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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第八十二話 底Ⅸ

終わりの水アグア・フィナウ』。

 そのギフトの本質はニレナの『氷の世界』と同じく、空間を支配することである。だが、ニレナのように全ての空間を凍らせることなど出来ない。水と氷では役割が違う。

 “もしもここが地上なら窒息させる”ギフトになるのだろうが、彼らにはそんなことをしてもえらがあるので意味がない。

 自らの力では殺せない。

 締め付けても全力で抵抗される。

 そもそも水は彼らの敷地内である。

 勝負しようとも思わなかった。


 だからシィナは別の方向を目指した。

 彼女が目指したのは“ナダのサポート”である。

 彼の状況はよく分かっている。ダーゴンと戦っている姿をよく観察していた。今はダーゴンの水による水圧と渦によって徐々に削られているのだ。そんな彼に必要なアプローチとして、シィナが最初に取り掛かったのはナダへ重たい水からの解放である。


 シィナはギフトを使って、ダーゴンの水に全力で抵抗した。すると、彼の一歩で体は大きく水中へ浮き上がることになる。

 ナダは自分の身体の変化について、驚いた目でシィナを見つめていた。


 ほら――これで戦えるでしょ?


 シィナはうっとりとした表情で、ナダを誘うように語った。

 さらに水の方向性を変える。ナダが動く方には水は逆らわせず、彼の後押しをするように。


 ――当然だ。


 とばかりに、ナダも獰猛な歯を見せて嗤う。

 これでようやく戦えるとばかりに。

 すぐにナダは体をダーゴンに向けて、シィナが作る水の道を強く蹴った。

 シィナの視界の中で、ヒードラに加勢しようとしているダーゴンに追いつくナダが見える。シィナが続けざまにナダへのサポートとして行ったのは、彼の持つ二つの重量武器、青龍偃月刀と陸黒龍之顎の重さからの解放だった。二つの武器をシィナの水が包んで一緒に支えるのだ。


 力を温存するように優雅に泳ぐダーゴンに追いついたナダは、両方の武器を先ほどとは信じられないほどの速さで振り下ろした。

 反応したダーゴンが黄金の槍で受け止めるが、二つの武器の重さ、ナダの力、それにシィナの水を足した威力はダーゴンを地面に落とそうとするほどの威力が出た。


 だが、ダーゴンはそれでも負けやしない。

 すぐに体を翻してナダから離れようとする。

 ナダもそんなダーゴンを追いかけるように大剣を振るった。ダーゴンは体を捩って避ける。青龍偃月刀で突いても、上へと逃げられる。今度は逃がしはしないとばかりにナダは水中を強く蹴った。一歩でダーゴンに追いつく。ダーゴンの槍捌きのように今度はナダがダーゴンを突く。ダーゴンの皮膚に掠るが、蛇のように不規則なダーゴンの動きをまだナダが捉え切れてなかった。


 ダーゴンも負けずと渦を幾つかナダの周りに発生させた。だが、シィナがすぐに対処し、渦は少しずつ小さくなる。ナダは先ほどまでとは違い、そんな渦に意も介さず陸黒龍之顎で薙ぎ払った。腹部を浅く斬りつける。渦に集中していたためダーゴンの反応が一瞬遅れたのだ。


 この場で倒しきるようにナダは青龍偃月刀でダーゴンの心臓を狙おうとするが、ダーゴンが吠えた。

ナダの鼓膜を破壊しようとする攻撃。肌を揺らし、内部まで振動させる。それでもナダの攻撃は止まらないが、力が増したダーゴンの黄金の槍は青龍偃月を簡単に上に弾いた。ナダの胴体ががら空きになる。ダーゴンはその場で一回転する。尾びれのような足で殴った。陸黒龍之顎で守ろうとするが間に合わない。まともに食らう。砂の地面まで飛ばされるが、シィナによって優しい水に包まれたダーゴンの攻撃は柔らかく、ナダにダメージはあまりなかった。


 ナダが見上げる形でダーゴンが水中に立っていた。

 黄金の槍を両手で胸の前で持ち、ナダを見下ろすような形で睨んでいる。その姿はまるで“王”だった。自身を脅かす愚民を認めない王だった。きっとダーゴンは王として、圧倒的な力を見せつけるようにナダを殺すつもりなのだ。もう遊ぶつもりもないのだろう。


 その状態のまま、モンスターとしての猛然たる姿を見せつけるように大きな口を開いてダーゴンはもう一度強く吠えた。

 それはナダへの攻撃が目的ではなく、威嚇が目的なのだろう。

 現にナダへ、いやそれ以上にこの空間全てへ向かって。水の力を放つ。


 遠くで水のギフトを使っているシィナにまで、ダーゴンの水圧、いや、殺気のようなものが伝わる。

 水を介して、ダーゴンは本気になったのである。

 これまでナダとの戦闘を見ていたが、きっとこれまでのダーゴンはナダ相手に本気を出していなかったのだろう。思い返せば、ナダがダーゴンの皮膚を斬ったのは先ほどが初めてである。それでダーゴンの戦闘本能に“火”がついたと言ってもいいのかもしれない。


 ここからが本当の戦いのなのだと、シィナは本当の意味で気づいた。

 これまでの戦いは前哨戦で、これまでのどんなモンスターよりも強く見えたダーゴンの攻撃は、いわゆる遊びでしかなかったのかも知れない。今にしても思えば、こんなに必死な形相は『アルデバラン』で戦った時にも見た事はなかった。


 だが、シィナは負けるつもりはなかった。

 今度こそ本当にダーゴンに勝てるかもしれないのだ。ダーゴンが傷を負った姿をシィナは初めて見た。

 これまで得た全てをシィナは注ぐつもりだった。

 だから、ナダへの水圧をシィナは全て相殺する。ダーゴンのように動きながら、それもあれだけ泳いで槍を振って、攻撃を避けて、それに合わせて“水”を使うなどシィナには到底できない事だが、“水”だけなら対抗できる。

 反撃の狼煙として、シィナはナダの周りに水流を作り、その行き先をダーゴンに向ける。

少し短いですが、前回からそんなに間を空けず更新することが出来ました!


もし作品を見て面白いと思われたら、感想などを頂けるととても嬉しいです!

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