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 区民体育館のある一室。試合が行なわれている会場から外に出てすぐの所に、試合の選手や関係者用に解放されている休憩室があった。


(チーム数が少ないのもあるけど、あっという間に決勝まで来たな……)


 休憩室の片隅で缶コーヒーを飲みながら、早川は頭の中で呟く。

 もちろん、勝てないと思っていたわけではない。

 今回のメンバーは道内でも屈指の選手ばかりが揃った、言わば夢のチームなのだ。だから参加者の少ないマイナーな大会でなら、軽々と優勝してしまうかもしれない。そんな可能性は想定してあった。だが、それにしてもだ。


(ここまですんなり来られるとは……。二回戦でも相手チームの二年生に由紀と麻衣が勝っちまったし、天見は一ラウンド勝利。……今日はまだ、茜は一試合もしてないなんて有様だ)


 団体戦ではどちらかのチームの勝利が決まった瞬間、それ以降の試合は中断され行われない。

 常に榛原か天見の時点で勝負が決まってしまうのだから、茜は試合がしたくても出来ないことになる。それがいい事なのか悪い事なのか。本人にとってみれば、きっと退屈に違いないのだろうけれど。

 早川はコーヒーをもう一口含み、ちらりと横を見る。その視線の先には、二回戦を終えて昼休憩に入っている選手たちの姿があった。





「祝、二回戦突破です!」


 白いテーブルの上に自宅から持ってきた弁当を広げながら、元気に声をあげるのは由紀だった。周りには第七格闘部の面々はもちろん、榛原、天見がテーブルを囲むように座り、各々次の試合までの腹ごしらえをしていた。

 小さなおにぎりを手に持ち、由紀の弁当箱の中身を見て驚く麻衣。


「うおお、すごいな。これ、由紀のお母さんが作ってくれたの?」

「そうです。大会って言ったら張り切っちゃって」


 まるでピクニックに来たかのごとく弁当箱に山ほどおかずを詰め込んできた由紀だったが、怪訝な顔で榛原が口を開く。


「……大星さん、まさか試合までにそれを食べる気ではないでしょうね? 忠告しておきますが、自殺行為です」

「え、ダメなんですか? まだ一時間以上ありますけど……」


 不思議そうな様子で聞き返す由紀に、呆れ返って榛原が告げる。


「ダメに決まってるでしょう。次の相手が広橋さんみたいなハードヒッターだったらどうします? そうでなくても、人間食べてから数時間は満足に走れません」


 ぴしゃりと言い切る榛原に、由紀は物惜しげながら観念しておかずの選別を始める。試合前に食べておきたいもの。験をかついで、カツ。そんな風に箸を動かした瞬間、「消化の悪い揚げ物は試合前には厳禁です」と容赦ない否定が耳に届く。結局由紀は渋々といった様子で焼き魚に手を伸ばしたのだった。


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