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眠れるラマン

作者: 竹仲法順

     *

 ベッドの上に寝そべり、サイドテーブルに置いてある水割りのグラスを手に取って、強い酒を一口飲む。そしてテーブルへと戻した。ゆっくりと夜の時間が流れていく。ここは俺の自宅マンションだ。パートナーの理恵は眠りに就いている。さっきまで激しく求め合っていたからか、極度に肉体が疲労してしまっているのだろう、幾分疲れているようだった。夜間は幾分冷える季節になってきている。体の上にタオルケットを掛け、睡眠を取るため、横になった。だが、なかなか寝付けない。さすがに疲労が溜まると寝付きも悪くなる。ベッドから起き上がり、リビングの棚を見て、市販の睡眠導入剤を探した。見つけてすぐに規定量である一錠を服用するため、キッチンへと行く。グラスに一杯水を注ぎ、それで喉奥へと流し込んだ。即効性があるのだが、俺の場合、不眠が慢性化しているので効き辛い。だが薬を飲んだ後でも寝付けないときは起きておけばいい。今は便利な時代で、テレビを見なくてもパソコンやスマホなどでいろんな情報を閲覧できる。そういった機器を利用しているのだった。こんな深夜にパソコンを立ち上げることはなかったのだが、手元にあるスマホを使いながら情報を見続ける。寝転がったまま画面を見てネットに繋ぎ、いろんなものを見ていた。眠気が差せばすぐに電源を切って充電器に差し込み、ベッドに潜り込む。普段職場でスマホを使うことが稀にあった。それに通常のパソコンじゃなくてタブレット式のパソコンを使うこともある。フロアでの仕事ではデスクトップ型のパソコンを使い、外で仕事をするときは、持ち運び出来るパソコンやスマホを使う。いろいろとあるのだった。外出先でも最近はそういったIT機器を欠かさず持っていく。紙に印字する機会はほとんどなかった。出来上がったデータも上司のパソコンのアドレス宛にメールで送る。そういったことは徹底しているのだった。俺も新しい物を使うことに対して、そう抵抗はなかったのだし……。その夜も眠れるまでスマホを弄っていた。機械は滅多なことじゃ壊れない。今日は土曜日で明日が日曜だから、ゆっくりと一晩理恵を抱くことが出来る。丸一夜寄り添えば気分が変わるのだ。それまで蟠っていたことが雲散霧消するように……。

     *

眞人(まこと)さん」

 呼ばれて不意に目を覚まし、ベッドサイドの置時計を見て午前五時過ぎだと分かる。まだ明け方だった。理恵が外していた下着類を付け、シャツを着て、起き出している。俺も幾分眠かったのだが、起き出し、ゆっくりとベッドを出た。そしてキッチンへと歩き出す。疲れていたのだが、彼女が起き出したとなれば、コーヒーを一杯淹れてあげたい。おそらくかなり眠気が差しているだろうからだ。朝方は眠気があるので、起きてすぐはふらつくぐらい危ない。ホットのコーヒーをエスプレッソで一杯淹れて差し出せば、飲んですぐに眠気が吹き飛ぶだろう。俺も理恵がコーヒーに砂糖やミルクなどを入れずにブラックで飲むのを知っていた。薬缶にお湯を沸かしながら、カップにインスタントコーヒーの粉末を多めに入れて待つ。傍から見て若干疲れているようだった。俺も普段ずっと会社にいるときは仕事で疲れてしまっている。疲労はずっと溜まっていくからだ。仕事の量と共に……。だが、せめて休日ぐらい仕事のことを忘れてゆっくりしたい。そう思っているのだった。

     *

 理恵は確かに俺のラマン――、愛人だ。と言うよりも、互いに独身者同士で付き合い続けている同棲相手同士と言った方が正しいだろう。愛人というと、何か仰々しい感じがするのだが、別に他意はない。俺も気にしていなかった。単に愛を育み合う人間同士として付き合うことに遠慮は要らないのだし、抵抗がないからだ。互いに知らないことがまだまだ多かった。彼女と知り合ったのは五年前の秋だったからである。二〇〇七年の九月に街のカフェで知り合い、それからずっと愛情を育み合った。確かにこの五年間、ほとんど週末は理恵が俺のマンションに来て、何もかもを曝け出しながら愛し合っている。ずっと継続して付き合い続けているのだった。別に過剰に意識することなく愛を伝え合えている。俺も普段会社でいろんな想いを抱きながら、付き合い続けているのだった。まあ、俺自身四十年以上生きてきて、まだ三十代前半の理恵を手放すつもりはなかったのだが……。彼女の愛が俺を救ってくれていると思えるからだ。体の関係はあるのだけれど、精神面でもちゃんと寄り添い合えている。特別なことは必要ない。愛情を移せさえすれば、それで済むからだ。俺もそう感じているのだった。

     *

 沸いたお湯をコーヒーの粉末が入ったカップに入れて、軽くスプーンで掻き混ぜ、差し出す。理恵が、

「ああ、ありがとう」 

 と言ってゆっくりと飲み始めた。眠気が差していた脳に朝一のコーヒーはかなり効くようだ。俺も自分の分を一杯淹れて飲んだ。眠気が取れる。ストレスが掛かると、頭も疲れてしまう。だが朝の一杯で、幾分不眠気味だった体の疲労も取れた。コーヒーは不思議な飲み物である。カップ一杯飲むだけで、その日一日が全然違ってくるのだ。ずっと会社でパソコンに向かっているので、キーの叩きすぎで腱鞘炎になってしまっていた。たまにはゆっくりと休めることも必要だ。コーヒーの入ったカップを手に持ったまま、リビングへと歩いていく。さすがにきつかった。俺も生身の人間だ。限界を覚えることがある。一日オフィスで過ごしていると疲れてしまう。職場がずっと同じ調子で回っていくからだ。パソコンやスマホなどを使いこなしながら、業務を続ける。別にこれと言って気になることはない。ただ、ゆっくりと歩いていくだけだ。理恵と一緒にいながら、疲れが癒えるのが分かっていたので……。コーヒーを飲んだ後、神経は覚醒したのだが、互いに頷き合いベッドの上で過ごしていた。同棲というのは恋愛の延長線上にある。そして俺にとって、彼女の存在はかけがえのないものとなっていた。恋愛や性愛など愛を現す言葉はいろいろとあるのだが、俺自身、どのフレーズも好きだったのである。ゆっくりと着実に愛を育んでいくつもりでいた。たとえ籍は入っていなくても、理恵が愛する人間であることに変わりはなかったので……。

     *

 彼女の体を抱くと、やはり愛おしくなる。ゆっくりと絡み続けた。情事がまた始まるのである。多少疲れていても、愛し合うことはたくさんあるのだし……。それに俺も嫌な上司の顔など思い出したくもなかった。会社はある程度速いスピードで回り続けている。気になることもたくさんあったのだが、別にいいと思っていた。休日になって二人だけになると落ち着くので……。理恵は俺の体に自分の腕を絡めてくる。俺も応じて抱き返した。その繰り返しである。もちろんいろいろとあるのだが、現段階でとりわけ気にすることはなかった。互いにゆっくりと歩いていくだけで……。無性に体を求めたくなるときは、遠慮することなく抱き合うことにしている。彼女の鼓動を感じ取りながら……。そしてゆっくりと交わり続ける。互いに絶頂へと達するまで……。気になることは忘れてしまう。ゆっくりとした感じで過ごせればそれでいい。休日は互いに体も心も快適になる日だったので……。

                                (了)


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