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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第八十三話 底Ⅹ

 ダーゴンの宣戦布告を受けたナダは、内心腹が立っていた。まさかモンスターに手加減されていたとは思わなかった。それもただ。遊ばれているだけ。こんな屈辱を受けたのは初めてだった。


 そもそもナダはモンスターに命を弄ばれた事がなかった。いや、殆どの冒険者がそうであろう。

 一般的にモンスターには知能が殆どないとされている。本能の赴くがままに、冒険者を殺すだけだ。一番近くにいる標的に牙や爪を向けるだけ。通常のモンスターならば、誰がそのモンスターの攻撃を受けるのか、パーティー内で殆ど決まっている。


 だが、ダーゴンは他のモンスターとは違う”はぐれ”である。

 知能がある。

 狡猾なモンスターだ。

 ナダは互角に戦えるまで戦力が上がったとしても、油断はしない。静かにダーゴンへの殺意を高めて、今までと同じように殺すだけだ。そもそもモンスターを殺すのに理由なんていらないのだ。


 敵意むき出しの表情を浮かべていたダーゴンは、打って変わって余裕綽々の表情をしてナダを見下した。

 ――お前など、いつでも殺せるぞ、と言ったような顔だ。

 愚弄しているかのようにダーゴンはナダへと、水で作った輪っかを何度も放った。威力もなかった。単なるお遊びだろうか。

 いや、違う、とナダはすぐに気づいた。

 それらの水の輪っかはナダに近づくと同時に爆弾のように――破裂した。

 

 左へと回避行動をとったナダ。

 先ほどの表情の意図が分かった。

 ――擬態である。

 ダーゴンは遊ぶ気なんて毛頭ない。こちらを挑発し、慌てさせて、その隙を狙っているのだ。


「かっ――」


 そんなダーゴンに騙されないと言う強い意思を込めて、ナダは丹田に力を入れて息を吐いた。気が引き締まる。

 周りの全てを忘れてダーゴンの一挙手一投足に集中する。

 どの行動も、こちらを殺すための布石だと覚悟したのだ。


 ふとナダは、浮遊感を感じた。

 シィナだ。彼女のギフトの脈動を感じる。

 一人で戦っている。それなのにこんなにも仲間の事を強く意識するのは久しぶりだった。とても頼もしかった。

 ナダはシィナの力の動きに逆らうことなく、空中にいるダーゴン目がけて強く地面を蹴った。


 たったの一歩でダーゴンへと近づく。

 そのままの勢いで陸黒龍之顎を全力で振るうが、先ほどとは違う水の壁の手ごたえを感じる。ダーゴンの作った壁であろう。だが、シィナの助力を借りたナダはその壁もろとも斬り裂いた。

 ダーゴンの槍に阻まれたが、阻まれなければきっとダーゴンを斬り裂いていただろう。


 ダーゴンはナダから距離を取る。

 渦をゆっくりとナダに向かって幾つも出し、その合間をぬって水の弾丸を放つ。水流のようになっているそれらは水に動きが出来るため、目を凝らせば見る事は出来る。だから避けるのは容易かった。

 ナダはダーゴンとの戦い始めと同じようにシィナが作り出す水の壁を蹴って左右上下に不規則に動く。ナダの周りに限っては重力がない。自分から見える方向の空間に移動することが出来る。下から繰れば頭上に移動して躱し、そのまま右へ左へ、空中を飛ぶ鳥のように移動できる。

 地面に立っているシィナからは、ナダ達の動きは空中に描く無造作の絵のように予想しずらく見えるだろう。


 ナダはその動きをもうマスターしていた。ダーゴンまで移動する。そのスピードはこれまでで一番早い。シィナがナダの身体が受ける水の抵抗をなくしているからだ。

 その速さをたもったまま、ナダ幾度となく武器を振るう。

 陸黒龍之顎、陸黒龍之顎、青龍偃月刀。未だに大剣と大槍の二刀流は発展途上。楽々と扱えるようになったからこそ、また扱い方が変わるのではある。


 だが、これで武器の振るうスピードはダーゴンと重なっている。それでいてこちらは手札が多い。ナダは果敢に攻めるだけだった。


 ダーゴンはナダへと体を向けながら両足を使って後ろへ逃げるように避け続ける。ナダは弾丸のようなダーゴンへ追従する。弾丸のような大槍の突き。ダーゴンは上体を大きく逸らす。体が伸び切ったナダへ尾びれで叩くが、ナダの大剣が防ぐ。両者の動きが一瞬止まる。ナダが伸ばした右手を振り回してダーゴンの腹を狙う。

 ダーゴンの左手の水が圧縮されていた。その水が大盾をかたどり、ナダの攻撃を防ぐ。

 防がれた反動を利用してナダは大剣を振るう。ダーゴンの黄金の槍とかち合った。互角だった。ナダの手に金属が響く。

 ダーゴンは左手の大盾を変化させる。今度は武器へ。形は槍。だがそれは右手の刺す専用の槍とは違い、斬るための槍だ。まるでハルバードのような大きな斧が二つついたかのような槍を形どる。

 ナダの大剣と、ダーゴンの水の槍が重なる。固さは互角だった。速さも互角。力も互角。二つの武器は静止するかのようにぶつかりあって止まる。ただ、ナダはその槍の斧部分ではなく、柄の場所とぶつかりあった。当たる箇所を調整したのだ。先端の斧の部分に触れあえば流石に力負けをすると思ったからだ。何故ならダーゴンの身体は大きい。人である大きなナダはちっぽけな存在でしかないのだ。


 ダーゴンはぶつかった瞬間に水の槍を消す。力を込めていたナダは一瞬体が前へとよろめく。その隙を狙って黄金の槍がナダに向かって連続で飛ぶ。最初の二発は大槍の刃と石付きで捌くことが出来た。三発目は水を蹴ってダーゴンから距離を取ろうとする。

 ダーゴンはそこを逃がしはしない。尾びれを使ってナダを追いかける。ナダの急所である心臓と頭を狙って連続突き。ナダは体を入れ替えるように水を蹴り、ダーゴンへと迫る黄金の槍の先端の間を狙って青龍偃月刀をかませるように振るう。

 はまった。

 だが、ナダの振りはまだ力が乗る前だったので大きくバランスを崩しながら飛ばされる。ダメージはない。体を乱回転させながら距離が開いたのだ。ナダはその状態でもダーゴンから目を離さない。体を止めるようにダーゴンを見ている背後に両足と左手で大きく面積を取ると強く水の壁を感じる。簡単には止まらない。


 ダーゴンが迫り来る。ダーゴンの武器はまた変わっていた。黄金の槍を水の槍が形を変えて包み、ダーゴンの身長を超えるほどの大きな槍となった。形は変わらない。三つ又の槍だ。トライデントだ。だが、大きさがナダの何倍もある。そんな槍でナダに襲い掛かる。

 ナダは飛ばされた勢いは止まっていないが、体勢が安定したので、ダーゴンの槍を横へと避けるように水を蹴る。

 ダーゴンの黄金の水槍は空振りした。するとダーゴンの水の槍がまた姿を変える。今度はトライデントからナダの青龍偃月刀のような姿へ。斬る槍の形へ。それをダーゴンは頭上に掲げ、ナダへとより一層勢いをつけて両手で振り下ろす。

2月も更新できてよかったです。

今月はもうあと何回か更新する予定です!


もし作品を見て面白いと思われたら、感想などを頂けるととても嬉しいです!

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