第八十一話 底Ⅷ
明けましておめでとうございます!
いつも読んで頂いている皆様、今年もよろしくお願いします。
今年の抱負としましては、第四章を書き上げて第五章に進みたいな、と思っていますので末永く読んで頂けると幸いです!
ナダは青龍偃月刀をつかみ取った時から、力を感じていた。
ナダ自身は何も変わっていない。さらに右手に青龍偃月刀を、左手に陸黒龍之顎を持っているので、一つの武器に込められる力は減っている。どちらの武器も重量武器なので両腕に伸し掛かる重量は大きいが、ナダの人外れた膂力と“熱”が二つの武器を操ることを可能にしてくれる。と言っても、満身創痍であるが。
ナダは二つの武器を両手でぶら下げるように持つと、自然と地面に降りて行った。武器を持ったことでナダの重量が上がったからだろうか。もしくはダーゴンの持つ水による圧力のせいか。
ナダが武器を二つ持ったことにより、ダーゴンはこちらへの攻撃をいったん止めた。様子を伺っているのだろうか。こちらを値踏みするように見ている。
ナダはその視線に気づきながらも歩くように近づくことしか出来ない。どうせ相手の方が速さは上なのだから。
ナダが相手の制空圏に近づく前にダーゴンは一歩踏み込んで黄金の槍を突いてきたので、左手の陸黒龍之顎で弾く。力負けをしたが、攻撃を反らすのに問題はない。続けざまに右手の青龍偃月刀をダーゴンへと伸ばす。体を捩られて避けられるが、ナダは手ごたえを感じていた。
攻撃は当たっていない。
だが、ナダはこの攻撃に可能性を感じ果敢に攻める。
陸黒龍之顎で薙ぎ払った
青龍偃月刀を振り下ろした。
相手の槍を陸黒龍之顎で弾いた。
青龍偃月刀を振り回した
陸黒龍之顎と青龍偃月刀を同時に振り下ろした。
負けじとダーゴンも足を止めてナダに対抗する。
隙を見つけてナダに黄金の槍で突こうとするが、ナダはその攻撃の軌道が見えたと共に青龍偃月刀で払うかのように攻撃を反らす。もうダーゴンの動きは大体見切っているのだ。
その勢いのままにナダは陸黒龍之顎を振るう。潜るように避けられた。振り返りざまに尻尾を振られるが、肩で弾くように受ける。ダーゴンの尾が固いだけなら、受けても打撲にしかならない。激痛が奔るが、ナダは気にもならないかのように青龍偃月刀を全力で伸ばした。
だが、その攻撃すらも避けられる。
どの攻撃もダーゴンに当たりはしないが、攻撃の手段が二つに増えた事により、ダーゴンは戸惑ったようにナダから距離を取った。
「ちっ――」
ナダは大きな舌打ちをした。
この攻撃がダーゴンに通じる事は確かだが、この場は足場と環境が悪い。距離を離れられればナダにはどうすることも出来なかった。
追いつけない。
ナダの機動力は先ほどよりも大きく下がっている。
この状況で走るなど、とてもじゃないができるわけじゃなかった。
それは力が、“熱”があっても変わりはしない。
常人ならどちらの武器を一つだけ持ったとしても満足に持てないような重さを誇る武器だ。冒険者なら幾分かマシだろうが、ナダのように十二分に振り回せるものは限られるだろう。それを迷宮内で携帯して時には走ることすら出来るナダが異常だったのだ。
さらに地上ではなく水中という水の抵抗が強い中で、ダーゴンによる水圧も加わっている。シィナの力が無ければとうの昔にぺしゃんこになっているかもしれないのだ。
だから、ナダには待つか、歩いて近づくことしか出来なかった
ダーゴンはナダから離れるとより水圧を強くして動きを封じ、何度も渦を放ってくる。
ナダは体を必死に動かしながら避けるが、動きが鈍いので最初の一撃を喰らってしまう。直接体にまともに受けてしまう。体がねじ切れるような力を受けるがナダは全身に“熱”が回っている。体に力が入っているからこそナダは耐える事ができた。
それから何度かの渦を受けるが、ナダはより強く体に“熱”を回し、その場で床に武器を刺して、歯を食いしばりながら耐える。
本当なら口から絶叫し、痛みにのたうち回るような痛みであるが、ダーゴンにそんな弱みは見せたくなかったのでナダは不敵に微笑む。
この程度の攻撃、屁でもないぞ、と。
その黄金の槍で刺さなければ殺せないぞ、と。
ナダが七発渦を喰らっても倒れるどころかダーゴンに一歩ずつ歩いて行く。走りはしない。両手に持っている武器が重すぎて走れるほどの力がナダには足りなかったのだ。
ダーゴンはそんなナダを見て、今度は先ほどナダを蹂躙した時のように槍を構える。
突進する構えだ。
ナダもその攻撃が分かっているので、迎え撃つ気満々だった。
左肩に陸黒龍之顎を担ぎ上げ、青龍偃月刀はだらんとぶら下げるように待つ。
ナダはこれまで様々な武器を、時には二刀流を扱う事もままあったが、大型武器を二つも持つことはなかった。軽量武器を二つか、大型武器のサブに小型武器などを持つのだ。
おそらく冒険者の中でもナダしかしないであろう武器の選択。決まった構えなど学園にも記されていないだろう。
だから、この武器の扱い方はナダが生み出すしかない。
ナダは特定の流派を習得しておらず、基本的な武器の扱いしか知らないため、自身にとっての到達点は自然体だと思っている。
力を込める事しか出来ないが、力を抜くことが大事だと本能で知っているのだ。
ナダは正面から真っすぐ襲ってくるダーゴンに対し、タイミングを見極め全力で二つの武器を振り下ろした。
だが、ナダが叩いたのは地面であり、そこにダーゴンはいない。
ダーゴンは逃げたのだ。
これまでなら連続攻撃をしかけるダーゴンだったが、こちらに近づいてすら来ない。
「まずいな――」
そんな弱気がナダの口から漏れた。
もしもこのままずっとダーゴンに距離を開けられたら、ナダに近づく手段はない。それどころか、このままヒードラの戦線に合流されるとラヴァは崩壊してしまう。
それだけはまずかった。
こんな状況になったらナダの思考はすぐに変わる。
リーダーとしてダーゴンを倒すのではなく、惹きつける方に。
だが、どうすればいい?
どちらかの武器を手放せばいいのか?
そうすればダーゴンへの対抗策がなくなる。
新しい変化がいる。
ナダにはその方法が一つも思いつかなかった。
やはり武器を捨てるしか手立てが――
そこまで考えた時、ナダの耳に声が聞こえた。
「――溢れ出す清らかな水の神」
シィナの声だ。
彼女とは距離が離れている筈なのに、透き通るようなその祝詞はナダの耳によく届いた。
こちらに向けて言っているからなのかもしれない。
「幾多もの姿に、形を変え、溢れて、纏わり、包み込む、不定なる水の神よ。私が望むのは、全てが底に沈んだ水の世界。一切の光も届かぬ暗黒の世界。嗚呼、水の神よ、我が親愛なる神よ、世界に終焉を――」
そのギフトをナダは聞いた事がない。
事前の話し合いでもシィナから語られることはなかった。
つまりこれはシィナの新しいギフトの形であると、ナダはすぐに気づいた。
さらに一瞬だけ目をヒードラに向けると、仲間の足場がニレナの氷によって作られている事が分かった。
つまり、シィナは全てのギフトの力をダーゴンへと集中するつもりなのだ
「――『終わりの水』」
そして、シィナのギフトが紡がれる。
その瞬間、“ナダの世界”が一変した。




