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「一時はどうなることかと思ったけど、順調に勝ち残れてよかったわ」

「そだね。ここまで来たからには、次も勝って優勝したいね」


 麻衣と茜が顔を合わせて笑う。朝の時点では試合に参加できるかどうかすら危うかったことを考えると、こうして無事決勝戦まで残れたのは喜ばしい。


「麻衣ちゃん、本当に強くなったよね。ベルヒット初めて二ヶ月でこんなに上達するなんて、やっぱり麻衣ちゃんはすごいな」


 そんな中、天見が口を開く。彼女は麻衣に向けて喋る時、普段とはまるで違う子供のような喋り方をするのだが、今日は周りの目があるからか自重して声も小さかった。


「そ、そうかな? 千佳こそ、さっきから圧勝ばっかりじゃない」


 照れくさそうに天見のことを褒め返す麻衣だった。しかし、そんな彼女に予想外の爆撃が。天見の口から。


「……麻衣ちゃんが見てたから、頑張っちゃった」


 恥ずかしそうに答えた天見の姿。そのあまりのいじらしさに胸がキュン、と高鳴り、麻衣は頬を赤く染める。


「あーもう、可愛いんだから、こいつぅ……」


 麻衣も恥ずかしくなって茶化すように指で天見の頬をつつく。すると天見はどこか嬉しそうに目を細め笑う。それを見てなおさら麻衣は天見の頬をつつきたい衝動に駆られ、次第に二人は怪しげな雰囲気に突入していく。


「うふふ……」

「あはは……」


「もしもーし。ダメですね、完全に二人の世界に入ってます」


 彼女らの前で手を振って見せた由紀だったが、案の定何の反応も得られなかった。

 イチャイチャしている二人は置いておき、榛原が話題を正常に引き戻そうとする。


「ところで広橋さん。あなたは今日まだ試合をしてないはずですが」

「?」

「ウォームアップが必要なら相手になりますよ。次の決勝戦には、まず間違いなくあなたの出番がやってくるでしょうから」

「未来ちゃん……」


 榛原の申し出に茜は嬉しそうな顔をする。今は共闘関係とはいえ、あの榛原が自分のためにウォームアップを手伝ってくれるという。

 ただ、茜のウォームアップは他の選手とは少し事情が違う。茜は不本意ながら、榛原の申し出を断ることにしたのだ。


「ありがとう。でも、これから早川先生に手伝ってもらうつもりなんだ。試合に出る未来ちゃんに余計な負担かけれないし、今日は大丈夫だよ」


 茜のウォームアップを手伝うとなればかなりのハードヒットを受け止める必要がある。これから試合に出る選手にそんなことはさせない方がいい。そう茜は判断した。

 すると榛原は少しだけ残念そうな顔をして


「そうですか。なら一つだけ。試合前に伝えておきます」


 と小声で口にした。周りを気にするような素振りで、怪訝に思う茜へと耳打ちする。


「次の相手、私の記憶と予想が正しければ、おそらく曲者揃いでしょう。特にあなたの相手は『ペテン師』とまで呼ばれている……」

「ペテン師……?」


 目を丸くする由紀や林道を尻目に、驚く茜へ向かって榛原は告げた。


「ゆめゆめ油断しないことです。単純な実力勝負ならあなたはまず負けませんが、その土俵に引き込むまでがきっと一番難しい」


 あくまで淡々とした榛原の忠告。茜はその言葉の意味することを理解し、ごくりと唾を飲み込んだ。

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