喪失と捜索
気がつくと、辺りは埋もれてしまいそうなほどの木に囲まれていた。
空からは雨が落ちてきている。
なんとなく体が軽いような気がする。
ふと下を見ると、
「っつ!」
そこには、頭を真っ赤に染めた僕の身体があった。
僕は死んだんだ。
降っているはずの雨の感触がないことがそれを嫌というほど物語っている。
周りの景色が遠のいていく。
雨の音も聞こえなくなっていく。
何かやり残したことがある気がするのだが思い出せない。さっきからずっと頭の中にもやがかかったような感じがする。
何故こんなところにに自分がいるのか分からない。自分の名前さえ分からない。あまつさえ下に見えるこの身体が僕だとなぜ分かったのかも分からない。
「っつ!」
頭が痛む。死んでいても律儀に痛みはやってくるようだ。
とにかくここに居たくない。
自分の死体を見下ろすなんて気持ちの良いもんじゃない。
僕はそこから逃げるように走り出した。
「はあ・・・はあ・・」
無茶苦茶に走り続けた結果、僕は山から下りて住宅街まできていた。
幽霊でも走れば疲れるようだ。しかし、下りてくる時は夢中で気付かなかったが、木にあたったはずの身体は傷一つついていなかった。それが自分が死んでいるということを再認識させる。
とりあえず、現在地を知ろうとしていていたところに傘を差した若い男性が歩いてきた。
「あのー。すいません。少しお聞きしたいんですけど・・・」
勇気を振りしっぼって声をかけてみる。
しかし、男は僕など居ないかのようにそのまま歩いていってしまった。
いや違う。僕はそこで気付いた。
僕はあの人にとってはいない存在なんだ。
僕は死んでいるから。普通の人は僕に気付かない。
当たり前のことに今ようやく気付く。世界中で僕のことを分かる人はもう誰もいないのだということに。
「・・・これからどうしよう」
不意に言葉がもれる。
身体に当たらないはずの雨がとても冷たいような気がした。
どんよりとした空を見上げる。雨は止む気配なく降り続いている。
「そこに突っ立っているあなた。邪魔です。どいてください」
ずっと雨を見ていると後ろから無遠慮な声が聞こえた。
・・・僕に呼びかけているはずがないので何も反応しない。
「傘を差していないあなたです」
ふとあたりを見回すが僕以外に傘を差していない人などいない。
恐る恐る後ろを振り返る。僕に対して言っているんじゃないと確認するように。
「やっと気付きましたか。どいてください」
そこに立っていたのは高校生ぐらいのまだ子供っぽさが残る青年だった。そしてその青年の目は明らかに僕を捕らえていた。
「君には僕がみえるの?」
青年はこちらを注意深く監視していた目を大きく見開かせた。
どちらかというとその反応は僕がするのが正しいと思うのだが。
「もしかしてあなた死んでますか?」
「えと、らしいね」
はたから見ると何とも可笑しい会話だろう。しかし、青年は真面目な顔つきだった。
青年は何かを考えるような仕草を見せたあと、もう一度僕に向き直った。
「ついてきてください」




