18
朝九時から開始された大会は滞りなく進行され、午前中にはほとんどの試合を消化し終えた。
昼休憩を挟んで行われるのは、いよいよ本大会の最終試合。決勝戦であった。
早川率いる朝日野女子チームに対するは五礼館高校チーム。
その一、二番手による最初の試合は、この大会で初めて朝日野チームが苦戦する経過を辿っていた。
「くっ!」
麻衣が苦しげに声を漏らす。得点掲示板を横目でチラリと見る。点差は8。が、自分のリードではない。大幅なビハインド。額に汗が伝う。
相手選手は麻衣よりもいくらか背が高い。余裕の表情で佇んでいる。同じだけの時間を闘っているはずなのに、なぜか自分だけが疲労を感じている。そんな現状も、麻衣の焦りに拍車をかけていく。
麻衣は意を決して相手へと踏み込む。タタ、と鋭いステップで、一足飛びに相手との距離を詰める。とにかく点を奪いたい。素早く蹴り出すローキック。
が、相手は狙い済ましたかのようにギリギリでそのローキックをかわし、反撃の姿勢を見せる。
(フットワークが通用しない……! スピードじゃ負けてないはずなのに、全部避けられてる? こうなったら……)
奥の手を出すしかない。反撃に構える相手選手を見るや否や、麻衣は両脚に意識を集中する。
ラビットターン。両脚を揃え強く地を蹴り、相手の横を掠めるように飛び出す。
が、その瞬間、
(や、ば、ぶつかる……?)
麻衣の飛び出す射線上に、相手は先回りして身を寄せ、姿勢を落とし、麻衣を迎えうつように両腕を構えたのだ。
地を蹴って重心が浮き、速さはあるものの安定を失った麻衣。
両脚を広げてどしりと構え、その場に留まる相手。
衝突の際にどちらが勝つかは言うまでもない。
麻衣の身体が横に弾かれる。渾身のターンを無効化され、さらにはバランスを完全に崩される。気付けば麻衣は、横向きに手をつき倒れ込んでしまっていた。
(ラビットターンを身体ごとブロックしに来た……? って、そんなことより……!)
慌てて得点掲示板を見るが早いか、甲高い笛の音が鳴り響く。呆然。しまった。
樋口麻衣、今大会二試合目となる彼女は、2ラウンド途中での敗北を喫することになった。




