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皮肉屋侍女の生活  作者: りつなん
第2章 隣国の二人
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 リゼッタ様の婚約者殿、アレク王子が格式張った口調で定型文をはきはきと喋り、名を名乗った。隣国の王家の者であることを示す国名の入った長い名を言い終わると、今度は国王陛下が口を開く。


「長旅、ご苦労であった。短き間ではあるが、リゼッタと親交を深めて、我が国を楽しんでいってくれ」


 陛下の言葉に王子は恭しく頭を垂れ、微笑みを深めた。

 陛下は王子だけでなくその後ろの侍従の青年にも目線を向け、何故か面白そうに口許をゆがめた。

 王子の笑みに反応して両陛下付きの第一侍女さんのお二人が顔をとろりと緩めさせるのが見える。スナイパー並みの速さで女性を陥落させることが出来るようだ。とても先行き不安になる。


 その後、リゼッタ様があの緊張などなかったかのように落ち着いて挨拶を済ませ、互いに握手を交わしたあと、さっさと両陛下とリゼッタ様への謁見はお開きになった。リゼッタ様のあの花咲くような笑顔に王子もイチコロ……だといいのだが。

 

 この場を辞す言葉を王子が告げたあと補佐官と近衛騎士が隣国の二人を案内し、謁見の間を辞す。

 それを見届けてから両陛下とリゼッタ様も立ち上がった。リゼッタ様は張り詰めた緊張の糸がやっととけた様子で、ほっとした表情をしていた。


「……大丈夫ですか」


「ええ、平気よ。お噂通り、お美しい方だったわね。思わず見とれてしまったわ」


 何と、王女が見とれるような男性がいらっしゃったとは。それほどのレベルだということだろうか。どうやら私のイケメン探知機は正常に機能していないらしい。まあ何にしても、王女のお眼鏡にかなう方で本当によかった。

 正直な話、違和感に気を取られて薄ぼんやりとしていたものだから、王子の顔さえあまり観察できなかった。王女に返す言葉が見つからず、是でも否でもない曖昧な返答をして、早々にお部屋にお連れするために歩き出した。



 長旅の疲れを慮ってこの場はすぐに終わったとはいえ、本当の苦労はここから始まる。

 お昼には食堂でのお食事。そこでこちらの王族の方々全員とお会いし、親交を深める。振舞われる料理はバラージュさん自慢の品々であろう。この三日間は特に気合の入ったメニューなんです、とちょっぴり苦笑したラディの言葉が頭に浮かぶ。

 お昼が終わって落ち着いたら、今度はリゼッタ様とのお茶会だ。つまり、私の一番の懸念事項である。同席を許された、と表現するものだが許されたというより迫られたに近い。緊張で胃を痛めるだけにしか思えない席に、誰が好き好んで座るのだろう。

 しかも、


「お茶会が楽しみだわ。早く緊張なんてしないで自然体で話せるようになりたいもの。今度はシュナも近くにいるし、落ち着いて話せそう」


 と、主人からの期待の重圧がプラスされる。


「お役に立てましたら幸いですが……私など、恐らく何も出来ないかと思います。給仕のお手伝いをするくらいで……」


「何言ってるの。いてくれるだけで助かるのよ。アレク様と二人きりなんて、ちょっとまだ無理だもの……。それに、あちらも従者の同席を許しているそうよ。だから身分がどうとか気負う必要はないわ」


「従者の方が……? そうなんですか。まあそうですね、リゼッタ様の精神安定剤程度にひっそりとしておりますよ」


「まあ、シュナったら」


 そう言ってくすくすとリゼッタ様は笑った。



 王家の食卓に混ざった隣国の王子の姿を何となく想像しながら、私もお食事を頂くために廊下を歩いていた。

 こちらの王族とあちらの王族ではどんな会話が交わされるのか、一般人の私には想像もつかない。いや、もしかしたら物語にあるような、陰謀渦巻く取引きやら不可解な目配せばかり交わされているのかもしれない。……まあ、リゼッタ様との親睦会という名目上、有り得ないとは思うが。

 とりあえず、食堂で危ない密約が交わされていて、とんでもない修羅場になりかけていようと私には把握出来ないのだから、今は限られた休憩時間の中でしっかりと食べてしっかりと休むことに焦点を合わせることにする。


 それにしても、と思う。

 それにしても、あの違和感の正体は何だったのだろう。

 異国から来た美しい王子。彼に仕える美しい侍従の――謁見の間に伴するということは、かなりの地位を与えられているであろう――男。

 二人にこれといって不審な点などなかった。一般的な主従の姿以上の何も見出せなかったのだから。


 ――王子様は好きな色に対してかなりこだわりがあるらしくて、いつも身にまとっていらっしゃるんですって――


 ふいに、ラディの声が脳裏に蘇る。

 ……王子は偏った色彩の身なりをしていただろうか。いや、あのように正式な場でいくら好きな色とはいえ、好みの色合いのものばかりを身に付けるわけもないか。


 何かを見落としている気がして、曇り空のような思考にいらいらする。


 ――今はそんなこと考えてる場合じゃないわね。それに……きっと、なるようになるわ。


 一介の侍女に何が出来るわけでもなし、考えた所で結論は出ない。今は目下の休憩時間の有意義な使用に尽力するとしよう。

 違和感については、一旦、保留。


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