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「うっわあああぁ!」

 逃げようとするが、体が動かない。

 もちろん、トラックなんかも、呼んでねぇぞッ! 

「孝亮ェッ」

 目をつぶり、死を覚悟した瞬間。襟首が後ろから掴まれた。グイッと引っ張られ、後ろに放り出される。

「イテッ!」

 背中を(したた)か打つと同時に、目の前で物凄い音がした。トラックが、ガードレールに突っ込んだのだ。

「なんだと!」

 叫んで起き上がった俺の前に、突如、孝亮が姿を現した。

「この! 大バカ野郎! あれ程ここへは来るなと言っただろうが!」

 ガッと俺の胸倉を両手で掴んで、恐ろしい形相で怒鳴りあげる。

「あれ……孝亮? 今のトラック……お前がやったんじゃ…」

 ぶつけた背中をさすりながら、孝亮を見上げる。

「はぁ? 寝ぼけてんのか? お前」

 孝亮は眉を寄せると、大きく溜め息をついた。

「…だって……あれ? どーなってんだ?」

「どーなってんだ、じゃねぇ! ……ったく。なんでここへ来たんだ」

 胸倉を掴む手を離して、呆れた声で言う。

「なんでって……あんた、俺を殺したいんじゃないのか?」

 ガクッと頭をうなだれた孝亮は、顔を上げると、俺の目の前に(こぶし)を突き立てた。

「ああ! ああ! 殺してやりたいとも! 少しは人の言う事聞け!」

 拳をプルプルと震わせる。

 あっけに取られた俺は、次の瞬間、ハハッと笑い声をあげた。ホント、こいつは死んでも変わらねぇ。

「怖えー、孝亮。鬼みたい」

 ガツンと拳で俺の頭を殴った孝亮が、後ろを振り返る。

「ふざけるな。鬼は、あいつだ!」

 さっきの女の子が、グシャリと潰れたトラックの上に立っている。

 ニィーと不気味に笑う口からは牙が生え、頭には二本の『(つの)』としか言いようのないモノが生えていた。

 口から洩れる(うな)り声は、到底人間の声とは思えない。

『コッチニ、コイ!』

 低く響く声で叫ぶと同時に、髪が逆立つ。次の瞬間、俺の後ろのショーウィンドウのガラスが砕け散った。

「あいつの狙いは、最初(はな)っからお前だったんだ。俺等にあいつを倒す能力(ちから)はない!」

 サザァーとアスファルトが盛り上がり、一旦宙で停止した。そして無数の塊となって、俺達に向かって飛んでくる。

「だが、あいつなら…!」

 俺を抱えた孝亮は、横へと跳んだ。

 自ら飛び掛かろうとする鬼に、すぐに体制を立て直す。膝をついて鬼を振り仰ぐと、孝亮は勢いよく叫んだ。

「上宮ッ!」

 声に反応するように、辺りにカッと閃光が走る。

『ガッ! ギャアァ!』

 異様な叫び声をあげて、鬼が撥ね返された。トラックの上で(うずくま)る鬼を囲むようにして、四本の光の柱が空に向かってそびえ立っている。

「ご苦労さん。お陰で閉じ込めれたよ」


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