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皮肉屋侍女の生活  作者: りつなん
第1章 物語の始まり
4/17


 格式高い石造りの王城を、制服を身に着けて歩く。

 そのことに、ここに務める前は凄く憧れて、夢見たものだった。

 一歩足を踏み入れるとそこはまるでおとぎ話の世界のようで、赤い絨毯のふわふわとした感触に、まさに地に足が着いていないような心地だった。


 だが流石に、勤続四年目ともなると、慣れと共に豪華な造りの不便さが身に沁みてくるものだ。

 白い石造りに華を添える赤い絨毯は原色が過ぎて目に痛いし、急いでる時は足を取られる、ともっぱら下働きの者には不評だ。

 それ以外にも言い出せば不満はポロポロ出てくるが、まあここでは言うまい。こういうものは、休憩時間中にまかないご飯のちょっとしたスパイスに、その場だけの話し相手と気軽に話すものだ。


 石造りの奥に追いやられた階段を四階まで上がる。

 西向きの角部屋の王女の部屋を目指す。ポケットから懐中時計を取り出して時刻を確認すると、大体いつも通りの時間だ。このままノックしても構わないだろう。

 

 繊細な装飾が施された厚めの木のドアを叩く。


「おはようございます、リゼッタ様。シュナです。お目覚めでしょうか?」


 いつも通りの決まり文句を口にする。ここで返事があったらいいというまで待機、すぐに返事がなかったら経験上大抵夢の中なので、部屋に突入する。

 ちなみに返事がなかったので突入した結果、王女の生着替えを目撃したことが何度もある。このことについてここではあまり多くは語らないでおく。


「起きてますわ。もう入ってよくてよ」


 今日は早くに起きて、既に着替えも済ませているようだ。

 ここ最近は、めっきり私が直接揺り起こすことが減った。それもこれも、ひと月前の婚約者殿のあの知らせのせいである。約束の日が近付くにつれて王女の緊張も高まり、恐らくきちんと睡眠を取れていないのだろう。


 ドアを開けて、ベッドに腰掛ける王女を見る。今日は簡素な茶色を基調としたドレススタイルにしたようだ。

 ちなみに、他の王族の方は知らないが、リゼッタ様は服装をご自分で決められる。衣装に関しても、王妃殿下とよく王都の一流服飾店が卸しているもののカタログを見ては、ああだこうだと話しておられるようだ。

 ご自分のスタイルをお分かりになっておられるだけあって、いつでもリゼッタ様はご自分の魅力を引き出し、気品の感じられる服装をしている。


「よく眠られましたか?」


「まあまあと言ったところね。相変わらずよ」


 相変わらず。七日後に隈が酷かったらどうするのだろう。いや、王女にはそんなもの出来ないだろうか。あまり想像したくない。


「そうですか。……そうですね、なるべく身体を温めること、早くベッドにお入りになること。安眠によいのはあと他に何かありましたっけ……」


「仕方ないわ、状況が状況だもの。私なら大丈夫よ。ありがとうね」


「あまり、無理はなさらないでくださいね。倒れられても困りますので」


 曖昧に返事する王女がちょっと小憎い。主が倒れたらお叱りを受けることになるんだぞ、侍女ってやつは。

 とはいえ、確かに仕方ない。私と違って当の本人は安眠も妨害されるような案件であるだろう。今回のことは気の毒である。


「ジュース頂いてきましたよ。今日ははっきりお目覚めのようですが、もちろんお飲みになりますよね?」


「まあ、ありがとう! そうね、あんまり寝てない分、いつもよりすっきりしてるわ。グラスに注いでおいてくれる? 私ペンダント選んじゃいたいの」


「承知致しました。髪は後でもよろしいですか?」


 ジュースの後でよろしく、と言って王女は奥の部屋に引っ込んでしまった。

 朝日が射し込まないのは少し寂しいわ、と昔王女が言っていたが、本当にその通りだ。爽やかな気分で迎えたい朝を、太陽の光だけで過ごせないのは何だか悔しい。だからといって薄暗い中で過ごすのも好ましくない。

 ジュースを王女専用のグラスに注いでテーブルに置き、水道で雑巾を濡らして窓を拭く。窓が多い分、綺麗にしておかないと部屋自体が汚くなったような印象を受けてしまうのだ。


 ペンダント選びといったが、それがほんの数分で済むなんて舐めちゃいけない。

 女のお洒落には時間が掛かる。それは物の多さに比例して増えていく。さて、ここで質問だ。

 王族は、装飾品だけでも、どれくらいの数を持っていると思う?



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