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泡沫の魔神  作者: いしかわがる
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anger(5)

 一瞬の出来事だった。今度は、胃の中にあった発泡酒と、お通しの枝豆、あと砂肝が、怒濤の如く路上にブチ撒けられる。一気呵成にブチ撒けられる。踏みにじられた犬の糞を押し流さんばかりのゲロの飛沫にまみれる俺のお気に入りのダンク。そして更なる不幸が俺を襲う。嘔吐に伴う横隔膜と腹直筋の収縮により、括約筋が緩んだのか、自覚の無い便意、もしくは便意の第三者? とでも謂うべき〝モノ〟が俺の股間をこんもり暖かく膨らませたのだった。

 甲類アルコールで弛緩していたせいもあるだろう。だが、なによりも、諸悪の根源は無責任に打ち捨てられた、彼の犬糞。

 俺は必ずや総理大臣に当選して、この糞ったれな社会に巣食う極悪不埒な大罪人共を処罰して行く旨を心魂に刻みつつ、辺りを見回し、なんとなく人目の無いことをボンヤリ確認し、おもむろに、慎重に、まだパンツの中に留まっているブツを、アウトサイドにまろび出さす事に腐心した。

 幸いな事にそのモノはしっかりとしたカタチを保っており、人的被害は右手の第一指及び第二指だけで済んだ。

 ヴァレンタインの夜。閑散とした通りで冷ややかに薄情な光で俺を照らす自動販売機の返却口に、成功の影で犠牲となった二本の指を突っ込んでなすり付ける。悪気など全く無かった。有るのは唯々怒りだけだった。

 ガニ股でヒョコタンヒョコタン帰宅した俺は、父母が就寝しているのを気配で察知し、ズボンとパンツをコンビニ袋に突っ込み、口を幾重にも結びゴミ箱に放り込むと、風呂場で丹念に股間を流しミューズでゴシゴシと洗った。

 早くもアセトアルデヒドに因る痛みが節々や前頭部を襲い始めたが、ヒトとして、ホモサピエンスのハシクレとして、とりあえずそこまではせねば寝床へ入れぬとて、歯を食いしばってシャワーを浴びた。

 ジャージに着替え、俺は兎に角眠りにつきたかった。今日起こった出来事のすべてを忘れたかった。出来れば人生全てをリセットしたかった……

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