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1st Mission 美しき魂  作者: 時幸空
第四章 影ゆらぐ
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その2

「ただいま」

 玄関の戸をがらりと開けると、奥からパタパタとスリッパの音が聞こえた。長い廊下の先にかっぽう着姿の女性が現れる。若すぎもせず、かといって年寄りでもない。真之介の母ともいえなくないその女性は、真之介に軽く頭を下げた。

「おかえりなさい。真之介ぼっちゃま」

「ただいま。早池さん」

 にっこりと笑ってみせる。

「お父さまがお呼びですよ。帰ったらお稽古場にいらっしゃるようにと」

「やっぱりぼくが陸上ばっかりやるのが気に入らないのかなぁ」

「真之介さまは大切な跡継ぎでいらっしゃいますから、お父様もいろいろお考えがあるのでしょう」

「跡継ぎね・・・」

 真之介がふっと笑い、早池の差し出した手にスポーツバックを預けた。制服の袖口から、黒いものがちらりと覗く。細く黒い筋が数本、その手首に巻き付くように染みついている。早池の視線がその腕に落ちる。真之介がその痕を、すっと指でなぞる。

「あと一本ですね」

「わりに早かったね。早池さんのおかげだ。ありがとう」

 真之介は、父の待つ稽古場へと足を向けた。その後ろ姿を見守る早池が、そっと微笑んだ。その眼差しの中で、小さな赤い火がちろりと揺れた。


(第五章「黒い歌」その1へ続く)

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