表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第一話 魔界談笑

魔王城の奥深く。

人知れず決着したエトランゼとフランフィールの死闘の後、興奮冷めやらぬガンドールは、二人によって破壊されたホールの修復に取り掛かりながら、エトランゼの力の源について考えていた。

魔力を一切使わずにあれだけの攻防を演じて見せるなんて、通常では考えられない。それに、フランフィール様を退けた後に言っていた〝ボクシング″なるものも謎極まりない。

一体どういう理屈の力なのだろうか。いずれにしても召喚されたエトランゼに対し、術士としての疑問は尽きない。

 だが、フランフィール様が破れてしまったことはショックだった。幸いにして、それを知るのは当人達とガンドールのみ。混乱には至らないだろう。

 それにしても二人は何処に行ったのだろう?

 私一人に修復を任せて、フランフィール様は早々にエトランゼを連れて行ってしまった。

 一人だけのけ者にされてしまったようで、少し寂しい。

寂しさを払拭するように魔力を壁に充填し、次々と破損部分を修復する。

 すぐに直して、二人に追いつかなくては。そう思うと修復の速度はより増すばかりだった。


 場所は移り、魔王城、地下。


「随分歩いたが、どこに連れて行こうってんだ?」

 状況が理解できないイシマツは率直な疑問を投げかけた。

「もう少しだ、そこで貴様の置かれた状況というものを詳しく説明してやる」

 そう言うと、フランフィールは足取りを速めて先導する。

「貴様じゃねえ、俺の名前はイシマツだ」

「そう言えばさっき名乗っていたな、すまない失礼した、イシマツ」

 そうして二人が着いたのは、どうやら食堂のようだった。

 しかし食堂にしては随分閑散として見える。

「なんだここは? 食堂か何かか?」

「まあそんなところだ、今は利用時間外で閉まっているがな、私のような者であれば特権で利用できる」

 そういうと、フランフィールは食堂内の一番奥にある、最も大きな卓にイシマツを案内した。

「ふむ、適当な場所に掛けてくれ、俺は給仕を呼んでくる」

 怪訝そうにするイシマツに背を向け、フランフィールはその場を離れようとした。

そこで唐突に思い出したのか突然に振り返り「名乗るのが遅れて済まない、俺の名前はフランフィールだ、少しそこで待っていてくれ」

 出会った当初こそやたら高圧的だったフランフィールの態度の変わり様に困惑するイシマツだったが。何よりもここで何をどうしようとしているのかが気になった。

 しばらくすると、給仕を連れたフランフィールが戻り、イシマツの真正面の席に掛けた。

「給仕に何か料理を作らせよう、何でも遠慮せず頼んでくれ」

 そう言うと、給仕の胴体部分にメニューと、その映像が浮かび上がった。

「何だ、随分気前がいいな? というか見たことのない文字なのに読めるのはどういう理由だ?」

 イシマツは疑問を口にしながら、給仕に注文していった。元来、彼は度を越えて大雑把なのである。

「さて、料理が運ばれてくるまでしばらくかかるだろう、その間にある程度、説明できる部分は説明しておきたい」

「構わんぜ、それで、ここは一体どこなんだい? 俺は何でここにいる?」

「ここはな、イシマツ、君のいた世界とは異なる世界で、名を魔界と言う」

「魔界……」

「そうだ、そしてこの城は魔界を支配する王、魔王の根城だ」

「な、なんだそりゃ」

 想像を超えた展開であり、驚いたような反応を見せたイシマツだったが、内心ではあまりよく解っていなかった。しかも彼は考えるのが苦手だった。

「驚くのも無理はないだろう。君は我々の秘儀によって無理矢理召喚されたようなのだ。もっとも、エトランゼがそういうものだとは我々も知らなかったのだが……」

「そもそもフランフィールよ……てか名前呼びにくいから、フランでいいか?」

 魔界において、強者の二角に数えられるフランフィール相手に軽口を叩ける存在などこれまでなく、故にしばし呆気に取られたものの「良いとも、好きなように呼べ」

何故か、その提案は快くを受け入れられた。

「それでだ、フラン、最初にも俺のことをそう呼んでいたが、そのエトランゼってのは何なんだ?」

「エトランゼとは、君のように異世界から呼び出された強者の事だ。太古に呼び出されたいずれのエトランゼも、魔界に莫大な益をもたらしたとされる伝説が残っている。具体的に何をしたのかは分からんがな」

 淡々と語るフランフィールは徐々に複雑な表情を浮かべはじめた。

「当初、我々はエトランゼ自身がエトランゼであると自覚しながら召喚に応じてくれる、神格の一種だと想像していたのだ……だか、実際は突然強制的にこちらの世界に召喚するという、はた迷惑な秘術だったらしい……」

「なるほど、それでしきりにエトランゼかって確認してたわけか。俺ぁてっきり、何かのスポーツ選手かと思ったぜ」

「そう言えば、君もボクサーという聞きなれない単語を名乗っていたが、それはどういった称号なのだ?」

「ああ、俺は元の世界では……、って別の世界にきた実感なんて全然湧かねーがな。まあ日々訓練して…、闘い合う戦士みたいなものだ」

 イシマツは己の職業をうまく説明する言葉を持たなかった為、曖昧な表現になってしまう。

「闘い合う戦士か……とすると、そちらの世界には君のような戦士が何人もいるわけか……恐ろしい世界だな……」

「俺は、その中でもチャンピオン―― 一番強い奴って意味だ――だったからな、全員が全員、俺クラスってわけじゃねえ」

「少し安心できる話しだな。異界とはいえ君クラスの強者がゴロゴロしているというのは落ち着かない……。それにしても、こちらの話しを全く疑っていないようだが、戦士というのは順応性も高いのか?」

「俺程の一流のボクサーになれば、どんな場面でも最高のパフォーマンス発揮する為に、身体が勝手に順応しちまうんだ」

 その高い順応性の理由は、あまり深く考えていない事と、状況をそこまで理解する気がないというところが事実だったのだが、イシマツは己の性能を信じていた。

「なるほど、流石だ、あのデタラメな強さも納得できるというものだ」

「まあ、そう褒めるな、フランもなかなかやる方だったぜ? 俺が試合以外で破壊光線を使ったのは二人しかいないからな」

そうして二人が話し込んでいるうちに、給仕によって頼んだ料理が運ばれてきた。給仕は無言でその食事をテーブルに並べ、やはり無言で去っていった。


 破壊されたホールの壁を修復し終えたガンドールは、案の定二人の姿を探して城内を駆け回り、ついに食堂にいる事を突き止める。

「(一体何故、食堂などに? フランフィール様なんて食堂なんて滅多に利用されないのに……)」

 一抹の不安を抱きながら歩みを急ぐガンドールだったが、食堂の扉を開けて目に映ったのは、一番奥の大卓で二人の男が料理を囲みながら、何事かについて熱く語り合うという多少近寄りがたい光景だった。

「ん? おお、ガンドールではないか、丁度良い、貴様の事も改めて紹介しよう」

 フランフィールが高揚した様子でガンドールを呼んで手を振っている。

「ああ、ありゃ最初にいた、ちっこいのじゃねえか、確かに最初、もしかして……あれが俺を呼び出したのか?」

「その通りだ、見た目はあの通りだが非常に優秀な術士だ」

 ガンドールは褒められているのかどうなのか分からない評価を受け、複雑な心境だったが、気を取り直して状況を推察する。

単純に考えれば、待望していた直接エトランゼと話す機会が訪れたのだ。

 ガンドールは多少なりとも警戒しながら、いそいそとフランフィールに近寄っていった。

「ガンドールよ、こちらがエトランゼもとい、ボクサーのイシマツ君だ」

「よ、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼むわ」

 紹介は終わってしまったらしい。と、フランフィールの発言中、気になる表現があったことに気付く。フランフィール様は魔王様以外の人の名前を呼ぶときに敬称をつけたりしない。それも〝イシマツ君″だなんてフランクな敬称は……。驚愕としているうちに二人の会話が再開される。

「それでだな、フラン、さっきの話しの続きだが、ボクサー同士ってのは階級ごとに闘っていってだな、まあ色々な条件や障害を越えるとチャンピオン、つまり一番強いボクサーと闘う権利を得られるんだ。その時の最強のボクサーであるチャンピオンが腰に巻いているのがチャンピオンベルト……王者の証だ。つまりチャンピオンベルトをぶん取る為に闘い続けるってわけだ。」

 ガンドールはまたも愕然とする。このエトランゼ……いやボクサーだったか? 今やどちらでも良いが、あのフランフィール様を…… 魔界における最強クラスの実力者を渾名で…… フランなんて呼ぶなんて…… いくら勝負に勝ったからって、それはいくらなんでも……。

「なるほど、その最強たるチャンピオンを倒してようやく、自分が新たなチャンピオンとなり、チャンピオンベルトを腰に巻く権利を得るというわけか! 挑戦者から王へ…… というわけだな、なんと素晴らしい制度ではないか!」

 フランフィールがチャンピオンなどとと謎のワードを連呼する様子を見て、ガンドールはいよいよ自分の正気を疑った。

「(魔界において永劫の時間を一匹狼の如く、孤高の強者としてあり続けたフランフィール様が、このような……なんというか純朴かつ、普通な方だったとは。しかも二人ともまるで昔馴染みのように話されている。というか急に馴染みすぎだ。私がいない間に一体何が……。むしろ私がいない事によって、二人は馴染むことができたのでは? という事は私はいらない存在? そんな馬鹿な。何より、エトランゼを呼び出したのは他でもない私なのですから、ないがしろにされて良いはずがありません!)」

「あのぅ…… ところでフランフィール様……会話の途中失礼ですが、本題の方は伝えられたのですか?」

 ショックと寂しさがガンドールを突き動かし、怒濤の会話に割って入る事を成功させた。

「おっと、そうだった、その事をすっかり忘れていた。イシマツ君、すまないが折り入って頼み事があるのだが……」

「いいぜ、話してみな、俺にできることなら協力してみよう」

「そうか、ありがたい。実は君を呼び出したのには事情があるのだ……」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ