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皮肉屋侍女の生活  作者: りつなん
第1章 物語の始まり
6/17


 王女と連れ立って食堂へ行き、朝食の始まりと共に他の侍女仲間と食堂を辞した後、私は一度王女の部屋へ戻り、部屋の片付けやちょっとした掃除をする。

 普通は主人が勉強をしている時間や、その他日常的な行事に参加している時に掃除をするものなのだが、我が主の場合は異なる。

 王女はとても綺麗好きで、自分の部屋の掃除は自分でやるということを徹底している。侍女の私がやったからといって憤るなどということは勿論ないが、自分のことは自分でやることを好いていらっしゃるようだ。

 私が初めて王女の掃除をする姿をお見受けした時は、不敬ながらあまり王族らしくない方だと思ってしまった。


 お冷入れにはまだ果実ジュースが残っているので、それを細長い瓶に詰め、部屋にある冷蔵庫に押し込んでおく。こうしておけば、明日には無くなっているはずだ。

 お冷入れを洗って、私は王女の部屋を辞した。




 厨房に顔を出すと、もう昼食の仕込みと思われるダシっぽい香りが漂ってきていた。

 仕込みが始まっているとなると、バラージュさんは忙しいだろうか。しかし、今日はいつもと違って王女から感想の言付けを預っている。お呼びしないわけにはいかない。


「バラージュさん、いらっしゃいますでしょうか」


 毎度のことながら、厨房に向かって叫ぶ。

 厨房の奥から、少し急ぎ足の少女が私の元へ向かってくる。デジャヴである。


「ごめんなさい、シュナさん。バラージュさんは食料庫の品目確認に向かわれてしまっていて……。申請の日が近いものですから……」


「ああ、いいのいいの。これ返しに来ただけだから」


 申請は確か三日後だっただろうか。ひと月に一度、財務官達が大忙しになる日だ。簡単にいえば城内の会計処理日と言ったところだろう。城の食料庫を預かっているバラージュさんが忙しくないわけがない。

 考えながら、お冷入れをラディに渡す。ついでに感想も伝えておいて貰おう。


「それから、バラージュさんに、リゼッタ様がいつもありがとうございます、春の香りがしてとても美味しかったですっておっしゃってましたよーって伝えておいてくれる?」


 多少湾曲しているが、大体こんな感じだっただろう。……抽象的過ぎてあまり覚えていないからなどでは決してない。


「了解しました。お伝えしておきます。あの……リゼッタ様、お元気ですか? この間お見かけした時、何となく表情がお暗い感じがしたので……」


 その言葉に私はちょっと驚いた。

 ラディのようなふわふわした少女にも分かるくらい、王女は気落ちした顔をしているのか。いつも近くにいるからか、気付かなかった。


「え? そうかな……。私はちょっと分からないけど、リゼッタ様にはリゼッタ様なりにお悩みがあるのかもしれないわね」


 侍女には大切な守秘義務がある。ラディを信用していないわけではないが、ベラベラと王女の不安の種を喋るなんてことは絶対にしない。信頼がないと主従関係は成立しないものだ。


「そう、ですか。来週いらっしゃる彼の国の王子様のことでしょうかね。凄くお美しい方でリゼッタ様と並んでも遜色ないお方だとお聞き及んでいるのですが……」


 婚約者殿の風貌が早くも市井では噂になっているらしい。一般人からいい意味でも悪い意味でも逸脱してしまった私には、入ってこない噂話という名の重要な情報だ。


「へえ、そうなんだ。ごめん、私その王子様のことあまり知らないんだけれど、よかったらラディが聞いた話を教えてくださらない?」


 情報を仕入れることも侍女の大事な仕事の一つ。がっついた態度でなくさりげなく、が基本だが、これが結構難しかったりする。



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