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「……まさか…」

 振り向いて、俺は目眩を起こしそうになった。

「おい、カンベンしてくれよ。ストーカーかぁ、お前は?」

 両手で頭を抱える。俺の真後ろ。一メートルも離れてない所に、さっきの上宮とか言う奴が立っているのだ。

 しゃがみ込む俺に、さっきとは打って変わって、冷たい声が降り注ぐ。

「期待を裏切って悪いが、俺の家もこの道なんだ」

 ツイと俺の横を通り過ぎる。二、三歩歩いて、顔だけで振り返った。

「さっきは悪かったな。死ぬなり何なり、好きにしてくれ」

 えらく険のある言い方をしてヒラヒラと手を振ると、プイッと歩き出す。

 その後ろ姿が妙にシャクに触って、俺は勢いよく立ち上がった。

「なんだよ、お前に何が判るってんだよッ」

 俺の声に、ピタリと足を止める。振り向いた男は、不機嫌を隠そうともせず、眉尻を上げた。

「そっちこそ、何も知らないだろ? やっと捜し出したってのに……。そいつが、自殺志願者だったなんてな」

 うんざりとした様子で話す男は、肩を(すく)めてみせた後、俺をギロリと睨んだ。

「どんな理由があろうと、命を捨てようなんて奴は、俺は許さない」

 命を捨てるという表現になのか、許さないという言葉になのか、俺はショックを受けていた。訳の解らぬ衝撃に、反射的に言い返してしまう。

「別になぁ! 自殺したい訳じゃねぇぞ!」

「ほぉ…」

 唇の片端を上げた男は、両肘を掴むようにして腕を組んだ。塀に凭れて、眉をそびやかす。

「自殺する気じゃないなら、なんで自分が死ぬ事に納得してるんだ?」

「…それは……」

 俯いた俺の顔に、鋭い男の視線が突き刺さる。孝亮の名を出しかけて、俺は口を(つぐ)んだ。

 長い沈黙にも動じない男は、腕を組んだままで俺を見つめ続けている。

「……………」

 いつまでも黙っている俺に、仕方なく男は塀から背中を引き剥がした。

「まあ、聞きたくもないけどな」

 溜め息混じりに言った男は、初めて笑顔を見せた。そのまま、何もなかったように歩き出す。

 しばらくして「ああ、そうだ」と振り返った男は、肩を竦めながらあっさりと言った。

「死ぬのをやめたきゃ、しばらく家でおとなしくしてる事だな」


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