの攻撃まで対処すると言う三重苦を強いられたのだ。過去の自分ではきっと無理だったと思う。

 強くならなければ、仲間のサポートの前に自分は倒れている。


 だが、それをも乗り越えて自分はここに立っている。

 当初の目的も達成できた。

 ――ダーゴンの討伐だ。

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シィナ良かったですねえ報われた!
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