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第二話 魔王代理

  事のあらましを一通り説明されたイシマツは、益々をもって自分の置かれている状況が理解し難いものである事を悟った。

「つまり、この地を治めている大魔王様が家出したっつーことは分かった。それに俺がどう協力するってんだ?」

「大魔王様を連れ戻すまでの間、その代役を頼みたいのだ」

 フランフィールはその無茶な提案を躊躇する事なく切り出した。

 ガンドールは思案する。

エトランゼ召喚の当初、予定通り有能かつ強力なエトランゼの召喚に成功した場合、そのエトランゼに魔王の探索を依頼し、フランフィールが大魔王様の代役を務めるという線で考えていた。だが、実際に召喚されたエトランゼは、確かに強力ではあるが、魔力を一切持ち合わせていない。

 恐らく戦闘だけで言えば大魔王様とも互角に渡り合う事はできるだろうが、事、探索となると非常に困難なものとなるだろう。まして大魔王様当人の容姿すら見たことが無いのだから。

 それに引き替え、フランフィール様なら高度な魔法を用いて探知、追跡が可能であるし、恐らく戦闘行為もせずに大魔王様を連れ帰る事ができる可能性が高い(気弱な大魔王様はフランフィール様に面と向かって反抗できない)。

 そう考えれば、この選択は効率的かつ妥当なものだ。

極端な話し、大魔王様の玉座を任せるに相応しいのは、短期的に見れば強さだけなのだし。

「それで、大魔王の代役ってのは何をするんだ? 街を襲ったりするのか?」

「いや、基本的には何もしなくていい、統治において発生する実務的な仕事は全てガンドールに担当してもらう」

 そういうとフランフィールはガンドールに向かって軽く頷いて見せた。

 ガンドール自身、その程度の事は覚悟していたので、特に反論せずに頷き返す。

「それじゃ、別に何もすることが無いってのに、何で代役なんか必要なんだ?」

「何もする事が無いというのは、普段は、という事だ。有事の際……主に魔界の領土が襲撃された場合に、敵から皆を守って欲しいのだ」

「敵ってのは何者なんだ? 攻め込まれるってことは、戦争中か何かなのか?」

「戦争中…… と言えば、そうなのかもしれん。魔界というのは、その外にいる者にとって滅ぼすべき対象なのだ」

 フランフィールは少し悲しそうな表情を見せて、イシマツに説明する。

「こちらの世界には、俺達、主に魔族のみが住む魔界と、人間と魔族が共存している人間界に住み分けられているのだが、人間界に住む魔族と人間の両方の標的になっているのが、この魔界という土地なのだ」

 そこから先をガンドールが引き継ぐ。

「そもそも何千年と昔から、私達魔界に住む魔族は人間界の魔族と人間両方の敵と認知されてこの場所に住んでいたんです。敵と見なされた最初の理由自体は伝説になっていて、正式な歴史は分かりません。ですが……いつの間にか武功を立てようとする者や、魔物に恨みを持つ人間達の恰好の標的になっていったのです」

「……ってことは何だい、魔界の奴らってのは黙って一方的に攻撃され続けてる……ってことか?」

「その通りだ。もっとも、話しをしようにも、俺達の話に耳を貸す奴などおらんしな……」

 フランフィールは無常を儚むような弱弱しい口調で言葉を漏らした。

「ここ数年は、大魔王様が外敵に向けて精力的に対抗したこともあって、悪戯に襲撃されることはほとんどなくなりました。ですが、大魔王様が不在と知れれば、それを機に攻め込もうとする輩が再び現れると思います」

「? それで、攻め込んでくる輩ってのは最終的に何を狙ってんだ?」

 イシマツはさしあたっての疑問を口にした。確かに大魔王の首を狙っているのならばまだ分かるが、その不在を狙うというのはどうも合点がいかない。

「魔界を魔界たらしめる魔力の根源、その存在が大魔王の玉座に封印されているのだ」

「あの、大魔王がケツを痛めた?」

「そうだ、あの玉座は古来より加工を許さない造りになっているからな、しかも大魔王が定期的に座していなければ、破壊されずとも封印された存在が暴走し、魔界は滅びると言われている」

「なんだいそれ、まあ要は、大魔王って言う名のフタっつーか、漬物石的な存在なわけだな」

 ガンドールは、この不遜な輩を蹴り飛ばしたい衝動に駆られたが、何とかこらえ説明する。

「ですから、どうにかして近いうちに大魔王様を見つけ出し、少しでも玉座に座ってもらう必要があるのです、それが適わないようであれば、せめて大魔王としての称号を誰かに継承しなければなりません」

 それを聞いてイシマツは考えた。が、ものの二秒で考えるのが面倒になり「まあ、とりあえず何でも任せろ、しばらく魔王の代理でもなんでもやってやるよ」などと安請け合いしてしまう。

「本当か!? 礼を言うぞ」

 フランフィールはイシマツに掴みがからんばかりの勢いでもって喜んだ。

 ガンドールもほっとした様子を見せる」

「ところでだ、俺がいた世界には、その魔王の代理が終わったら戻してくれんのかい?」

 と、イシマツの台詞を聞いたフランフィールとガンドールは固まった。

「…… イシマツ君、実は…… 非常に言いにくいのだが……」

「大丈夫! 大魔王様がお戻りになりましたら、必ず元の世界に戻れるよう手筈を整えますのでご安心下さい!」

 すかさずガンドールが割って入った。

「なんだ、じゃあ俺は気楽にやれるぜ、どんな敵が来るにせよ負ける気がしないしな、どんと任せろってんだ……、ってどうしたんだフラン? 何か言いかけてたが」

「いや何でもないのだ……」

「話しは決まりですね! それじゃ、フランフィール様、早速支度を開始しましょう、急がないと相手はあの大魔王様です、変に策を練る時間を与えるわけにはいきません」

「そ、そうだな、イシマツ君は、ここでしばらくゆっくりしていてくれ、後で迎えをよこそう」

 そう言うや否や、イシマツを食堂に残し、二人はいそいそと回廊へ消えた。

「ガンドール、どういうつもりなのだ? あのような…… イシマツ君を謀るつもりなのか?」

 フランフィールはガンドールの発言に腹を立てていた。無理もない。

「確かに、エトランゼを元の世界に戻す方法を、私達は知りません、ですが、それは現時点での話しです。大魔王様がお戻りになる前に、その方法を見つけ出せば良いだけのこと、それに、今真実を明かして、万が一にでもイシマツ殿の機嫌を損ねるのは得策とは言えません」

 そう一気にまくしたてた後で、ガンドールはしまったとばかりに、バツが悪そうに俯いた。

「……仕方のないことなのか。できれば彼を騙すような真似はしたくなかったのだが」

 「魔界の危機なのですから、悠長な事は言っていられません、すぐに準備に取り掛かりましょう」

「分かった、だが、準備の方は俺一人で問題ないから、イシマツ君を玉座の間に案内してやってくれ」

「分かりました、それで出発はいつ頃に?」

「明朝には発つ。ダメージは残っているが、この程度なら問題あるまい」

 イシマツとの死闘を終えて間もないというのに、フランフィールの魔力は既に回復しかかっていた。この超回復力こそ、大魔王に劣らない実力とされる所以でもあるのだが、こういう時間が少ない時には猶更都合の良い力だった。

「ガンドールよ、恐らく大抵の敵は主の範疇、城務めの魔族でも対抗できるだろうが、くれぐれも相手のレベルを見誤るな、特に注意すべきなのは……分かっているな?」

「はい、よく分かっているつもりです。それこそ父からしつこいぐらいに注意されていましたから」

 ガンドールは静かに頷いて、一瞬遠い過去に思いを馳せたようだった。

 しばらくして、食堂で一服しているイシマツの前に再びガンドールが現れた。

「お待たせしました、これから貴方を玉座の間へ案内しますので、ついてきて下さい」

 おう、と小さく唸るような返事を返してイシマツは立ち上がり、ガンドールの後に続いた。

 いくつもの階段を昇り、転送装置を抜け、隠し扉をくぐり、ようやく辿り着いたのが玉座の間だった。

「随分とだだっぴろい所だな……あ、あれか、あそこにあるゴテゴテした椅子を守ればいいってんだな?」

 イシマツが指差した先には、無骨で黒々と怪しい光沢を放つ玉座が、禍々しい存在感を放っていた。

「そうです。あと、その恰好のままですと、色々面倒かと思いますので、こちらでご用意しました衣服に着替えて下さい」

 そういうと、突然空間に歪みが出現し、ローブと思わしき衣服が出現した。

「なんだ今のは……とにかくありがとうよ、だが、今着ている、このボクサーパンツは処分しないでくれよ。これが俺の戦闘服なんだ」

「それでは、後程そこの空間に放り込んでおいて下さい。洗った後にお返しします」

 ガンドールの返答を聞く前に、迅速かつ機敏な動きでイシマツは着替えに取り掛かっていた。

 そしていわゆる全裸だった。

「ちょ、ちょっと、何でいきなり着替えるんですか!?」

「だって他に脱ぐもんねーしよ、着替えろっつたのあんたじゃねーか」

「それはそうですけど、この場で今すぐ着替えなくても……いや、せめて隠すとかですね、っていうか、何でそんな素早いんですか!」

「そんな理不尽な……。着替えひとつにいちいち了解なんて取ってられねーよ」

 確かにもっともな話しだった。とガンドールは反省する。

 そもそも、異界からのエトランゼ、習慣から何にしたってこちらの世界とは違うのが当たり前なのだ。

 全裸ごときに怯えていられない。

 それにこれから大魔王様不在の間とはいえ忙しくなる。

 エトランゼを異界に戻す方法も見つけ出さなくてはならない。

 もしかすると、今までに見たことも聞いた事もないような強力な敵が現れるかもしれない。

 そう、余裕は、一切ないのだ。

 そう考えはじめると、ガンドールを言いようもない不安が襲った。

「(私にやりとげられるだろうか……)」

 彼女の不安はフランフィールが大魔王の探索に出て僅か数日の後、現実のものとなる。




 


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