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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第三十二話 エックスデー

クリぼっちなので小説を更新しました。

 オウロはマゴスを攻略するために、ずっと準備をしてきた。

 それはオケアヌスに着いてからも変わらない。あらゆる可能性を考えて、幾つもの保険もかけている。

 もちろん、“水のギフト使いも”だ。


「さて、よく来てくれた。シューヴァよ――」


 そこはオケアヌスにある町の入り口だ。

 粗末な馬車の中から現れた小柄な男性を前にして、オウロは大きな手を差し伸べた。

 その男は分厚いローブを着ていた。背中には小さなバックパックを背負っている。頭は禿げあがっており、顔に染みついた悠久の皺が年月の長さを感じさせる。手足は鶏のように細く、とても冒険者のようには見えないが、ギフト使いならば十分なのだろう。

 直接自分では戦う事はないのだから。


「お主がオウロか?」


 シューヴァはしゃがれた声で言う。


「ああ、その通りだ――」


 オウロは頷いた。


「契約に従ってきたぞ。力になろう」


「ああ、よろしく頼む。シューヴァの力は期待している」


 オウロが差し出した力強い右手を、シューヴァは皺くちゃの手で握った。

 オウロは思わず笑みが零れそうになる。

 シューヴァは水のギフト使いだ。元々はミラで活動していた冒険者であり、別のパーティーに入っていたのをわざわざ引き抜いたのだ。

 シィナをパーティーに入れられなかった時の為の保険である。


 教会でシィナにパーティー加入を断られた時に、もしかしたらナダに奪われるのではないか、という想像も頭によぎっていた。

 その場合、ナダがマゴスに潜るのを黙って見るのは、どうしてもオウロには耐えられなかった。だからわざわざ使いをやって、優秀な水のギフト使いを探していたのである。

 既に別のパーティーに所属していたシューヴァだったが、幾つもの見返りを条件にわざわざオウロはこの町まで引っ張っていた。


「では、私のパーティーまで案内しよう――」


「ああ、よろしく頼む」


 オウロはシューヴァを伴って、いつも『へスピラサオン』の会議を行っている場所まで移動した。

 そこはコンクリートで作られたマンションの一室であり、既にオウロのパーティーメンバーは集まっていた。

 彼らは円卓に座っている。テーブルの形が丸なのは全員が平等だと言う事だ。

既に座っている四人の冒険者にオウロは簡単にシューヴァの事を紹介する。


「彼が私たちの待っていた仲間のシューヴァだ――」


「これからよろしく頼む――」


 シューヴァが頭を下げると、四人の冒険者はまばらだったがぱちぱちと拍手をする。

 それからオウロとシューヴァは円卓についた。

 するとオウロは用意していた書類を配るようにパーティーメンバーの一人に言った。

 全ての者の前に紐で纏められた紙束が行き渡ると、オウロはマゴス攻略に向けて説明し始めた。


「まず、これは前提だが、私はマゴスの攻略を夢見ている。その為に準備をしてきて、君たちと言う優れた冒険者を集める事も出来た」


 オウロはシューヴァも含めた五人の冒険者の顔を順番に見た。

 まずはオウロの隣にいるダミアンだ。

 糸目が特徴的な飄々とした男である。自分の周りから一定範囲にあるものを全てを拒絶する円状の空間を作ることが出来るアビリティを持つのだ。当然ながら水も拒絶することができる。アビリティが発動できるのは限られた時間であるが、アビリティを発動した時は水中でも無類の強さを誇るだろう。

 オウロが最初に集めた仲間であり、今回の冒険においては攻守ともに期待している冒険者だ。


 そんなダミアンの隣にいるのが、フィリペという大男だ。

 珍しい大斧を扱う冒険者であり、その武器を扱うに相応しい体を持っている。アビリティは持っている武器の重量を自由に変えるアビリティであり、限度はあるが重たくすることも出来る。

 軽くした大斧から振り落とされる超重量の一撃は、オウロにはない破壊力であり、その一撃はナダすらも超えているとオウロは思っていた。

 また重量を変えるアビリティは落ちる事しか出来ないが、水中での緊急回避にも使える。

 武器の重量を変えるアビリティを持つ冒険者は多いが、オウロは重たくすると言うあまり冒険者が好まないアビリティに期待をしていた。


 フィリペに続くのが、マルセロである。

 狐のようにずる賢い顔をした男である。

 マルセロが持つアビリティは、世にも珍しい亜空間を作る能力だ。それは外界からは拒絶した空間であり、幾つもの物を保存することも出来る。またその亜空間に入れた物は重量を持たず、重たい物でも難なく運ぶことが出来る。人も少しなら入って休憩することが出来るが、真なる目的は余分な食料や飲料水を手に持って行動する必要がなくなる、ということだ。

 それは冒険者にとっては大きなメリットであり、マルセロを欲しがるパーティーは多く、今でも引き抜きの話が数多く出ている。


 そしてマルセロの隣にいるのが、アナだ。

 顔にそばかすが幾つもある素朴な女性であるが、闇のギフトを持つ優秀なギフト使いだ。

 闇のギフトは十二種類あるギフトの中で最も破壊力を持つギフトであり、単純にモンスターを殺す事だけを考えれば最も適したギフトである。

 年齢は三十を超えており、王都にいた頃は二つのパーティーを掛け持ちしていた。特殊な契約内容だったが、彼女を欲しているパーティーは多く、今でも勧誘が後を絶たないようだ。


 そんなアナの隣に座っているのが、ロドリゲスだ。

 右目が白い義眼になっている冒険者である。過去にはぐれとの戦いで目を失ったと本人は言っていた。

 扱う武器は只の長剣。アビリティは剣に粒子を纏い、剣の切れ味を上げるものだ。効果だけを聞けばそれほど強くはなく、数ある冒険者の中でもありふれたアビリティである。

 だが、ロドリゲスは既に四十に差し掛かる熟練の冒険者だ。

 アビリティは長年の訓練を経て鍛えており、研ぎ澄まされた剣はドラゴンの鱗さえも斬った事があるという。はぐれを倒した数はいざ知れず、冒険者としての実力はこの場にいる六人の中で最も上だろう。

 巷では次代の英雄に最も近い者と呼ばれるほどであり、事実として『へスピラサオン』に入る前は王都でトップパーティーの一つで活躍していた。


 本来なら学園を卒業したばかりのオウロのパーティーに入る冒険者ではなく、新しいパーティーを作り上げたとしてもトップパーティーに躍り出るような人材だ。

 オウロよりも数段上の冒険者である。

 だが、ロドリゲスはオウロの求めに二つ返事で頷き、元々所属していたパーティーを解散して『へスピラサオン』に入った。


 理由は簡単だ。

 ロドリゲスは、“黒い長剣”を使う。

 今となっては着る事はないが、元々は“黒い鎧”を着ていた。


 オウロと同じ里出身の冒険者であり、同じ悲願を持つ冒険者なのだ。だからロドリゲスはオウロの求めに簡単に従った。

 それが自身の、いや先祖の悲願に繋がると信じて。


「マゴスの攻略とは、簡単に言えば――深海の中にある」


「深海?」


 シューヴァが訊ねた。


「ああ、そうだ。マゴスは水が満ちている迷宮だ。もちろん、深い水たまりも存在して、モンスターはそこから現れると言われている」


「確か湖のほとりは危険地域で、誰も近づかないと聞いた事がある。迷宮によくあるモンスターハウスと似ていて、多数のモンスターが出現すると聞いた事があるが」


 マルセロが顎を摩りながらマゴスの情報を述べる。

 誰もが知っている事であり、マゴスに潜る冒険者が最初に学ぶ情報の近くだ。だからダンジョンの内部構造が変わる内部変動の度に、冒険者たちは幾つもある湖のほとりの場所を調べて、すぐにその情報は組合によって全ての冒険者に共有される。

 決して近づかないように注意を促すのだ。


「ああ、そうだ――」


 オウロは頷いた。


「で、その中に先の道があるのですか?」


 アナが聞く。


「その通りだ。その為にわざわざシューヴァを呼んだのだ。水中を進もうと思えば水のギフトが必要になる。水の加護があれば、水中でも呼吸をすることが出来るからな」


 オウロはまたしても頷いた。

 だから港町や船乗りの間では、水のギフト使いは重宝されているらしい。

 地上では迷宮内程の効果を得る事ができないが、それでも水のギフト使いなら一人程度は呼吸なしで海に潜ることができる。素潜りをすれば、海鮮物取りたい放題だ。


「……どうしてそれを知っている? この町に来てからずっと貴公と一緒に迷宮に潜っているが、湖に入った事もなければ、近づいた事もないはずだ」


 過去の記憶を振り返るがオウロと共にずっと湖を避けていたダミアンが言った。

 そんな不確定な情報で、湖に近づくのは馬鹿らしい、とさえ思っていた。


「オレがその情報をオウロにやったんだ。オレの家にはアダマス時代の貴重な記録があって、その中にマゴスのものがあった。どうやらアダマスは湖の中を進んで、マゴスを攻略したようだ――」


 オウロも同じことを当然ながら知っているが、ロドリゲスが言う。

 熟練の冒険者であるロドリゲスが言う方が、説得力があると思ったのだろう。事実、その目論見通りにこの場にいるオウロとロドリゲス以外の冒険者が生唾を飲んだ。


「納得はしたな? 今からの会議で私たちは湖に潜る為の準備を行う。必要なものは全て揃えるつもりだ。だから遠慮なく意見を言ってくれ。冒険に必要なら、どんな意見も採用するつもりだ――」


 オウロは口角を上げる。

 そして数時間の会議後、エックスデーは三日後となった。

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新作として「名探偵サクラ ~魔王を倒せと言われたけど、職業が名探偵なので倒すビジョンが思い浮かばない件について~」を公開しています。こちらは二十万文字ほどで終わる予定ですので、この作品の更新を待つ間にでも見てくれると幸いです!

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― 新着の感想 ―
書籍化おめでとうございます!
[良い点] 更新ありがとうございます! 仲間が集まってきた感があり、先が気になります。
[一言] 新キャラの名前は雨からきてるのか。 水を散弾みたいにしてぶつけたりするのかな。 続きが楽しみです。
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