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泡沫の魔神  作者: いしかわがる
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anger(4)


 自宅へ帰るには、寂れたこの商店街をまた駅前方面に逆戻りする必要があるのだが、古いアーケード街は、21:00には街灯の電源が全て落とされ、いとすさまじき魑魅魍魎の棲み家を彷彿とさせる。……魑魅魍魎の棲み家を見たことは無いが……。

 いかに酔っぱらいの喪男と謂えども、生来妄想家で小心者で臆病者ゆえに、百鬼夜行の通り道のような様相を呈す闇深き通りよりかは、サラリーマンや、ヤンキーで賑やかな、一本裏手、些かアウトサイダーな趣の飲屋街を選んでしまうのも致し方ない事。しかしながら、『乃利子』に行く道ではあれほど賑やかだった通りが、表も裏もなぜか帰り道ではネコの子一匹いない閑散としたゴーストタウンのようだ。まだ皆おのおの贔屓の店でバァアっとヤってる時間なのかな? 

 正確な時間が判然としないまま、まぁ、後は父母と愛猫の待つ我が家へ帰るだけの俺にはカンケーねぇや。と意味も無くぐるりと360度ターンした後、歩を進めた途端軽い目眩と共にヨロけてしまった。

「おおぉっとお! あぶないあぶない」と立て直したのも束の間、其の先にあったものに足をとられ、挙げ句無様に尻餅を突いてしまう。

 足を取られた理由は即座に理解出来た。よろけた先にあった〝ブツ〟を踏んづけ、ニュルリとスべっちまったのだ! 

「フンヅケちまったぁ! 糞ォ!」すかさず立ち上がり、再び辺りを見回す。やはり人っ子一人、ネコの子一匹いやしねぇ………………

 お気に入りのダンクのソールにベッタリとヒリたてホヤホヤのドッグシット。否、ドッグシットじゃ、馬鹿みたいだ。プープか? ドグプープ。う⁓ん……言いずらいな。やっぱドッグシットでいいや。ホットドッグシット。 いやいやいやいや! どうでもいいよ! どうでもいいじゃん! ShitだろうがPoopだろうがDungだろうが、どうでも良い事じゃん!

 やり場の無い怒りが心頭に発す。したたか酔いが回っている事も手伝ってか、ゲロと糞尿まみれの寂れた裏通りに響き渡る程の滑らかでラウドなヴォイスで虚空に向かい怒りをブチ撒けた。

「私はぁ! 此処に宣言するぁっ! 私がぁ! 内閣ぅ、総理大臣に当選した暁にはぁ!  飼い犬のウンコをぉ、放置した糞飼い主をぉ! 国家権力のアリッタケを行使して、草の根分けてでも探し出し、ネコの糞だらけの砂利の駐車場に正座させて、三時間説教した後、過料5億円のうえ、飼い犬共々肥溜めの中に50年ブチ込んでやるぁ! という法案をぉ! 強行採決することをぉぉぉお!」

寂れた街の虚空は黙ったまま俺のマニフェストを受け止めてくれたようで、星々がやけに綺麗に輝いていた。

 熱い演説を終え、拳を固く握ったまま近隣住民の怒声を一身に受けながらふとまた、ダンクのソールにベッタリとヘバリ付いた糞を覗き込み地面に擦り付ける。

なぜかそのとき、不覚にもあのデブのあのケツの穴みたいなオチョボ口が思い出されたのだ。そしてそのタイミングで立ち上る臭気が鼻を衝いたのだった。

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