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いつの間に現れたのか、俺達の前に、一人の男が立ちはだかっていた。
「まあ、ゆっくり休んでてくれ」
鬼に向かって踏ん張ったまま、振り返りもせずに言う。
「あいつは昼間の……。なんで、あいつがいるんだ?」
俺の問いを無視して、孝亮はジッと上宮の背中を凝視している。
上宮は人差し指と中指の二本を立てると、それを眉間へとあてた。
「東海の神、名は阿明!」
呪文のように叫んで、四本ある光のうちの一つを、二本の指で指し示す。するとその柱は輝きを増し、風が渦を巻いた。
「西海の神、名は祝良。南海の神、名は巨乗。北海の神、名は愚強」
先程と同じように、一つ神の名を口にするたびに、一つ一つ柱を指していく。その度に柱は光を増し、鬼は苦しみを強くしていった。
上宮は、パンッ! と顔の前で手を合わすと、その手を胸の前へと持っていった。
「四海の大神、百鬼を避け、凶災を蕩う急々如律令」
唱え終えると同時に、悲鳴をあげた鬼が光と共に消え失せる。光の中で渦を巻いていた空気は、風と同化して夜空へと消えていった。
天を仰いで大きく息を吐いた上宮は、光の柱があった四つの場所へ、素早く駆け寄った。地面から何かを拾い上げると、それをポケットへと突っ込みながら、こちらに走って来る。
「あいつは、地の底に戻しといたよ」
無言で自分を見上げる孝亮に、手を差し出しながら言う。その手首を取った孝亮は、俺の手を握らせた。
「ほれ、僚紘。命の恩人に礼言え」
そう言って立ち上がると、パタパタと服をはたく。
「あーあー、いい男が台無しだな、こりゃ」
ブツブツ言う孝亮を横目に、上宮の手を引いて立ち上がる。
「あんたら、知り合いだったのかよ」
上目使いに見る俺に曖昧に微笑んだ上宮が、孝亮を見遣った。
「あ? まあ、昨日からってトコだな。昨日会いに行ったろ? この上宮のお陰さ」
カカカッと笑って言う孝亮に、俺は一歩踏み込んだ。
「昨日のアレは、俺を助ける為だったってワケ? あんな、まるで俺を殺してやりたいような言い方までして。バカ野郎だよ。てっきり俺は、あんたが俺を……」
「お前を助けたのは、上宮だぜ。俺はお前が死んでも、別によかったんだがな」
俺の台詞を遮って、孝亮が不機嫌に言う。
「じゃあ、なんであの時、俺を突き落としたのさ?」
「ああ?」
「俺を助けたから、あんた死んじまったんじゃないか。あん時、俺が死んでりゃ…」
「ああ。あれね」
そう言うと孝亮は、カラカラと大声で笑いだした。
「いや、悪ィ。あん時はお前を助けようとしたんじゃなくて、お前を落としゃ、俺は助かると思ったのさ!」
「えっ、ウソ」
「ホント」
たっはっはっと笑って、俺の右頬を抓る。
「そんな顔すんなよ。俺ってこんな奴なんだからよ!」
俺の肩に肘を乗せて、孝亮は上宮に体を向けた。
「上宮、今拾ってきた物は何だ? さっき確か、光ってたろ」
言って、上宮が差し出した、掌の上の丸く平たい物を覗き込む。
「何だ? これ」




