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「死ぬのをやめたきゃ、か」

 缶ビールの入った袋を()げ、所々居酒屋やスナックの明かりが漏れる街中をトボトボと歩く。

「何が、したいんだろな。俺は」

 死にたい訳じゃない。それは確かだ……。

 死ぬ気なら、あの時。孝亮の死を知らされたあの時に、俺はそうしていた。

 右手で、左腕をギュッと握る。

 あいつが、本当は何を望んでるのか。それを、確かめてやる。

「…孝亮。……俺は…!」

 お前が生きろと言うのなら、何の価値もないこの人生を生き抜いてやる。そしてお前が望むなら、いくらだって死んでやる。苦しんで死ぬのが望みなら、苦しみ抜いて、地獄へも行ってやる。だから……。

 だからもう一度、俺の前に出てきてくれ。

 顔を上げた目には、あの場所が……。俺の一番大事だったモノを奪った、あの場所が見えてくる。

 ガードレールには、これ見よがしに花束や菓子が多く飾られていた。

「知らなかったな、あいつがこんなに人気者だったなんて」

 ククッと薄く笑いなからも、何かが引っ掛かる。ここに供え物をした何人が、孝亮の事を知っているのだろうか。あの事故から一月半も経ってるってのに……。孝亮にこんな多くの友人がいるとも思えない。

「孝亮が、こんなの喜ぶかっての」

 俺はそこを通り過ぎ、俺が倒れていた場所に缶ビールを置いた。

 孝亮は、自分がバイクから放り出された場所から、血塗れの体を引きずって俺の所まで来たのだ。

 その姿は、まるで何かから俺を守ろうとするように、俺に覆い被さっていたという。

『あの場所へは、二度と来んじゃねぇぞ!』

 孝亮の声が、警告のように頭の中で響く。

 時計を見ると、針は十二時をさそうとしていた。俺はタバコをつけて、ビールの前にそれを置いた。

「ピッタリ、あの時間だ。……孝亮」

 手を合わせ、目を閉じる。それを合図とするように、それまでガヤガヤとウルサい程だった街の雑踏が、何かに吸い込まれるように、スゥーと消えていった。

『…ねぇお兄ちゃん。コッチ、来る?』

 クスクスと笑いを含んだ子供の声が、すぐ耳元で囁いた。

 それに反応して、ブワッ! と全身が総毛立つ。ビリビリと感じる程の、『殺意』

 俺は、ガッと目を見開いた。すると、すぐ目の前。顔がくっつくかと思う程の距離に、幼い女の子の顔があった。

 その女の子は、ガードレールにぶら下がるように両肘をついて、(いびつ)な笑顔を浮かべている。

 年齢とその表情のアンバランスさに、悪寒が背中を駆け巡る。

 俺が呼んだのは、こんな訳解んねぇ女の子(クソガキ)じゃねぇ!

 途端。パアーッと、眩しい光が右側から俺を照らした。見ると、トラックがこちらに突っ込んで来ようとしている。


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