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皮肉屋侍女の生活  作者: りつなん
第1章 物語の始まり
8/17


「なるほどねえ。うーん、容姿のお話は前々からお美しいとは聞いていたし、あまり聞いても参考にはならないんだけれど、でも醜男であると聞かされるよりは全然良いのかしらね」


 その日の夜、後は就寝するだけという状態でベッドに腰掛ける王女に、私はラディから聞いた婚約者殿に関する噂を伝えていた。

 昨日、見合わないかもしれないと落ち込んでいた王女から打って変わって、やっとご自分の自信を取り戻したようだ。うーん、素敵に情緒不安定であられるなあ。

 やはりというべきか、王女の十九年の人生の中でお会いしてきた男性はどの御方も眉目秀麗であるので、外見の基準は物凄く高いらしい。気にしないというよりは気にする必要もなかった、という所か。興味がないというような態度を取っているが、王女の基準に見合う男性などそうそうはいない。つまり、もし婚約者殿が一般男性クラスの御方だった場合、王女には信じられない程の衝撃が走ることが想像に難くない。

 ……もしかしたら外見についてはあまり触れない方が良かったかもしれない。

 あなたの男性基準値に合う男性ですよと聞かされていて、現実が違ったら……。高い所から落とされる方がダメージは大きいに決まっている。


「まあ……そうですわね。容姿など、所詮は見繕ったただの器に過ぎませんわ。肝心なのは内面です。それについてのお話は残念ながらありませんでしたので、実際にお会いして推し量るしか知る方法はないのですが」


「そうね。お兄様達のようにお優しい方だと良いんだけれど。ああでも……ルシアルお兄様のように女性に甘過ぎる方でも少し嫌だわ。あんなの一人で十分だもの」


 ルシアル様をあんなの、と王女がのたまうのが少し理解できる。何故なら、ルシアル様はちょっと……いやかなり間違った方向のフェミニストであられるからだ。

 女性であるなら、誰にでも甘い。そのせいで勘違いした下働きの女の子が、ご結婚なさるまでどれほどいたことか。

 今は奥様一筋となられたので歩くフェロモン化はなくなったが、それでもまだ、リゼッタ様の侍女をする私や王族に近しい女性にはちょっかい混じりの戯言を吹きこんでくる。


 王女の言葉に、半ば真剣に頷くと王女が楽しそうに笑い声を上げた。


「うふふ、シュナったらまだお兄様にからかわれるの? 流石ね、やっぱり気に入られているのよ。ゼクトお兄様だって頭の切れる方だな、とか言ってらしたし」


 ……ルシアル様に関してはとても不本意だ。彼のお気に召すような行動も言動も、一切した覚えがない。二年ほど前に一度だけ、つい皮肉が口からぼろりと出てしまった以外は。

 それがお気に召したというのなら、ルシアル様も相当アブナイ御仁である。


「ゼクト様が? 大変身に余るお言葉ですね……嬉しいです。また文書整理の際には呼んで頂きたいものです」


「ふふ、言っておくわ。ああでも、しばらくその機会はないかもしれないわ。最近はオリビアに構ってばかりで、図書室で読書をあまりなさってないみたいだから」


 オリビア様とは、ゼクト様とその奥様のシルビア様との間の王女様だ。まだ生後半年ほどで、意外にも子供好きだったゼクト様は毎日そのお世話に明け暮れているという。

 あんなにたくさんの蔵書がある図書室を使っていないなんてもったいない。ゼクト様専用の図書室に、下働きが一人で入るなんてとても許されないだろうか。オリビア様が生まれるまではシルビア様と共によくお使いになっていたものだ。たまに掃除するという名目で、こっそり使用させて頂けるように打診してみよう。


「そういえばオリビア様はとても綺麗な髪の色をしていましたね。白金といいますか、シルビア様の銀色をゼクト様の金色に溶かしこんだような、そんな色で」


「そうなのよね! 私もあんなふうに透き通った色が良かったわ……。シルビア様の国では銀髪が普通なんだそうよ。国によって髪の色が違うことが多いから、こちらに来たときは違う世界に来てしまったようで、最初は不安で仕方がなかったんですって」


 シルビア様は少し遠方の海に面した国から輿入れしてきた。確かに、最初はこちら方もその髪の色に驚いて引いて接してしまった部分があったかもしれない。銀色の髪の人が存在するなんて書籍上でしか知らないことで、実際に目にした衝撃は凄まじかったのだ。

 周囲の好奇の目と自分は異分子なんだという意識に大分悩まされていたという話は私も何となく聞いたことがある。


 ご自分の長い金髪を指先でくるくると巻いていた王女は、そういえば、と顔を上げて話を続けた。


「噂だとアレク様は黒髪なのよね? 確かに、よく考えてみたらあの国では黒髪が普通なのよね。黒髪に碧眼となると、あの国では標準的な色配置と言えるのかしら」


 確かに、そうだ。あの国では黒髪に蒼系の眼の色が標準だ。

 ちょうど、私がそうであるように。


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