表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
155/270

第十九話 アルデバラン

 シィナ。

 本名はシィナ・ボルボレッタ。

 セウにあるボルボレッタ商会の代表の次女であり、幼い頃からずっとセウで過ごす。

 幼少期の頃から冒険者を志し、十四歳の頃にミラにある冒険者組合の徒弟制度を利用。リラスという女冒険者に師事することとなる。最初は短剣を選び、セウにある迷宮『ミラ』で訓練を積み、やがて水のギフトに目覚める。


 それ以降、武器を扱う事は殆どなく、本格的にギフト使いとして訓練を積むためにリラスの元を離れてアリエスという女性のギフト使いに師事することとなる。

 アリエスもシィナと同じく水のギフト使いだ。その道ではベテランであり、もう老人に差し掛かる冒険者だ。アリエスは迷宮に潜ることはほとんどなくなったものの、ギフト使いの先生としての需要は高いらしく、シィナと同時期に何人かの弟子もいたとのこと。


 シィナはアリエスの元でギフト使いとしての力を高めながら、セウで『オリソンテ』というパーティーを結成。同年代ばかりを集めたパーティーでギフト使いとして活動。

 新人ばかりのパーティーにしては、それなりにカルヴァオンを稼いでいた新進気鋭のパーティーだったようだ。

 だが、それから数年目立った活躍を見せる事はなく、色々とあった結果『オリソンテ』はパーティー解散となった。あるメンバーは冒険者を辞め、また別の冒険者は新しいパーティーを作って冒険を続けるのだ。


 だが、シィナはそのパーティーには入らず、王都へと向かう。その頃には徒弟制度も終わりを迎えており、アリエスの元は卒業となっていた。

 王都でシィナは『アルデバラン』というパーティーに所属することになる。


 ナダが資料を見る限り、『アルデバラン』は“訳あり”のパーティーのようだ。結成当初はパーティーメンバーがリーダーと合わせて二人だけ。パーティーとしてならあまりにも少なすぎる。

 それからシィナが入り、暫くの間は三人で活動していた。


 どうやら『アルデバラン』のリーダーであるルードルフは、冒険者として問題があったらしい。その理由としてはアビリティが使い物にならなかったようだ。

 よくある話である。

 冒険者になった者が辞める理由として最も多い原因は、ギフトとアビリティに目覚めなかった者である。彼らは自分に冒険者としての才能がないことが分かった時に辞めていくのだ。


 次に辞める理由として多いのが、有能なアビリティに目覚めなかった者だ。弱いアビリティや使いどころがないアビリティである。

 そういう者は最初自分のアビリティについて別の使い方はないか、と探すのだが、大抵は見つからない。


 どうやらルードルフも使えないアビリティに目覚めて、冒険に苦労したようだ。この資料にはアビリティについての詳細も書かれているが、使えないアビリティ、としかなかった。


 それが原因なのか、アビリティに目覚めて数日後に元々所属していたパーティーからは抜けているようだ。原因は書いていなかったが、きっと無能のアビリティだと蔑まれ、追い出されたのだろう。

泣ける話である。


 それでもルードルフは、冒険者を続けるしかなかった。

 だからアビリティに目覚めても、大半の間は武器だけで迷宮に潜っていたようだ。さらに追い出された最初は一人で。

 どうやら苦労したようだ。

 その頃のカルヴァオンの量が少ないので、簡単に分かった。


 一人になって初めて、仲間の偉大さと言うのが分かるのだ。

 これまで簡単に倒せていたモンスターも倒せなくなる。

 ナダにはその気持ちがよく分かった。


 ナダは自分と似た境遇であるルードルフに酷く共感してしまった。書類に書いてあるのは第三者が作った情報であるが、ナダにはその苦労がとてもよく分かった。少しだけ境遇は違うが、同じ経験をナダもしたからである。


 瞳に熱いものが混み上がってくる。目の前に受付嬢がいなければ、すぐにでも泣いていたかもしれない。

 最初ナダはシィナの情報を得るために、受付嬢から預かった資料を読んでいたのだが、途中からルードルフの資料を熟読していた。

 はやる気持ちを抑えて資料を読んでいく。


 ルードルフは、アビリティに目覚めてからずっと底辺の冒険者生活を送っていた彼だが、やがて一人の――アリーシャという仲間が出来る。その経緯などは書いていなかったが、まだ新人の冒険者のようだ。

 そして二人という少ない人数でパーティーを組んで十数日後、シィナがパーティーに入った。

 既にミラで活躍していたシィナが、底辺のパーティーであるルードルフの『アルデバラン』に入った事は謎だった。


 だが、この頃から『アルデバラン』のカルヴァオンの獲得量が跳ね上がっている。新人のアリーシャが入った頃から上がっていたようだが、三人でのパーティーになってより増えたようだ。


 その要因も当然のように資料に書かれてあった。

 ルードルフのアビリティについて、資料にはこう書かれてあった。

 ――彼のアビリティはとても優秀である。ありとあらゆる冒険者を超える素質の持ち主であり、今後を担う冒険者の一人になると。


 ナダは思わず資料を握り潰しそうになった。

 先ほどまで共感していた自分を殴りたくなった。

 持っていたアビリティが無能だと思ったが、本当はとても有能なアビリティだったなんてふざけた話である。

 羨ましい話でもある。

 先ほどまで胸に込み上がっていた気持ちは、簡単になくなった。


 それから『アルデバラン』は破竹の勢いで、インペラドルで活躍していく。三人ではぐれを倒すこともあり、カルヴァオンの取得量もパーティーとしてどんどん増えていく。


 王都の宝玉祭にも呼ばれて、国王より勲章をもらう事も何度もあったようだ。

 『アルデバラン』が勲章をもらう時期の一つは、ナダが宝玉祭に呼ばれていた時期も含まれている。どうやら同じ時に王都にいたようだ。


 どうやらルードルフのアビリティが覚醒を遂げてから、『アルデバラン』は破竹の勢いで活躍していく。

 パーティーメンバーも次々と増えていく。

 ジュリア、ケリー。ルードルフ以外のメンバーが女性ばかりなのは気にかかったが、ようやくまともなパーティーの人数になったようだ。

 短い間に幾つもの快挙を達成したようだ。

 その功績が次々と書かれている。


 だが、もはやナダにルードルフに感動することなどない。

 もう一度、この資料を握りつぶしたくもなった。


 そして、『アルデバラン』は転機を迎える。

 活動場所を変える事になったのだ。

 元々『アルデバラン』はルードルフの出身である王都ブルガトリオで、インペラドルにずっと潜っていた。他の迷宮に活動場所を変える事もなかった。ルードルフ自身も冒険者を志した時も、パーティーから追い出された時もずっと王都にいたようだ。


 向かった先はここ――マゴスだった。

 マゴスでも『アルデバラン』は以前と同じように活躍していたようだ。ナダは興味なかったので知らなかったが、オケアヌスでも有名のパーティーだったようだ。


「ナダ様は覚えていないと思いますが、『アルデバラン』からも勧誘がございました。勿論ナダ様は覚えていないでしょうけど」


 ナダが資料を読んでいると、その部分をちらっと見た受付嬢が釘を刺すように言った。

 もしかしたらもっと早くに見つけていれば、『アルデバラン』に入ると言う選択肢もあったかもしれない。


「……ありえないな」


 ナダは受付嬢にも聞こえないほどの小さな声で言った。

 そんな選択肢はない。

 男一人に他が全て女のパーティーなど正気じゃない。きっと色恋沙汰が大変なパーティーだろう。入ろうとも思わなかった。


 そして、ナダはオケアヌスでも有名だった『アルデバラン』の情報を進めていく。もうあと一ページしかなかった。


「ああ、そこは――」


 彼女が悲しそうな顔をした。

 そこには――こう書かれていた。


 『アルデバラン』はマゴスに挑戦し、強いはぐれに運悪く遭遇し、冒険に失敗。シィナ一人だけが地上に戻る。

 どうやらそのはぐれを相手にした時、ルードルフは逃げる事を決めたようだが、殆どの仲間が逃げられなかったようだ。

 それからの資料は、迷宮に戻ってきたシィナの供述に関することであった。

 はぐれと出会うまでの状況。はぐれの特徴。逃げる際の出来事。どうしてシィナだけが逃げおおせたのか、など様々な事が書かれてあった。


 そして最後に――これを機にシィナは冒険者を辞めた、とも書いてあった。

 これが、彼女の冒険者を辞めた理由だと思った。

 それからも受付嬢の目を誤魔化すように、ここマゴスにいる引退した冒険者の情報を探していく。

 念のためナダは自分のパーティーに相応しい冒険者を探すが、残念ながらシィナ以外に気に入る冒険者はいなかった。

ルードルフを主人公にして、アビリティで無双する小説を書いてみたい気もします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あー!確かに!あの時のパーティのことなんですねえ。
[良い点] 初めてコメントします。 豪快で無鉄砲な主人公のファンタジー小説でいて、その成長や周囲評価などは牛歩の如くゆっくりも確実に重ねていく今時の流行とは違う構成がとても好ましく思いました。 シィ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ