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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第三章 古石
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第四十六話 ユニコーンⅢ

 ユニコーンが現れた後の迷宮は、モンスターの坩堝るつぼと化していた。

 まるで濁流だ。

 迷宮にはモンスターハウスと呼ばれる場所が存在する。そこには多数のモンスターが存在し、冒険者を襲う罠と言われている。勿論モンスターハウスが存在するのは広い空間であり、戦うのには適した空間が多かった。


 だが、ユニコーンが呼んだモンスター達は違う。

 ナダ達がいるのは五人も並べば窮屈である狭い通路だ。ナダの持つ大斧を振り回せば壁に当たるほどの広さしかない。そんな通路にモンスター達はお互いの頬が重なるほど並び、まるでユニコーンを守るかのようにナダ達へと突進してくる。


 最初にやってきたモンスターは牡鹿の姿をした『セルヴォ』と呼ばれるモンスター達だ。彼らは頭に鋭い角を持っており、それでやられる冒険者も多い。そんな彼らの攻撃から身を逃がす術はない。


「――『焔龍の吐息クェアダ・シャマ』」


 そんな大量のモンスターに遭遇した時、既にアメイシャは両手を前に出してギフトを唱え終わっていた。

 モンスターへの先手必勝は、アメイシャのルーティンの一つだ。

 攻撃を与えられる前に全力のギフトを叩きこむ。それは最も効果的で、確実な攻撃の一つ。それは牡鹿を全て焼き尽くすように放たれた。

 そしてそんな彼女に合わせて、ギフトを唱える冒険者が一人。


「――雷の主よ。我が意志たる化身よ。我が偉大なる血族よ。我に、天をも貫くいかづちを。あまねく森羅万象を貫く槍をわが前に顕現したまえ」


 コロアは右腕をセルヴォたちへと向けていた。

 唱えたギフトは『空から放たれし閃光(セウ―・クリダード)』だ。真横に延びる雷撃であり、一瞬の閃光と轟音が鳴り響く。

 二人のギフトによってセルヴォは一瞬にして殺された。中には跡形も体が残っていない個体もある。

 だが、その後ろから押し寄せる様々なモンスターの前に、冒険者の足並みは一瞬だけ止まるが、これまでの隊列を崩さずに変わらず前へと進んだ。


「しっ――」


 勿論先陣を切るのはナダだ。

 様々なモンスター達の壁を大斧で切り開く。殺している余裕などない。大斧はモンスターを退けるためだけに使った。今使っている装備はナダが着てきた中でも最も上等な物の一つだ。はぐれならまだしも、たかだか普通のモンスターに傷つけられるような鎧ではない。退けられないモンスターの牙や爪はあえて肩や胸、兜など鎧の固い部分で受けながらナダは進んでいた。

 既にユニコーンの姿は遠くで小さくなっている。

 ナダが殺したいのは、ここにいる雑魚ではない。

 一刻も早くユニコーンを倒すために、ナダはひたすら前だけを見据えている。


「一体、これはどうなってやがるんだ!」


 レアオンは叫んだ。

 他の冒険者もモンスターの波に流されている。

 既にアメイシャもコロアも剣を抜いていた。アメイシャは無数の火の玉を生み出して焼きながらナイフで切り、コロアは常に弱い雷撃をモンスターのみに流しながらイリスと同じほどのスピードでモンスターの間を駆け抜け、切り殺している。


 イリスはコロアやアメイシャを中心に縦横無尽にモンスターを切り崩し、コルヴォやオウロはナダの元へ急ごうとしながらもそれよりも多いモンスターに阻まれるので目の前のモンスターを倒すだけで精いっぱいだった。


 誰もが目の前のモンスターに必死だった。

 モンスターの波は冒険者を飲み込もうとしている。彼らはそれに只、耐えているだけだった。


「まずいわね――」


 イリスは今も目の前のモンスターを切り刻みながら言った。


「ああ、まずい――」


 コロアは今も雷撃と斬撃を同時に放ちながら言う。


「どうするんですか!?」


 アメイシャも手いっぱいだった。

 自身の周りはコロアとイリスに守られているが、二人が戦っている多くのモンスター。それにオウロやコルヴォの周りにいるモンスターへも攻撃をしている。

 どれから倒せばいいか、誰を守ればいいか、首を必死に動かして迷いながらもギフトを放っている。


「オウロ、提案があるんだが――」


 そんな中、ナダを追おうとしているコルヴォは横で同じような動きをしているオウロに話しかけた。

 モンスター達の咆哮に遮られながらも確かにその声はオウロに届いた。


「もしかしてコルヴォも似たような事を考えていたのか?」


 オウロは笑った。

 二人の視線は一瞬だけ交差させた。

 それからすぐに目の前にいるモンスターに向けて大技を放つ。


「『新・鬼殺しオーガ・スレイヤー・ブレイク』」


 限界まで腕を巨大化させたコルヴォの一撃は床ごと壊すような破壊力であると同時に、周りに衝撃波が発生し、多くのモンスターを退けた。


「『酸の雨アシッド・シューヴァ』」


 オウロは自身の持つアビリティである『蛮族の毒バルバロ・ベネノ』から、酸性の毒を生成し、それは皮膚から剣へと流れる。オウロが剣をモンスターに振るうと同時に彼の毒はモンスターの体表を焼き、本来なら多少の痛みなのでは止まらないモンスターの動きを止めた。


 二人は示し合わせたかのようにモンスターの動きを一瞬だけ止めると、自分たちを追い越したモンスターを追うように斬りながらアメイシャやコロアの元まで後退した。


「アメイシャ、オレ達の周りのモンスターはいい。ナダの先に全力でギフトを放て――」


 コルヴォはそう言いながら、アメイシャの周りでモンスターを退け始めた。

 全てはアメイシャのギフトのリソースをナダへと向けるためだ。

 アメイシャもそんなコルヴォに従い、目を閉じて精神を集中させてから祝詞を口から溢れさせる。


「いい考えじゃない」


 そんなコルヴォをほめたたえるようにイリスは言った。

 だが、それに返事をしている余裕がコルヴォにはない。


「――お前たちが来たのなら我は必要ないな」


 コルヴォとオウロが戻ってきたことにより、パーティーの前線を維持しなくてよくなったコロアは、全身と剣に強く雷のギフトを流す。電気によってレアオンの金髪が宙に漂った。

 それによって反応速度、スピードと共に七人の中で最速まで上がる。

 コロアは誰にも許可を取らなかった。

 ただ自分が最善だと思う選択肢を考え、選び、モンスターの間を縫うようにしてナダの元まで駆ける。


 そんな時、モンスターの異変に気付いたのはレアオンだった。

 狭い迷宮の中でただ一匹“空を飛ぶモンスター”を見つけたのだ。


「あれは、何だっ!」


 誰も気づいていない中、レアオンは上空から滑空して冒険者へと降り注ぐモンスターに対して、カウンター気味に剣を振るった。

 するとそのモンスターはレアオンの剣を避けるようにもう一度上空へ上るように地面を転がった。


 レアオンが見つけたモンスターは雄々しい姿をしていた。

 その顔に見覚えがあった。

 頭部に生えた二本の牛のような角。顔自体は山羊に似ているが肉食獣のような獰猛な牙。

 それに――赤い瞳。

 忘れるわけがない。

 あのモンスターは“はぐれ”だ。

 そしてレアオンにとって最も忌々しい敵――


「――ガーゴイル」


 かつての因縁の相手。

 レアオンにとってあの頭部は忘れる事がなく、出来ればこの手で殺したいと思っているモンスターだ。


「こいつは僕がっ!!」


 他のモンスターとは違う殺気。

 強者の目。

 こいつは引き離さなければ、パーティーの生死にかかわると判断した。

 すぐにレアオンは剣を相手に叩きつけた。

 ガーゴイルはそんな剣を槍で防ぐ。


 そして――アメイシャの祝詞が終わる。


「ナダ、横に飛べ!!」


 オウロの大声。

 それに従うようにナダは前へと進んでいたのをやめて通路の端に飛ぶ。イリスやコルヴォ、オウロでさえも通路の端へと飛んだ。

 

「――『焔龍の吐息クェアダ・シャマ』!!」


 最大火力を込められた彼女のギフトは龍となってナダの元まで駆けた。

 それから龍は膨れ上がり、モンスター、冒険者とも関係なく全てを炎となって包んだ。

 勿論、その炎はアメイシャすらも飲み込んだ。


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