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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第七十七話 シィナⅢ

 シィナが呼ばれたのはたまたまだった。

 シィナはフリーの冒険者として活動していて、ルードルフはフリーのギフト使いを求めている。

 その条件がたまたまかみ合っただけだった。

 その時に、シィナはルードルフの本当の強さを知った。


 圧巻だった。

 

 彼のアビリティの名を『騎士の栄光カヴァレイロ・グロリア』という。

 シィナも後に知った事だが、様々な構えを取る事で色々な効果を発揮するアビリティだった。

 しかしながら構えを取るだけなら弱いアビリティである。もっとも単純な上段の構えを取れば、少しだけ剣の威力が上がるだけで浅層のモンスターも満足に倒せない。その強さを発揮するのは構えを持続した“時間”によって威力や効果が変わるからである。

 一言で言えば、構えを長くとると例えば上段の構えなら一撃で中層のモンスターでも通じる威力が出せるのである。


 さらに、構えによって彼のアビリティは大きく姿を変える。斬撃を放つ構えもあれば、足を速める構えもある。万能とは言わないまでも、待ちに徹すれば、あらゆる状況に対応できるアビリティだった。


 彼の弱点は“待つ”ことだけ。

 ソロで活動していた場面もあってか、一人での待ち方も上手かった。構えたまま足だけを動かす、や、相手から距離を取って先に待っておく、など様々な工夫を取りながら自分にとって最適の冒険を彩っていたのだ。


 臨時でルードルフのパーティーに入ったシィナの仕事は弱いモンスターの除去、もしくは足止めだった。様々な役割をこなせるシィナはその冒険の時々によって役割を変えていた。

 そして、そんなシィナに嚙み合うようにルードルフは冒険をしていった。

 その繋ぎにアリーシャも役立っていた。彼女はパーティーの“荷物番”を担うと共に、ワープという瞬間移動も行える。状況によってではあるが、モンスターがまだ遠くにいる時からルードルフは構えを持続し、そして放つときにワープすることで本来ならある筈の待つ時間をなくす。

 一撃必殺の合わせ技であった。


 その日のシィナはサポートで終わった。

 フリーの冒険者で入ったわりには、破格の報酬だった事をシィナは記憶している。もちろんシィナの助力が合って安定した冒険が出来ているのも勿論であるが、ある程度強いモンスターであってもルードルフが一撃で倒すからかなりのカルヴァオンを稼いだのである。


 それからフリーの冒険者としてシィナはルードルフのパーティーに何度か入ってから、正式に加入することになる。

 最初は自分に嘘をついていた、と思う。

 稼ぎがいいからルードルフのパーティーに入るのだと、本当は彼に興味を持っていたのに、そんな嘘をつきながらルードルフと冒険を行っていく。


 例え安定していても、迷宮探索は命がかかる。その中でたくましい男性に惹かれるのは当然のことと言えるだろう。

 彼は凛々しく、強く、それでいて弱い頃からひたむきで真っすぐな性根も知っている。


「ねえ、これからも一緒に冒険をしたいんだ。一緒にパーティーを組んで欲しい」


 彼からそう言われた時、シィナは感動を受けた。

 最初は暫く考える、と時間をもらった。以前のパーティーのしこりが残っていたのかも知れない。

そんな時、シィナはアリーシャから呼び出された。このパーティーの今後について、自分たちについて、アリーシャ自身の思いなどを深く語り合ったのだ。


「私はね、ルディが好きなの。彼の力になりたい。」


 ルードルフについてのアリーシャの思いも聞いた。アリーシャはルードルフに恋していたのだ。シィナはまだそこまではっきりとしている感情はない。だが、真剣な表情で語るアリーシャにはどこか羨ましさもあって、それでいて前のパーティーメンバーのような嫌な感じもなかった。

 まだ不安はあったが、このパーティーなら自分は冒険者として成長できるのではないか、とも思い始めていた。そして何よりもルードルフと一緒に冒険したいと言う気持ちを持っていた。


 だから――シィナはルードルフのパーティーに入った。

 シィナが入ってすぐにそのパーティーは『アルデバラン』という名前が付けられる。

 シィナは『アルデバラン』に入った直後のことをよく覚えている。

 迷宮探索が終われば、毎日パーティーで会議をし、次の冒険に向けて話し合っていた。白熱することもあったが、各々が次の迷宮探索へと向けて発現する。そのどれもがシィナの冒険者としての力を高めるいい機会だった。

 時にはより深い所へ潜り、時にははぐれを倒し、またある時は黄昏時や黎明時の冒険をする。どれもが刺激的で充実的な日々だった。

 また、その合間にもルードルフやアリーシャと仲を深め合った。アリーシャとは喧嘩をすることもよくあったが、いい関係だったと思う。


 そしてジュリア、ケリーなどのパーティーメンバーが増えて、『アルデバラン』としてより活躍していく。宝玉祭にも呼ばれて、国王から勲章をもらうことも何度かあった。

 冒険者として至極の時を過ごしていたと思う。


 それからシィナ達は転機を迎える。

 その頃には王都でのパーティーとして、『アルデバラン』は成熟を迎えていた。王都内でのパーティーのカルヴァオン獲得量では、ランキングで二桁に入るほどのパーティーになっており、もう少しで一桁に届く。僅か二年ほどの結成年月の申請パーティーなら信じられないほどの快挙だった。

 何故なら王都は歴史あるパーティーが多い。過去に英雄が作ったパーティーも多く存在する。そんな中で新しく作ったパーティーで一年もかかららずに、もう少しで一桁に届くほどのパーティーに届くのは随分と久しぶりの事だった。


 その最も大きい要素はルードルフの覚醒だろうが、それ以外にも偶然に重なる分が多い。

 ルードルフと相性がとてもよくサポートにも優れているアリーシャ。ギフト使いとして万能なシィナ。そしてジュリア、ケリーと最初はそうでもなかったアビリティ使いがルードルフと関わる事で、彼によって引き伸ばされて王都でも有数なアビリティ使いとなった。


 そして――四大迷宮が開かれる

 インペラドルでは既に深層に潜っていた『アルデバラン』は、これ以上できる事はカルヴァオンの獲得量をこれまで以上にシビアに上げるか、はぐれを倒すしか“冒険”はなかった。

 シィナ自身も“今”の冒険に飽きていたころに、新しい迷宮が開かれたのだ。


 仲間達で話し合ったのち、四大迷宮の一つ、マゴスへと『アルデバラン』は拠点を移すことになった。

 シィナも新しい環境、新たな冒険、より冒険者として深みを与える挑戦にワクワクしていたと言ってもいいだろう。


 マゴスの攻略は新鮮だった。

 インペラドルでは、既に先人達が迷宮探索の攻略方法を築いている。そこに改善の余地はほぼなく、かつてのルートの中でいかにオリジナリティを出して早くカルヴァオンを得るかが試されている。だから自分たちが歩んできたのは先人たちの結晶であり、その恩恵を最大に受けていた。


 だが、マゴスは違う。

 出現したのは数百年ぶりか、それ以上。古い文献しかなく、攻略にはあまり役には立たない。だからマゴスでの攻略は自分たちで探すしかなかった。


 『アルデバラン』がマゴスへと移った当初はまだホーパバンヨすら出来ておらず、試行錯誤の日々が続いていた。

 最初はインペラドルと同じ金属やモンスターの鎧を着ていたが、マゴスの環境では重たく役には立たなかった。だから全身に鎧を付けるのはやめて、胸や腰などの重要な部分だけつけるなどの工夫をしていた。

 それから多くの冒険者によってダンジョン内のマッピングをし、『アルデバラン』も一役かった。


 その間にはパーティーも変わっていった。

 マゴスの環境にアビリティがどうしても馴染めなかったジュリアは抜けて王都へと戻り、新しいメンバーを模索した。ライナと呼ばれるメンバーが結果的に入ったが、ナダをメンバーへとルードルフが誘う事もあったらしい。断られたらしいが。


 日々大変であったが、インペラドルとは違ってまた一つ冒険者としての厳しい道程を登っているかのような充実な日々だった。


 ――あの日、までは。

約二か月ぶりの更新ということで、皆様お待たせしました!

シィナの話はもう少し続きますのでご容赦ください!


もし作品を見て面白いと思われたら、感想などを頂けるととても嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
ルードルフのアビリティはそういうのだったんですねえ。 明かされてなかったから、故人ですけどどんなのだったのかなーと思ってました!
更新ありがとうございます! 元落ちこぼれのルードルフが英雄にもなれるアビリティというのが溜め待ち系というのはかなり納得感がありました。 ダーゴンに通じずに絶望する姿が早くみたいです(笑) 前回更新…
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