第四十九話 ハイスⅡ
「あり得ない、断る――」
ナダの勧誘にハイスは即座に断った。
とても嫌そうな顔をしており、微塵もナダのパーティーには入りたくないようである。
「そうかよ。少しは考えてくれてもいいんだがな。まあ、その辺りを詳しく話し合おうぜ。座れよ――」
ナダは誰も座っていないハイスの椅子を指差した。
ハイスは舌打ちをしながら座りなおした。
ナダは大声を出して店員を呼び、もう一度エール酒を二杯と幾つかの料理を注文する。エール酒が来るとナダはハイスともう一度木製のグラスをぶつけ合い、分厚く焼いた肉をフォークで食べている。
「でも、いい条件だろう?」
ナダは肉をもしゃもしゃと食べながら言う。
「そうだな。オレはてっきりナダには断られると思っていたんだけど、まさかそんな魅力的な話をしてくるとは思わなかったよ。見直したと言ってもいい」
「じゃあ受け入れてくれてもいいんじゃないか?」
「もう一度言うがそれはあり得ない」
「どうしてあり得ないんだよ?」
「知っているとは思うけど、オレには既にパーティーがある。オレがリーダーを務める大切なパーティーだ」
「『コーブラ』だろう?」
「そうだ。オレが一から作り上げた大切なパーティーだ。それを捨てるなんて信じられない」
ハイスは強い口調で言う。
「別に捨てろ、とは言ってねえさ。短期間だけ俺のパーティーに所属してくれればいい。迷宮の攻略を手伝うだけさ」
「ふん、確かに短期間パーティーから抜ける事は可能だ。『コーブラ』には代理のリーダーを立てて、暫くの間活動させればいい」
「だろう?」
「だけどね、ナダがいるパーティーに所属するなんて信じられない。特に得体の知れない冒険者がリーダーをしているパーティーにはね。オレはね、ナダ――リーダーなんだよ」
「知っているさ」
「長らくの間、リーダーをしている。誰かの下に就くなんて考えられないんだよ」
「たまには気分転換にパーティーメンバーの一員として働くのもいいと思うぞ」
「オレも優れた冒険者の下なら考えるさ。有名なパーティー、熟練のリーダーなどでパーティーメンバーになるのは冒険者としてとてもいいキャリアにある。時にはアビリティの有能さより、どんなパーティーに所属していたかが冒険者としての評価の対象になることだってある」
冒険者の経歴は組合によって厳しく管理されている。
どんなパーティーに所属していたかは、新しくパーティーに入る際の評価基準の一つになる。もちろんそれだけではないのだが、有名なパーティーに長らく所属していた経歴があれば、高く評価されやすいのも事実だ。
一方でフリーの冒険者として長らく活動していると、固定のパーティーに所属することが難しくなる。どこかのパーティーに正式に所属していないのは、何らかの問題があるとみなされやすいのだ。
「俺のパーティーじゃあ、駄目だって言うのか?」
「その通りだ。君のように、冒険者としてのキャリアが足りない者の下に就けば、オレの経歴に傷がつく。入るわけがない――」
「――マゴスの奥に続く道を見つけた、と言ってもか?」
「なに?」
ハイスは眉をひそめた。
「さっきも言っただろう。俺の目的はマゴスの完全攻略。その糸口は既に掴んでいる――」
「本当か?」
「嘘だと思うのかよ?」
「いや、ニレナさんが所属しているんだ。その可能性だって十二分にあり得るか。だけど、マゴスの完全攻略は君には無理な話さ」
ハイスはせせら笑った。
「どうしてだよ?」
「――力が足りないんだよ」
「なに?」
「君は英雄と呼ばれる者の力を知っているかい? 過去に迷宮を完全攻略した者の事さ」
「知ってるさ――」
ナダは懐かしむように言う。
実際に何人もの英雄に会ったからだ。
「彼らはね、英雄になる前から活躍していたんだよ。君のように無名な冒険者が、英雄と同じことを果たすだってあり得ないさ――」
「確かにそうかもな――」
ナダはハイスの意見に同意した。
ナダの知っている偉大な英雄たちと比べると、自分はまだまだ力が足りない。
それは英雄病を患っていたとしてもだ。
長年英雄として活動している彼らと比べると、自分はまだまだ弱い。ナダの知っている英雄の姿を思い出すたび、数々の差を感じる。
「だろう?」
「だがな――俺は迷宮を攻略しなくてはならない」
「言葉ではなんだって言えるさ――」
「証拠が欲しいのか?」
「そうだな。君が優秀な冒険者だと言う証拠が欲しい。君には何がある? 誰もが欲しがるようなアビリティか? それとも神のごときギフトか? どちらも持っていないだろう?」
「そうだな――」
ナダは頷いた。
「だとすれば君は優れた経歴を持っているのかね? オケアヌスにある数々のパーティーと同格のパーティーに所属したことがあるとでも? 学生時代は偉大なパーティーに所属していたらしいけど、それも短い間。ずっとソロで活動してきたはずだ。それは君が冒険者として未熟だからではないのか?」
「そうかも知れないな――」
ナダは二度ほどパーティーを追い出されたが、その理由はいずれもギフトやアビリティを持っていない事だった。
“異能”が冒険者の最も重要な評価基準である現代において、どちらも持っていないナダは常に最低の評価になりやすい。
運よく『アギヤ』という過去に優れた冒険者が作った偉大な歴史があるパーティーに所属した事もあるが、自身の冒険者としての歴史を振り返るとそう長い間ではない。まだまだ若造のナダにとって、輝かしい経歴はほんの一瞬だけなのだ。
はぐれは幾つか倒してきたが、パーティーを組んでいる冒険者の中には自分よりはぐれを狩っている冒険者も大勢いる。ナダはそれほど頻繁な間、コンスタントにはぐれを狩っていたわけではないのだ。
「ならばリーダーとしての経験は? ないだろう? 君はずっとソロ、もしくは誰かのパーティーメンバーだったんだろう? そんな初心者リーダーの下に就く冒険者がいるとでも?
「確かに、俺だったら所属しないな――」
ナダは困ったように笑う。
ナダはリーダーになったのはつい最近の話だ。それまでのリーダー経験は殆どなかった。
「だろう? 君という冒険者にどんな魅力があるのか、オレに教えてくれないか?」
「冒険者としての魅力、か――」
ナダは冒険者としての自分を振り返る。
いい事はあまり言えない。
リーダーとしては足りないものが多過ぎるし、そもそも冒険者としても十分だとは言えない。
持っているものがただ一つだけあるとすれば――
「ないだろう?
「――いや、ある。“強さ”だ」
ナダにとって自信があることは、はぐれも含めた多くのモンスターをこれまでソロで殺してきた“強さ”だけだ。
有名な英雄たちと比べるとまだまだ力は足りないのかも知れないが、これまでに倒したはぐれは決して弱くはない。
「他の冒険者が弱いと言いたいのかね?」
「オケアヌスにいるどんな冒険者よりも強いさ。ハイスよりも強さだけなら、俺の方が上だ――」
ナダは目の雨にいるハイスに向けて、堂々と言い切った。
負けるわけがない。
自負がある。
冒険者としての経歴、経験、異能、全てがハイスに負けているとしても、強さだけは勝っている自信があった。
「本気かい?」
「証明するか?」
ナダは挑発したように言った。
「なに?」
「一度だけ俺が『コーブラ』に入るから、一緒に冒険をしようぜ。それで俺が英雄と同じ所業をするのに相応しい冒険者と思ったのならパーティーに入れよ。さっき言った条件のままで、ハイスに英雄の仲間と言う栄誉を与えてやるよ――」
ナダは極上の言葉でハイスを誘う。




