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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第三十七話 エックスデーⅢ

開けましておめでとうございます!

新年初の投稿に相応しい一話になればいいと思って、気合を入れて書きました。

今年も頑張って更新しますので、応援の程よろしくお願いいたします!

 マゴス内に存在する無数の湖の中で、オウロが選んだのは比較的大きい湖だった。

 ここを選んだ理由はいくつかあるが、他の冒険者に見つからないように出来るだけ深層の場所を選び、これから水中という道の場所を攻略するため見晴らしがいい出来るだけ大きな湖を選んだ。他にも湖の前にある広くなった場所で休憩でき、ここまでの道のりもそう長くはないことなども理由の一つである。またこの湖に繋がる道も多く、いざとなれば逃げる事も出来るだろう。

 前の空間で休んだオウロ達は湖に入る一歩前に、シューヴァがこう提案した。


「ここから先はモンスターのるつぼ。そこに入れば余裕もないだろう。だから先に水の加護を与えておく――」


 彼の提案に断るオウロではなく、シューヴァ以外の六人の冒険者は体に薄い水色の膜のようなものを纏わせる。

 薄い服を着ているような奇妙な感覚があるが、重さは全く感じない。体を動かすのに違和感もなく、この状態なら陸上でもいつも通り動けるだろう。

 この加護については事前に説明を受けており、地上で何度か試している。だから六人は戸惑う様子もなく、そのまま湖のほとりへと足を踏み入れた。


 湖からは今も魚人、あるいはバルバターナが這い出ている。陸に上がって初めて腹ばいから腕を使って二足歩行になるのだ。武器を持っている個体は殆どいなかったので、もしかしたら彼らが迷宮内で武器を持っているのは冒険者から奪ったからかもしれない。

 湖のほとりにいる彼らは通常の個体より強いと聞くが、見た目だけでは迷宮に数多く存在する彼らとそう見分けは付かない。違う点があるとすれば多くの個体が武器を持っていないことだけだ。

 強いと聞いても、所詮はモンスター。所詮はこれまでに殺してきた数多くの魚人、あるいはバルバターナとそう変わらない。狩るのも簡単だろう、と言うのがオウロの見解だった。


 オウロが指示した隊列は先ほどと一緒だ。

 七人とも既に戦闘態勢に入っており、剣を持っている者は既に抜いている。

 オウロが仲間で六人に指示することはたった一つであった。


「――真っ正面から突き破るぞ」


 残念ながら湖のほとりに身を隠せるような障害物はなく、モンスターが隙間なくいるのだ。

 湖に入ろうと思えば邪魔な彼らを殺すしかなく、それ以外の道は残されていなかった。

 六人は頷き、フィリペを先頭に『へスピラサオン』は駆け出した。


「闇の神よ――」


 道を作るために最初に力を行使したのはアナだ。

 彼女は他の仲間と共に走りながら、右手に闇の力を充満させる。紡ぐのは破壊の力であり、仲間の為に目の前でこちらに牙を見せているモンスター達に全力で言葉を紡ぐ。


「――暗黒の主よ、我は千の愚者達をあなた様に捧げましょう。彼らの悲鳴を、彼らの命を、彼らの魂と肉体をあなた様の身元に。我が望むのは彼らの死、我が望むのはあなた様への供物。さすれば我に、破壊の力を与えたまえ――」


 アナが放ったのは、彼女が持つ最大のギフトであり、それは黒紫色の波動となって『へスピラサオン』の前にいる魚人、あるいはバルバターナを襲う。

 闇のギフトの破壊の力とは、曖昧なものだ。その形は人によって違い、効果も使うギフト使いによって大きく違う。

 アナの破壊の力の形は“崩壊”だった。

 黒紫色の波動に当たったモンスターは肉がぼろぼろになって、骨のみとなってその場で崩れ落ちる。薄い水の上に残るのは白い骨と様々な色のカルヴァオンのみをその場に残すのだ。


 湖への道が開けた事で、『へスピラサオン』のメンバーたちは急いでその道を走り抜ける。ギフトを使ったアナのみが肩で息をしているが、そんな彼女に付き添うようにダミアンが横についている。

 もはや地面に落ちた大量のカルヴァオンを拾う仲間すらいなかった。そんなことには目もむけず、七人は真っすぐ湖のみを見つめている。


「はっ!」


 『へスピラサオン』の行く手を阻むかのように、すぐに魚人、あるいはバルバターナが道を防ごうとする。だが、先ほどまでと比べると随分と数が少ない。先頭を進むフィリペにとってその程度の数は敵にもならない。


「水よ――」


 また横から襲ってくるモンスターに対しては、シューヴァが水のギフトを使って小さな水の弾を無数に放っていた。

 それはモンスターを倒すほどの威力はない。

 だが、足を止めるには最良のギフトである。

 それでも歩みを進めるモンスターはタッグを組んでいるロドリゲスとマルセロがそれぞれ左右から剣で対処する。オウロは右と左で、モンスターが多い方を的確に見極めながら剣を振るっていた。

 背後から来る敵はダミアンが『石工の盾ペドレイロ・イクスード』で攻撃を防ぎ、剣で応対する。殺すことにはこだわらない。切り抜けるだけでいいと思っていた。

 このままいけばあと少しで湖に突入できるだろう。


 ――だが、湖の中からひと際大きい魚人、あるいはバルバターナが腹ばいになりながら両生類のように這い出た。

 それは腕をついて立ち上がった。大きな鱗。まぶたがなくよどんだ両目。分厚くたるんだ唇。水かきと爪のついた手。二足歩行の為の太い足。どれも有名な特徴であり、マゴスで長年活動している冒険者であるフィリペはそのモンスターの事をよく知っていた。


「ガラグゴだっ!!」


 大きな声と共にフィリペは急いで足を止めた。

ガラグゴが手を握りしめて大きく上げていたからだ。そして、地面に叩きつける。薄く張った水が大きな音を立てながらはじけた。


「どうするっ!?」


 ガラグゴは地面を叩きながらこちらに近づいてくる。

 どれもが必殺の一撃であり、まともに当たればいかに屈強なフィリペと言えど無傷では済まない。かと言って、横に避けるようなスペースはない。今もモンスターが湖から這い出て、冒険者たちの命を狙っているからだ。

 だからフィリペはリーダーに判断を求めた。

 数多くのモンスターを斬り殺しながら進むのか、それともガラグゴを殺して湖に入るのか、どちらが正しいのかがフィリペには分からなかったからだ。

 どの道を選ぶのかも苦渋の決断であり、もう帰る道は残っていない。後ろも既にモンスターで埋め尽くされているのだ。

 オウロは咄嗟にアナの様子を見た。

 顔色はそれほど良くない。先ほど大掛かりなギフトを使ったのだ。まだほとんど回復していないだろう。このほとりを突破するのに彼女の強力なギフトは使えない。

 多くのモンスターとガラグゴを見比べて、オウロは話に聞いていた特徴よりも目の前のガラグゴが小さいように思えた。全長で五メートルほどだろうか。もしかしたら大きな体を誇るガラグゴの中でもそれほど強くはない個体なのかも知れない。


「ガラグゴを倒して突破するぞ!!」


 オウロの選択はすぐに決まる。

 目の前のガラグゴを突破することに。

 オウロ自身はまだガラグゴを突破したことはないが、パーティーメンバーは七人もいる。この人数ではぐれを突破するのは、そう難しい話ではない。全員の力を合わせればすぐにでも倒せるはずだ。


「よし任されたっ!」


 フィリペはオウロの言葉に気分よく、ガラグゴへと突っ込んだ。

 大斧を手には握りしめている。


「水よ――」


 そんな彼をサポートするようにシューヴァの水のギフトがガラグゴへと飛ぶ。それはこれまでに使っていた水のギフトよりも粒が大きく、数も多い。それが全てガラグゴへと飛ぶのだ。ダメージの意図もあるだろうが、シューヴァが狙ったのはガラグゴの行動の阻害だろう。仲間の攻撃を通りやすくしたのだ。


「さあ、剣よ!!」


 マルセロは剣を持っていない左手をガラグゴに向ける。

 亜空間を広げて、武器を射出した。それは剣と言うよりもナイフだろうか。だが人が投げるよりも二射までの間隔が短く速さもある。また狙いも正確だ。それが幾つもマルセロの左手から射出された。


「――光よ」


 ロドリゲスも既にアビリティを使っている。

 黒剣は光り輝く粒子を刃に纏っており、ただの魚人ならば撫でるだけで命を刈り取る。その光はロドリゲスが刃を左手で撫でるほどに強くなり、切れ味も増していく。

 それが『光の剣士ルス・エスグリミドール』の力だった。

 剣の切れ味を上げる。

 非常にシンプルでありふれたアビリティだが、熟練の冒険者であるロドリゲスが練り上げたアビリティだけあって強力だ。ガラグゴに届きさえすれば通じると言う自負があった。


 ガラグゴは叫んでいる。

 胸元に幾つかのナイフが刺さったからだ。動きが止まる。

 にやりと笑ったフィリペが大斧を振り上げた。

 その動作は軽い。

 アビリティによって斧の重量を減らしているのだろう。

 だが、お世辞にもフィリペはそれほど足が速くないので、短い大斧だと周りに来るモンスターを薙ぎ払うのには向かないが、問題はなかった。ガラグゴに向かうオウロを止めるべく動いたモンスターは、ロドリゲスが剣で振り払うのだ。彼もフィリペの大斧の一撃は認めている。自身の剣よりも一撃での破壊力なら上だと思うほどだ。


「ふんっ!」


 そして、フィリペは瞬間的に大斧の重量を重くし、まるで薪を割るかのような豪快な一撃をガラグゴの左足へと落とした。

 床に足が居着いていたガラグゴはそれを避ける事は出来ず、まともに足の甲に大斧が突き刺さる。

 ガラグゴは大きな叫び声を上げた。きっと痛がっているのだろう。その事にフィリペはほくそ笑みながらも、深く刺さった大斧は簡単には抜けない。足をじたばたとさせるガラグゴにフィリペは体を揺らしながらも、必死になって大斧を抜こうとしていた。


「いかんっ! フィリペ、その手を離せっ!」


 フィリペはシューヴァの声を聴いて、すぐに大斧を手放すと空中に放り出される。そして先ほどまで自分がいた場所を太い腕が通過した。だが、それは自分が襲ったガラグゴの手ではなかった。

 ――別のガラグゴの手だった。

 すぐにフィリペは腰にある剣を抜くが、地面に足が着くと同時に後ろへと大きく飛ぶことになる。

 また別の――三体目のガラグゴがフィリペを襲ったのだ。


「三体目だとっ!」


 マルセロは驚愕の声を出しながらも、三体目のガラグゴに短刀を射出した。だが、そのガラグゴは他のガラグゴよりも体が大きく、動きも早いのか腕を振るうだけで全ての短刀を防がれてしまう。


「こっちは私が対処するっ!」


 二体目の、ガラグゴとしては標準的な体格をしたモンスター相手に、ロドリゲスは単身で斬りかかった。足元を通りすぎる時に自慢の黒剣でガラグゴの足首を撫でる。それだけで固いはずの皮膚は簡単に斬り裂けた。


「マルセロはそのガラグゴの注意を引けっ! 最も小さいガラグゴを私とフィリペが急いで狩るっ!」


 オウロは焦りながらも素早く指示を出す。

 はぐれが三体はまずい。多数のモンスターが周りにいたとしても、ガラグゴが一体だけなら対処することが出来ただろう。数分で殺すことが出来たはずだ。それほどのメンバーは揃えている。

 だが、二体となると分からない。本来はぐれとは、パーティーメンバーが一丸となって戦って、ようやく勝機が見える相手なのだ。二体相手のはぐれに同時に戦って、勝った例などオウロは聞いた事もほぼなかった。


 三体となると敗走に等しいのだが、逃げると言う選択肢は既にオウロにはなかった。ガラグゴを背中に引き連れたまま、多数のモンスターを斬り裂いてもう一度道を作り、ここから逃げるのか。それも確かに選択肢にはあったが、望み薄だった。


 オウロは既に自身の黒剣を毒で濡らしている。

 彼のアビリティである『蛮族の毒バルバロ・ベネノ』だ。その中でも最も強力な毒を幾つも仕込んでいる。主な毒は神経毒だ。体内に入るだけでモンスターの動きを止めて、やがて死に至らしめる。それも自身が使える最も強力な毒を黒刀へと流す。


「水よ――」


 シューヴァは額に汗をかきながらも、三百六十度全方位に水の弾を放っていた。一匹でも多くのモンスターの足止めをするためだ。

 はぐれと戦う冒険者達に横入りが入らないようにするためだ。


「闇よ――」


 青い顔をしながらも、アナも闇のギフトを使っている。

 だが、その力は弱弱しく、彼女が放つ黒紫色の波動はモンスターの一部分しか崩壊することができず、多くのモンスターはそんな事を気にせず冒険者たちに襲い掛かる。


「まずいっ! まずいっ!!」


 ダミアンはそんな言葉を口に出しながらも、自分の仕事を忘れないアビリティを使いながらギフト使いの身を守り、二人を中心に円を描くようにモンスターを狩って行くのだ。既にダミアンの目に三体のはぐれの姿はない。目の前の無数のモンスターへの対処だけで手がいっぱいだった。

 そして、ダミアンの描く円は徐々に、徐々に小さくなっていく。


「きぃえあああああああああああああ!!」


 オウロは焦りながらも目の前のはぐれに集中する。

 一体でも倒せれば、絶望的な状況が覆るかも知れない、と思いながら必死に剣を振るうのだ。

 目の前のガラグゴはフィリペの大斧が刺さっていることによって、左足から大きく血を流している。体を支えるのにその左足は役には立たず、ガラグゴは右足だけを起点にして立っていた。だからその右足首を何度も切りつける。どれだけ渾身の力で大太刀を振るっても、大きな足首を斬り飛ばす事などできないオウロ。だが、着実に彼の毒はガラグゴの足首に溜まっており、傷口が少しずつ毒々しい紫色に染まっていく。ガラグゴは両手を落として必死に抵抗するが、どれも片足で踏ん張っている状態だと遅いので避けるのは簡単だ。だが、避けると剣を振るう事ができず、時間だけが伸びていくことになる。

 オウロは猿叫を上げて、焦る気持ちを必死に抑えていた。

 遅い。

 遅い。

 遅い。

 毒の回るスピードが遅い。

 もっと早く倒さなければ、もっと早くガラグゴの息の根を止めなければ、後ろにいる仲間の様子が気になりながらも、オウロは必死になって目の前のガラグゴに集中するのだ。

 ガラグゴの拳を避け、剣を振るい、拳を避けて、拳を避けて、剣を振るうのだ。

 確実に右足には毒が侵食しており、もう少しで倒れそうだと確信している。そうなれば弱点である首を取ればガラグゴは死ぬはずだ。

 そんな希望に縋ろうとしていたオウロは、ここで初めて気が付いた。


 ――共にガラグゴに向かったフィリペはどこにいったのかと?


 オウロはガラグゴの足首を斬りつけながらも、目の端でフィリペを探すと遠くにいた。

 彼は自分に魚人、あるいはバルバターナの邪魔が入らないように、一人で周りを食い止めていたのだ。

 何体のモンスターを狩ったのかは分からないが、フィリペの剣は既に折れていた。だが、折れた剣で必死になりながら戦っていた。

 そしてオウロが見ていた時に丁度、フィリペの限界が訪れる。どこにいたのかも分からない魚人、あるいはバルバターナに足首を掴まれて倒された。そんな彼へ群がるように無数のモンスターが覆いかぶさった。

 フィリペは声にならない叫びをあげた。

 だが、その声すらも無数のモンスターによってかき消される。


「きぃえあああああああああああああああああああああああ」


 オウロはフィリペを助けに行きたい気持ちをぐっと堪えながら、けたたましい声を挙げる。

 それは獣と間違えるほどに大きな声であり、大気を震わせるほどだった。

 その声と共に彼の毒がより濃い紫色へとなりはてて、黒刀と同化するほどに黒と混ざっていた。

 そんな剣でガラグゴの足首を斬りつけると、すっと刃がガラグゴの足首の深い所に入り、骨ごと断ち切った。それはこれまでの毒による腐食がうまくいったのか、それともオウロの火事場の力が発揮されたのかは分からないが、確かにオウロはガラグゴに致命傷を与えた。

 ゆっくりとガラグゴの上半身が落ちていく。

これで首を取れば少しは状況が変わる筈と願いながら、落ちていくガラグゴを見つめながら周りに寄ってくるガラグゴを黒刀で薙ぎ払っていた。

 そして、ガラグゴの上半身が地面に落ちた時、オウロは急いで駆けよって首を取ろうとしたが、肩を掴まれて止められた。


「待てっ!」


 オウロを止めたのはロドリゲスだった。

 彼は指があらぬ方向に曲がった左手で、オウロの肩を掴んでいたのである。額からは血を流し、自慢の黒剣は先が折れている。


「その姿は……っ!」


 痛々しいロドリゲスの姿に、オウロは思わず息が詰まる。


「私の事などどうでもいいっ! それより周りを見ろっ!!」


 ロドリゲスが荒々しい声で言った。

 親しい彼の言葉に従いオウロが周りを見ていると、既にまともに立っている仲間は誰一人としていなかった。

 最も大きいガラグゴの足元は赤い血で染まっており、冒険者の姿はない。

 ギフト使いがいたらしき場所には無数のガラグゴが小さな山のようになって集まっている。既に湖のほとりではガラグゴか魚人の他には自分たち二人しか経っておらず、いつの間にか体にかかった水の加護さえも消えていた。


「これは――」


 オウロは思わず絶望して足元が崩れそうになったが、ロドリゲスが強い檄を飛ばした。


「いいかっ! これから私があの魚人の群れに風穴を開ける。オウロはそこから逃げろっ!」


「その役目は私がっ」


 オウロはすぐに反論しようとした。

 もはや湖に潜ることは出来ないので、逃げる事は必然となるが誰かを犠牲にして生きるのなら、自分よりも優秀な冒険者であるロドリゲスの相応しいと思ったのだ。

 彼ならばいつか自分たちの悲願である深海に手が届くと信じて。


「残念ながら、私はもう駄目だ。先ほどガラグゴに踏まれた。内臓がイカれている。もう長くは持たない」


 ロドリゲスは大きな血の塊を吐いた。

 よくよく見ていると、彼の腹部がへこんでいるようにも見える。

尊敬する先輩の命が短い事に、オウロは思わず涙を流しそうになる。

ロドリゲスは周りに大きく剣を振るった。欠けたはずの剣は光る粒子が刃の代わりとなっており、周りに群がろうとしていた多数の魚人を薙ぎ払った。その長さは持っている剣よりも長く、一瞬で多くのモンスターを斬っていた。


「いいか、聞くのだ、オウロよ。どんな状況であり、この場でただ一人、重傷を負っていないのはお前の実力だ。だからこの場で生き残るのはお前が相応しい。お前には期待している。我らの悲願を――」


 ロドリゲスはそれだけ言って、剣を頭上に掲げて元来た道に伸ばし科のように大きく振り下ろした。その剣は確かにほとりの入り口まで届いており、その途中にあった全てのモンスターを真っ二つにしている。


「さあ、行けっ! 若人よ! 君の冒険に幸多からんことを!!」


 ロドリゲスには言いたいことが沢山あったオウロ。

 だが、そんな暇はモンスターのるつぼのここで許されていない。そんな言葉よりも、ロドリゲスがここから自分が逃げる事を望んでいたからオウロはロドリゲスに背を向けた。


「うぉおおおおおおおおお!!」


 オウロは強く歯を噛み締めて叫びながら、ロドリゲスの作った道を走る。周りから来るモンスターは黒刀で斬り裂き、毒によってそれ以上の追撃を許さない。


「さあ、行け。オウロよ。お前ならばいつの日か、この教訓を胸に深海へとたどり着けるはずだ――」


 ロドリゲスは後ろを走っていく“甥っ子”に一瞬だけ優しい顔をしてから、目の前から凄まじいスピードで走ってくる二体のガラグゴと手を使って体を引きずりながら襲ってくる一体のガラグゴへと駆け出した。


 オウロは振り返る暇などない。

 目の前の出口へと必死に足を伸ばすのだ。

そんな事をしてモンスターに捕まれば、ロドリゲスの決死の行動が無駄になると思っての事だった。

そして必死に逃げる中で、オウロはコロアから聞いた学園長の言葉を思い出す。


 ――彼らが挑戦するステージは、君たちのように仲間と力を合わせて攻略するわけでもなく、作戦を立ててもどうにかなるような場所でもない。必要なのは他者すら寄せ付けないような圧倒的な強さ、それが君たちには足りないのだよ。


 その強さを、ガーゴイル程度のはぐれを一人で倒せる実力だと学園長は言った。

 コロアからこの話を聞いた時は、自分は学園を卒業してからマゴスに挑戦するのだから関係がないと思ったが、今にして初めて思う。

 自分は――湖の中にすら辿り着けなかった。

 その原因はきっと、ガラグゴの一匹も一人でまともに倒せない自分の弱さだろう、と。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うおおーーん! ロドリゲスぅぅぅーーーー!
[気になる点] 戦闘なのに説明が多く勢いが消えてる
[一言] 心臓病抱えてないと無理ゲー
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