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(サウスポー……、どこかで見た事があると思いましたが、やはり五礼館の選手でしたか)


 榛原は試合のフィールドに立ち、相手選手の様子を品定めするように眺める。

 相手はショートカットの髪に男のような太い眉。五礼館チームの中堅、白石しらいしという選手だった。彼女は榛原の視線にも怖じずに睨み返し、試合開始の挨拶のため左手を前に突き出している。

 榛原も応じて右手を前に出す。両者の拳が触れあう。わずかばかりの沈黙。


 団体戦としての状況を考えれば、今しがたの樋口麻衣の敗北により一歩リードを許した状態。

 その上、現在進行中の大星由紀の試合も、勝ち星に換算するには分が悪すぎる。

 となるとすでに2敗、王手をかけられているといっても過言ではない。


 榛原は自分に言い聞かせる。この試合、負けることは許されない、と。


(……当然、もとより今日は負ける気などありません)


 榛原の頬が不気味に歪む。その表情の変化を、相手選手である白石はどう感じ取ったのか。

 直後、突き出したお互いの両腕が弾きあい、瞬時に動く二人。


 榛原は前へ、白石は後ろへ、しかしより速いのは榛原で、二人の距離はいくらか縮まる。すでにブローの届きうる距離。榛原が先制を仕掛けるべく、相手の動きの隙を見計らった瞬間だった。彼女は、相手の行動に少しばかり驚かされることになる。


 白石が榛原の目前で取った行動。それは


(コンヴェルシブロー……?)


 左手を高く、自分の顔よりも高く掲げたフォーム。

 その位置から斜めに振り下ろすことで、途中まで相手の顔面を襲う軌道で進み、相手の動きを硬直させた後、ボディーを掠めるようにポイントを奪う技術。


 榛原未来の真骨頂とも呼べる技。その構えを、白石は真似て見せたのだ。


 構えだけではない。直後の事だった。素早く振りぬかれる拳。白石の左手は、確かに途中まで榛原の顔面を目掛けて進み、その途中で軌道を鋭く変える。


 今まで自ら受けたことのないブローを、榛原は経験する。

 確かに硬直し、地に縛り付けられる身体を、白石のブローが掠る。直撃ではないが、3ポイントの有効打撃点である。


「シッ!」


 直後、榛原は咄嗟に地を蹴って後ろに下がる。下がりながらも反撃の姿勢をちらつかせ相手の追撃を許さない。勝負は一度仕切りなおし。榛原にとっては、このわずかな時間が今確かに重要だった。


 状況を整理する。相手の繰り出した技は、紛れもなく自分の得意技だった。まさか相手がコンヴェルシブローを使えるとは。まさかよりによってこの自分に向けて、その技を放ってくるとは。全てが予想外の事態で、さすがの榛原も動揺を隠せない。


(これは封印しようと思っていましたが……、考えが変わりました)


 榛原も右手を高く掲げる。張り合うわけではないが、自分の十八番を相手に奪われたままでは引き下がれない。言うなればこの技は自分のベルヒットそのものなのだから。


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