表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
158/279

第二十二話 パーティーⅡ

 ナナカは元アギヤのパーティーメンバーの一人だ。彼女がアギヤに入った経緯としては、学園を卒業するのでアギヤを抜けるニレナと、入れ替わりでアギヤに入ったのである。

 そもそもナナカはニレナが連れてきたこともあり、二人は旧知の仲のようだ。


「……そうですね。確かに私とナダは一時期パーティーを組んでいました」


 ナナカは目を細めながら言う。

 確かにナダとナナカは一年ほどの間、パーティーメンバーだった。イリスのリーダー時代から、ナダが追い出されるレアオンがリーダーの時まで。

 ナダとナナカの関係と言えば、知り合い以上友人以下だった。パーティーメンバーとしての付き合い以外なく、パーティー間での会話など業務連絡以外に話した事など殆どない。


「そうでしょう。きっとお似合いだと思いますわ」


 ニレナは嬉しそうに両手を合わしている。


「……そうかな」


 だが、ナナカは曖昧に笑うだけだった。

 親しい友人であるニレナの頼みなので、オケアヌスには喜んで来たナナカだったが、パーティーメンバーが誰かは聞いていなかった。

 聞いてもはぐらかされたのである。

 もしもリーダーがナダだと分かっていたら、ナナカはここに来なかったかもしれない。


 ナナカにとって、ナダとの関係は微妙である。

 ナダがアギヤを去って以来、ちゃんと会ったことはない。学園ですれ違っても会話をする事などなかったのだ。


「さて、少し場所を移しましょうか。久しぶりの再会ですし、美味しいものでも食べながら楽しくお喋りしましょう」


 ニレナの提案には、ナダもナナカも逆らえなかった。

 ナダとナナカは互いに顔を合わしてから、小さなため息をついてニレナの後を追うように歩く。



 ◆◆◆



 ニレナは二人を伴って、泊っているホテルにあるレストランに来ていた。個室である。ここなら秘密の会話を、人目を気にせずすることができる。

三人は白いテーブルクロスが敷かれた席についた。

 今日はコース料理の予約をしていたらしく、ナダとナナカにはドリンクのメニューが渡された。二人とも赤ワインを注文すると、ニレナも同じものを頼んだ。給仕の者が赤ワインのボトルを持ってくると、三人のグラスにそれぞれ注いで部屋から出て行った。

 ニレナが「乾杯」と言うと、三人はワインを口に含んだ。


「さて、それでは本格的にパーティーの話に入りましょうか」


 ニレナは頬を少しだけ赤くしながら言った。


「……ナナカにはどこまで話したんだ?」


 ナダはワインを一口でグラスの半分も飲んだ。


「何も話していませんわ。いいパーティーがあるとしか。ナナカさんはインフェルノでフリーの冒険者として活躍していましたので、わたくしが誘ってみましたの。冒険者としては優秀ですし」


「そうよ。ニレナさんはパーティーに困っていた私を誘ってくれたのよ――」


 きっとナナカは藁にも縋る思いで、差し伸べたニレナの手を取ったのだろう。

 ナダはナナカの事をよく知っている。

 同じパーティーだからと言う理由もあるが、それだけではない。同級生だから彼女のいい評判は昔から聞いていたのだ。


 彼女は、とても優秀な冒険者だったのだ。

それはアギヤに入る以前もそうだった。学園に入学し、八か月ほどで優秀なアビリティが発現し、二年生に上がる前には既に冒険者として注目されてきた。同期にはレアオン、アメイシャ、オウロなど数年後にはトップパーティーのリーダーとして活躍する冒険者もいたが、学年で最も早く名前が売れたのはナナカだろう。


当時から彼女の噂は聞いていた。

極めて優秀な冒険者であり、将来性もあると。

ナナカが発現したアビリティは『鉛の根シュンボ・ハイス』だ。根っこのような物をモンスターの体に纏わりつかせて、モンスターの動きを阻害するのである。

パーティーに一人いれば、他のメンバーがとても戦いやすくなるアビリティだ。


最初の頃は弱いモンスターの行動を阻む事しか出来なかったが、年数が経つにつれてアビリティの効果が強くなり、最初は不安に思われていた彼女の剣技も高まって行った。


その結果、元々親しかったニレナに誘われて、トップパーティーだったアギヤに入るほどの実力になった。

当時の彼女の冒険者としての実力は、他のメンバーとそん色なく、ギフト使いであるニレナとは役割が違うとしても彼女はいい冒険者だった。

アギヤの功績自体も、ニレナがパーティーの時とナナカがパーティーの時ではそう変わらなかった。その後、リーダーがレアオンに変わった時も、ナナカのポジションは変わらずにトップパーティーに所属する優秀な冒険者のままだった。


「なるほどな――」


 ナダは頷いた。

 だが、ナナカの功績は、そこまでだった。

 レアオンがアギヤのリーダーになって問題が起きた。そして、アギヤは解散する。当時のリーダーだったレアオンが決断した事だった。

 ナナカはアギヤが解散になった後、特定のパーティーを持たなかった。パーティー勧誘がないと言えば嘘になるが、どうやら彼女に声をかけたパーティーはどれも彼女より学年が下のパーティーばかりだったようだ。

アギヤと比べて小粒だったので、ナナカにとっては物足りなかったのだろう


 既に第一線で活躍しているパーティーは、メンバーが固定しているためいくら優秀だとしても“替えが効く性能である”ナナカを入れようとするパーティーはなかった。

 だから彼女はナダの知っている限り、学園にいた頃はずっとフリーの冒険者だった。他のパーティーに臨時として参加するのだ。

 ニレナの言いぶりでは、それが卒業後も続いていたようである。


「でも、まさか紹介されるのがナダのパーティーだとは思わなかったわ。それにニレナさんと組んでいるとも思わなかった」


「そうか?」


「……あんたは知らないでしょうけど、学園では有名なのよ。四大迷宮を五年生の間に探索している学園長のお気に入り、って噂があって、音信不通。全く話を聞かないから、もうどこかの迷宮で死んだ、っていう噂もあったわ。レアオンと一緒で」


 ナナカの言葉には棘があった。


「残念ながらこの通り生きているよ」


 ナダは両手を広げた。

 体の無事を現しているのだ。

 ナダは未だに五体満足だった。


「そうみたいね。ナダが死ぬわけないとは思っていたけど」


「どうしてそう思うんだ?」


 ナダは不思議そうにしていた。


「アギヤの時のあんたの冒険で、生き残る方がどうかしている。私だったら百回は死んでいるわ。それなのに大怪我を負う事もなく、冒険を続けていたナダは“いかれて”るわ」


「……そうかもな」


 ナダは嗤った。

 特に否定する気もないらしい。


「で、ナダは私を入れるつもりなの?」


「逆に聞くが、ナナカは俺のパーティーに入りたいのか?」


「そう言われると……微妙ね。でも、ニレナさんがナダのパーティーを勧めるの。私は、ニレナさんには尊敬しているし、信頼しているから、間違いはないわ」


「それはとても嬉しいですわ、ナナカさん。ありがとうございます」


 ニレナが今にもナナカに抱き着こうとばかりに微笑んでいた。とても嬉しそうだ。


「じゃあ、入るってことでいいんだな?」


 ナダはグラスに入っているワインを全て飲み干した。


「……いいわよ。このマゴスで攻略するんでしょ。なかなか刺激的じゃない。いいわよ。私のキャリアにもなるわ」


「それはいい事だ。最初に目的を言っておく。俺は――マゴスの深淵を見つけた。組合には言っていないから、俺たちだけで本格的に攻略するつもりだ。だが、パーティーメンバーは今のところこの三人だけ。これから増やすつもりだけどな」


「……マジ?」


 ナナカは信じられないような顔をしていた。

 攻略を行っているとは思っていたが、まさか先の道を見つけており、その場所を組合にも言っていないとは思っていなかった。

 冒険者としては重大な違反であるが、隠す者は後を絶たず、罰則も殆どないのでそういう冒険者は多い。


「嘘なんてつかねえよ。もう抜けるって言っても、逃がすつもりはないぞ」


「マジ?」


 ナナカはもう一度言った。

 攻略を行うとは思っていたが、まだ情報がない状態でメンバーも潤沢に揃っていると思っていた。

 まさかこの場にいる者だけとは思っていなかった。

 パーティーとしては未熟と言ってもいいだろう。

 そんな状態で迷宮の深層に挑むなど、命知らずである。まともな神経があれば挑戦しようとも思わない。


「ああ、そうだ。刺激的だろう?」


「本当にね――」


 ナナカはやけくそになりながらワインを呷った。

 ナダは気の知れた仲間が増えた事に満足してから、自らグラスにワインを注いで、一気に飲んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ