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皮肉屋侍女の生活  作者: りつなん
第1章 物語の始まり
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脱・読み専門を目標に掲げ、初投稿に踏み切ってみました。

至らぬ点も多々あるとは思いますが、何卒よろしくお願い致します。

 ここはとある世界のとある国のとある城。

 その城の四階、西に面する部屋の片隅で、深刻に語らう二人の女性から物語は始まる。



「どうしたものかしら。だってお恥ずかしいとかで、画ですら送ってくださらなくて、御姿なんて、一度だって拝見したことないのよ?」


 そうぼやくは、この城の主、国王陛下の長女であらせられるリゼッタ王女その方である。

 腰まで届く艶やかでたっぷりとした金髪を半ば乱雑に整え、顔に憂いの色を滲ませてうつむいている。


「そうですねえ。私としましても、大事な我が主の未来の旦那様をお迎えするにあたり、やはり全く面識がありませんというのも、好ましくございませんね。はてさて、どうしたものやら」


 対して、これを受けるのはこの私、リゼッタ王女にお仕えする第一侍女のシュナである。

 西に面したこの部屋に一番日が射し込んで、趣を通り越して少々暑くなるこの時間帯に、相談があるからと主に呼び出されたのだ。

 あなたのお部屋で語らうに適した時間を考えてくださいませ、迷惑です、と言いかけたのは秘密の話である。


「……何よ、ちょっとシュナ、あなた楽しんでるわね? 私の不幸がそんなに嬉しい? もう、私は真剣に相談してるのに」


 口を少し曲げて、キッとこちらを睨む王女。……の姿だと思う。

 思うというのは、私の目で王女の顔を認識するのが難しくなっているからだ。

 ごめんなさい、楽しむとか以前に、あなたの後ろから射す後光の如き西日が眩しすぎて目が開きません。

 あなた様は悠々と背に太陽の恵みを受けていらっしゃるから、温もり程度かもしれませんが。

 私からだと逆光過ぎて、主の全身、真っ黒なんですよ。顔、熱いし。


 王女のブロンドの髪の際だけ白く光って、背後の朱と共に、更に存在感を引き立たせている。


「はあ、そうですわね、ちょっとお話の前に……カーテン、閉めてもよろしいですか?」


 王女が後ろを振り返る。……そして半目でまたこちらに顔を振り向けて言う。


「……あら、失礼したわね。私が閉めるわ」


 そう言って、一人掛けソファから立ち上がる王女。

 恐らく直射日光を見て眩しかったのだろう、まだ若干目がちゃんと開いていない。



 この部屋は角部屋だけあって、窓がとても多い。部屋の全てのカーテンを閉めるなら、少し手間取るだろう。

 カーテンのレールが立てる軽い音を聞きながら、私はようやく、王女の相談内容について深く考え始めた。




事の起こりは、丁度ひと月ほど前に遡る。


 リゼッタ王女は、隣国より婿を取ることが十七歳の頃には決められていた。

 この婚約、ひいては結婚については、何やら複雑な国の利害が絡んでいるらしいが、王城の末端で働く者に理解できるわけもなく、そして関係がないので、そこはこの際どうでもいい。

 その婚約者殿と、肖像画の交換をしようという話が1年ほど前にあったのだが、冒頭の王女の言葉通り、向こう方が恥ずかしいという内容を薄めに薄めた、形式張った長ったらしい書状によって断り、その話も露と消えてしまった。

 よって、両者がお互いを認識しておく機会が、現在までなかったのである。



 そして、ひと月前のこと。

 隣国より、国王陛下宛に婚約者殿から、王家の封蝋のしてある封筒が届いた。


 内容を要約すると『ひと月と7日後、王女殿下と親睦を深めるために、是非貴国に参らせて頂きたい』というものだった。

 愛する長女が面識のない男に取られることに憂いておられた、我が国の国王陛下が断りを入れるはずもなく、トントン拍子でことは運んだ。

 当人の了承など蚊帳の外で、結果として、リゼッタ王女は心の準備もままならないまま、未来の旦那様を来週お迎えすることになってしまった、というわけだ。


 当然、王女は当惑し、こうして解決策など出るわけもない、正直パワハラ寸前の一方的な愚痴大会を侍女相手に連日開くという、最悪な負のループに陥っている。

 私は国王陛下にも婚約者殿にも意見出来る立場でないのだから、何を言っても無駄だと言うのに。

 返事を返して欲しいなら、その辺のお貴族様のお嬢様にすればいい。

 壁よりは堅実な返事をしてくれるだろう。欲目と下心が言葉尻から漏れる甘い慰めを。


 ……何て、口が裂けても言えるわけがないのが、侍女の悲しいところだ。


 だがまあ、相談相手に選ばれるというのは、信頼の証だろう。いくら私でも、それが分からないわけではない。そして、その信頼を裏切るような真似を買って出るような馬鹿なつもりもない。




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