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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第二十七話 パーティーⅦ

ブックマークが9000を超えて、感想も500件超えました。とても嬉しいです。これからも更新頑張りますので、応援よろしくお願いします!

 ナダはシィナにこれから自分が向かうレストランへと案内した。

 話をするのならご飯でも食べながらとナダが提案して、シィナが乗ったのである。二人が向かったのはいつもの個室である。既にニレナとナナカは中にいて、二人で楽し気に談笑している。

だが、話の内容は服や香水の話ではない。血生臭い迷宮の話である。

そんな二人はナダとシィナが入ってくると目を向けた。ナナカが親し気にこう言った。


「ナダ、遅かったわね。その人……誰?」


 ナナカは新しく部屋に入ってきたシィナを、深く観察しているようだった。


「……誰、この人たち?」


「俺のパーティーメンバーだ――」


 ナダはシィナに簡単に二人を紹介した。


「私はナナカよ。よろしくね」


 ナナカは手をひらひらと振る。


「……シィナ。よろしく」


 シィナはナダのパーティーメンバーを訝し気に見ていた。


わたくしはニレナです。シィナさんですね。お久しぶりです。ではシィナさんのお席も用意しましょうか。少し待っててくださいね」


 ニレナは部屋を出ていくと、すぐに店の者を呼んで四人目の席を用意させた。四人とも席に着くと、乾杯をし、ニレナがシィナに話しかける。


「突然ですけど、シィナさん。わたくしの事は覚えていますか? 何度か会ったことがあるんですけど」


 ニレナはワインを嗜みながら言う。

 その様子は親し気だった。


「……覚えている。『コーブラ』のメンバーで、ハイスの部下でしょ? 派手だからよく」


 シィナもニレナの事は知っていた。

 出会いは当然のように王都インペラドルだ。

 『コーブラ』はとても有名なパーティーであり、宝玉祭に度々呼ばれるパーティーだ。冒険者組合でも何度も見かける事もあり、その中でもひときわ輝いて見えるニレナの事をシィナはよく覚えていた。


「ええ。昔はそうでしたわ。今は抜けましたの」


「……そう」


わたくしはシィナさんの事をよく覚えていますわよ。有名でしたもの。優秀なギフト使いって。ハイスさんも昔に誘いに行ったこともありましたから」


「そうなの?」


 シィナは目を丸くして驚く。

 どうやら知らなかったらしい。


「ええ。ルードルフさんに断られた、と残念そうにしていましたけどね」


 ニレナは表情を崩さない。残念がっている様子もなく、昔話の一つとして言っただけだった。

 そんな世間話をしている時に給仕係がノックをして部屋に入り、四人にサラダを配膳していく。グリーンサラダである。ナダもここのグリーンサラダを何度も食べた事があるが、新鮮な野菜はしゃきしゃきと歯ごたえがよくみずみずしい。かかってあるドレッシングも酸味がほんのりときいてとても美味しかった。


「……こんな挨拶は終わらして、早く本題に入りたい」


 シィナはサラダに手をつけようともせず、真正面にいるナダを真っすぐな瞳で見つめる。シィナの左にいるナナカはわけも分からず視線をあちこちに移動させて、状況が分かっているニレナはニコニコと微笑んでいた。


「本題って? まあ、落ち着いてこのサラダを食えよ。美味いぞ。菜食主義者の気持ちがよく分かる」


 一方のナダはおいしそうにサラダを食べている。ナイフとフォークを忙しなく動かし、大口を広げてサラダを口の中に入れるのだ。とても美味しそうだ。

 美味しい物を食べるととても幸せな気分になるので、現在のナダの機嫌はとてもよかった。顔は赤くなっていないがアルコールが入っている影響もあるかも知れない。


「……私はダーゴンについての情報が欲しい」


 シィナは直接的に言った。

 酒も、料理も手を付けない。


「ダーゴンの事か? その情報が欲しかったのは俺の方なんだがな」


 ナダはおどけるように言った。


「……私が知りたいのはダーゴンの居場所。あなたはそれを知っていると言った」


「ああ、知っている。で、聞いてどうするんだ?」


「……殺しに行く」


「あんたがか?」


 ナダは馬鹿にしたように嗤った。


「……無理って言いたいわけ?」


「そうだな。シィナはギフト使いだろう? 殺せるわけがない、って思っているんじゃないか? ダーゴンの特徴は調べ上げているんだろう?」


 ナダは彼女にダーゴンを殺せるわけがないと確信している。

 ギフト使いにダーゴンを殺せるわけがない。

ナダがダーゴンについて知った情報の中に、アビリティやギフトが殆ど通じない、という情報があった。ナダのよく知っている“ガーゴイル”というモンスターと似ている特徴である。


「……もし場所が分かれば、その為の特別編成のパーティーを雇う。それで殺せるはず」


「へえ、でも望み薄だな。ダーゴンの場所は教えられない」


「……何故? 奴を殺すのは私。それだけは譲れない」


 シィナの言葉には強い意思があった。


「いや、特別編成パーティーを組むって言っているけど、それでも殺すのは無理な話さ」


「……どうしてそんな事が言えるの?」


「ポディエに似たようなモンスターがいた。特徴も似ている。アビリティもギフトも効かない、という事もな。だが、そいつを殺せたのはごく一部の冒険者さ。ここにそんな冒険者がいるかな?」


 ナダはシィナを挑発するように言うが、どれも本心であった。

 マゴスにいる冒険者は強者つわものぞろいだが、もしガーゴイルがここにいるとしたら彼らが殺すのは難しいだろう。

 あれはアビリティやギフトなしで戦わなければならない。そんな特定の状況で戦える冒険者は、ナダの見た限りマゴスには一人もいない。


「……それでもいい。場所を教えて」


 シィナは有無を言わさないような強い口調だった。


「残念ながらそれは無理だ――」


「……どうして? あなたは迷宮を攻略するために、ダーゴンを邪魔だと思っている。ダーゴンは私が倒す。それで十分でしょ? いい交換だと思わない? あなたはダーゴンを倒す必要がなくて、面倒な相手も私が倒す。その後にあなたはゆっくりと迷宮を攻略すればいい」


 シィナはいい交換条件だと思っている。

 ナダから情報を聞き出すつもりでいたのだろう。

 確かに悪い条件ではない。

 ダーゴンはナダの目的ではない。きっと行く手は阻むだろうが、排除してくれるならそれに越したことはないだろう。


 だが、あの場所を教える気にはならない。

 別に組合から隠していたことに関して処罰されることはどうでもいいが、迷宮の奥に進もうと思えば、水のギフトは必須だ。自分たちは迷宮に奥に行けなくなってしまう。


「いや、それはいらねえ。別に情報も欲しかったが、必須というわけではない。ダーゴンは倒そうと思えば倒せるだろうからな」


 ナダは正直にシィナをパーティーに誘おうとは思わない。

 水のギフトが必要だと分かれば、シィナはきっと自身の有利性を売り込むだろう。そうなれば迷宮探索の目的が底ではなく、ダーゴン討伐になるだろう。

 それは避けたい。


「……本気なの?」


「ああ――」


「……こんなパーティーで? 人数も揃っていないのに?」


「ああ。一人でも倒すさ。それにパーティーは増やすつもりだ。どんなメンバーにするかはまだ悩んでいるけどな」


「……なにそれ」


「で、話は以上か?」


 ナダはシィナを突き放すように言った。

 彼女は悔しそうに唇をかみしめている。

 様々な考えを頭の中で浮かべては、消しているのだろう。その中の一つにはナダの組合違反も入っているのかも知れないが、それを告げ口したところで大した影響はない。多少の罰金がある程度だ。それに道はいくらでも誤魔化せる。


「……ナダはダーゴンを倒すの?」


 シィナが思い浮かんだ案は結局一つなのだろう。

 シンプルでいて、最も早い解決


「倒す必要があれば――」


「……倒せるの?」


「ああ――」


 ナダはすぐに頷いた。


「……パーティーの枠ってまだ空きがあるの?」


「見ての通りこの調子さ」


「……ギフト使いは求めているの?」


「ああ――」


「……私、優秀」


 シィナは自分を売り込むように言った。


「入るか?」


「……うん」


「じゃあ、新しい仲間に乾杯」


 四人はワインのグラスをかかげ、四人目の仲間の誕生を祝った。それからマゴスの事について、美味しい食事を取りながら和やかに談笑した。


 ナダの心の中としては歓喜に満ちていた。

 自然な流れでシィナをパーティーに誘えたことに。

 この日の食事はいつもよりも美味しく感じた。


 次の日から、ナダのパーティーは四人で潜ることとなる。

 そしてナダはパーティーのメンバーが全員女性になったことで、女好きのうわさが流れるようになる。


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― 新着の感想 ―
ナダが資料見て、ルディにリーダー以外女ばっかりのパーティーなんて恋愛とかでめんどくさそうつてなってたのに、同じになってますね!
[良い点] まさかの女好き!噂って恐ろしい!でも楽しそう。
[良い点] やっぱニレナさん好きだなぁ。 [一言] この小説は英雄達の件も含めてソロの話も結構ありますけど、やはり最後はナダの周りに心を許せる人物なり集まりがあって欲しいな。現状、寿命の問題とかいろい…
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