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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第二十九話 パーティーⅨ

 ニレナに声をかけたハイスの姿は、少し前にインフェルノで会った時と大きな変わりはなかった。

 だが、着ているシャツやコートなどが変わってあり、香水の匂いも柑橘系になっている。出会った時からハイスがファッションに気を使っていたことをニレナは知っている。貴族社会の舞踏会などに出れば、一日で有名になるだろう。それほどの色香がハイスにはあり、ナナカは目をうっとりとさせていた。


「……何の御用でしょうか、ハイスさん」


 ニレナは微かに笑顔を浮かべながら言うが、目は笑っていない。怒っているのが親しいナダには分かった。


「たまたま見かけたから挨拶をしようと思っただけだよ。僕たちも拠点を移すことにしてね、このマゴスで活動しようと思うんだ――」


ハイスの目はニレナからナダへと移って行った。


「――君がナダだね」


 ハイスにとって、ナダは見つけやすかった。

 五人いる冒険者の中で唯一の男であるナダは、街を歩いている他のどんな冒険者よりも体が大きいのでよく目立っていた。

 それが女ばかりの集団の中にいるのだ。

 女を囲っている遊び人のように思っている者もいるだろう。


「そうだが、あんたは?」


 他の冒険者の前に出たナダは、顎を摩りながらハイスを見下ろして言った。

 その目はハイスを見定めるようであるが、数秒程観察して興味を失ったのか大きなあくびをした。

ナダにとってハイスはその辺りを歩いている冒険者とあまり実力が変わらないように感じたので、どうでもいい冒険者の一人と見なしたのだろう。


「オレはハイスって言うんだ。『コーブラ』のリーダーをしている」


「あっそう」


「これからはオレもマゴスで活動するから、顔を合わせることも多くなると思うよ」


「へえ」


「君は……優秀な冒険者のようだね。ニレナが君の事を自慢げに話していたよ」


 ハイスはナダを見定めるように言った。


「そうでもないぜ」


「参考までに是非とも教えてもらいたいんだけど、どんなアビリティを持っているんだい?」


 ハイスがナダをアビリティ使いと見なしたのは、大きな武器――陸黒龍之顎を持っているからだろうか。

 アビリティは多岐に渡るが、冒険をサポートする能力や武器による攻撃を補助する類のものが多い。


 だからアビリティ使いは必ずモンスターを狩る為の武器を持つのだが、ギフト使いはそうではない。ギフトそのものが武器となり、モンスターをも倒す。シィナのように補助としてナイフのような武器を持つ者は多く、ニレナのように普通の武器を持つ者さえ少ない。大型武器を持つアビリティ使いさえほとんどいないのに、ましてやギフト使いなど一人もいないだろう。


「持ってねえよ――」


 ナダは淡々と言った。


「もしかして君はギフト使いだったのかな? どの神に祝福されているのだい?」


 だが、どこの世界にも例外はいるもの。

 ハイスはナダの事を世にも珍しい近接武器で戦うギフト使いと思ったのだろう。

そのようなギフト使いはいないわけではない。武器を強化するエンチャントのみを使うギフト使いは少なからずいる。ハイスはナダもその一人だと思ったのだが、ナダは首を横に振った。

 かつての時とは違い、自信満々に。


「持ってねえよ。ギフトも、アビリティも」


「待って! 本当かい? 本当に何も持っていないのかい!?」


 ハイスは声を荒らげて驚いていた。

 だが、驚いていたのはハイスだけではない。『コーブラ』のメンバーは勿論のこと、シィナも驚いていた。

 タリータはリーダーであるナダの情報は知っており、かつて『アギヤ』のメンバーだったニレナもナナカもナダが無能力者だという事はよく知っている。


「ああ、そうだが」


「その体つきを見るにもう冒険者になって長いんだろう?」


「ああ。学園は卒業している」


「まだ無能が残っているなんて滑稽だなぁ! はぐれ並みだ。君のような珍獣に出会えてとても嬉しいよ」


 ハイスは大笑いしながらナダの肩を親し気に叩く。

だが、ナダはその手を払い、馬鹿にするハイスを睨みつけた。


「で、それだけか?」


「いやいや、それだけじゃないよ。ニレナ、本当にいいのかい? こんなリーダーで。まさか君が言う優秀な冒険者が、アビリティもギフトもない無能だとは思わなかったよ。見てみなよ。町中の冒険者が君の事を注目してるよ」


 ハイスの言う通り、近くにいる名も知らないような冒険者がナダの事を注目していた。それはハイスが指を指して馬鹿にするように大きく笑っていたからだ。気にしなくても、人の性として注目してしまう。


「はあ、行こうぜ――」


 ナダは未だに笑っているハイスを無視して、先を急ごうとした。

 他の四人のパーティーメンバーはナダを笑う事もなく、ハイスに嫌悪感を現しながらナダに付いて行こうとする。


「待ちなよ。何、勝手に帰ろうとしているんだい?」


「はあ、だから何の用だよ?」


 ナダは呼び止めるハイスを鬱陶しそうに感じていた。


「もう少し話が……」


「うぜえよ、あんた――」


 ナダはハイスを見下すように言った。


「……」


 ハイスは涼し気な顔をしていた。


「残念ながらあんた程度の冒険者に、時間を取っていられるような“暇”はないんだ。さっさと去れよ――」


「なら君に冒険者の先輩として助言を――」


 ハイスは、「君はさっさと冒険者を辞めたほうが身の為だ」というアドバイスを言うつもりだったが、そんな嫌味をナダは遮った。

 もうまともに取り合う気もしなかった。


「だから言っているだろう? あんた程度の冒険者に教わる事などねえよ。はあ、無駄な時間を過ごした。さっさと飯でも食おうぜ。タリータも来るか?」


 ナダは既にハイスを見ておらず、仲間達へと振り返った。

 ハイスは無視されたという経験があまりなく、怒りを表すようにふつふつと震えだすが、もうナダは何を言われても振り返る様子はなく、視線の先に見知った男を見つける。

 オウロだった。彼も冒険帰りなのか、ナダと同じような格好をしている。後ろにはナダと同じく四人ほどの冒険者を連れているが、女ばかりではない。男が三人に女が一人だ。

 オウロはナダの後ろの一点を見ていた。

 シィナだ。

 それからナダへと視線を投げるのだ。


「ナダか――」


 オウロはナダ以外の冒険者は目に入らなかった。


「よう、オウロ――」


 ナダも他の冒険者など歯牙にもかけない。

 自分の目的に脅威となる冒険者は、マゴスの中では同じ目的を持つオウロだけだと思っている。

 まだ卒業したばかりで冒険者としては新人もいいところであるが、力がある。学園で培った力だ。それはここにいる冒険者で最も大きく、先ほどあった男など比べ物にならない、とナダは強く感じていた。


「仲間に、入れたのか?」


 オウロはシィナを視線で指さした。


「ああ、そうだ――」


 ナダは満足気に頷いた。

 するとオウロはシィナの前に躍り出た。


「シィナ殿、こんな男よりも私の方が優秀ですぞ。私は長年パーティーを率いたという経験がありますが、彼はリーダーとして活躍した事は殆どない。腕っぷし“だけ”は認めますが、まともな冒険はできないでしょう」


「そう言われると頭が痛いな」


 オウロより強く勧誘されているニレナの横で、ナダはこめかみを押さえている。どれも事実で当たっているからだ。

 今も探り探りで冒険を行っている。まだ体を慣らす範囲であるが、今のスタイルが正しいとは思っていない。もっと仲間を使い、効率的に冒険を行わなければならないのだ。

 ナダは正式にパーティーを作っているが、まだ正規ではないからこそ名前をつけていないのだ。ゆくゆくはパーティーの名前も付けるつもりである。まだ案はないが。


「……あなた達はどういう関係なの?」


 シィナは敵対心を持ちながらも楽し気に喋るナダとオウロに首を傾げている。関係が分からなかった。

 自分を巡って争うというのもわけが分からない。確かにギフト使いは珍しいかもしれないが、ニレナのように自分よりも優秀なギフト使いは多い。わざわざ自分を選ぶ理由が分からない。

 マゴスでは水のギフトは有利だと思っているが。


「こいつは元俺のパーティーメンバーだよ」


 ナダはオウロを指差しながら言った。


「……元リーダー?」


 シィナはナダを指差した。


「ああ、そうだ。オウロは元々俺の仲間だったんだよ。それが拗ねてこんなことを言っているんだ――」


 ナダはやれやれと言った。


「仲間だったのは嘘ではないが、ニュアンスが違うぞ」


 オウロは堂々とナダへと苦言を弄する。

 シィナはナダとオウロを順番に見るが、やはり二人の関係性に明確な答えは出なかった。

 それからナダとオウロは言い争っている。

 だが、どちらも憎しみ合っている様子はなく、互いの実力は認めているようだ。


「おい、まだオレの話は終わっていないぞ!」


 そんなナダとオウロの間にハイスが入ってくるが、オウロはつまらなそうに言った。


「この冒険者は誰なのだ?」


「知らねえ」


 ナダは首を横に振った。


「強いのか?」


「さあ? 実力としてはパパガヨと同じぐらいじゃねえのか」


 ナダが言うパパガヨは、同級生でありオウロのかつてのパーティーである『デウザ・デモ・アウラル』に所属していた頭を丸刈りにした背の小さい冒険者だ。

 コロナがリーダーのパーティーの頃からオウロとは仲間であり、地味だが優秀な冒険者である。目立った活躍はしないのでリーダーになることはなく、いつもコロナやオウロの影に隠れているが。


「そこそこだな――」


 オウロはハイスを見て頷いた。


「そうだな」


「何を失礼な事を言うんだ!」


 ハイスは己が侮られていることに怒るが、二人は取り合ってすらいなかった。

 そんな会話の外で仲間外れになっているナナカは、シィナやニレナを羨ましそうに見ている。


「ねえ、シィナさんとニレナさんって羨ましなー。私も誰かに取り合って欲しい。出来ればイケメンでお金も稼ぐ冒険者がいいなー」


「ま、頑張りなよ」


 タリータは項垂れているナナカの肩を慰めるように叩いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 眼中に無いという扱い しかもKYの評価が地味に優秀という扱い
[一言] 粘着ストーカー…気取りたいのに気取れず、みんなの視界にすら入れない…でも、ここでナナカのことをスカウトし始めれば、なんとなくその争奪劇に関してはナナカは喜びそう。誘いに乗るかどうかは別だけど…
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