その4
イレブンシリーズ 1「美しき魂」これで完結です。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
「きれいだね!」
旭が空を見上げた。どこまでも深い青空を、モミジ、カエデ、桜など沢山の葉が色とりどりのモザイクを散りばめる。
「おまえ、まじか?」
「え?」
「え、じゃねえよ。病院から駅まで、バスだと十分だけどな、歩くと一時間以上かかるんだぞ」
「いいじゃない。すごく綺麗だし、気持ちいいし」
旭が空を見上げ、両手を広げて深呼吸する。鼻から肺へ取り込んだ空気が、脳へも送られて、すきっとした気分になる。
「焔と同じにおいがする」
空を仰いだ旭の鼻が小さく動く。
「どんなにおいだよ、それ」
「森のにおいっていうのかな。沢山の木のにおい。焔が歩いた後には、そんなにおいがするんだよ」
「ああ、おれ、森生まれ、森育ちの、森の精だからな」
「え、森の精? 人喰い妖怪じゃなかったの?」
「人喰いいうな」
「だって、それでイレブンに処分されそうになったんでしょ」
「過去の話さ。けっ、おまえは記憶なくしてたときの方が、よっぽどか、可愛かったぜ」
「そうだっけ? ぼく、実はその間のこと、うろおぼえなんだよね」
ふふふっと焔の笑う声がした。
「とっておきのネタを教えてやろうか?」
「なに! ぼく、なにしたの?」
「焔先輩」
「へ?」
「って、呼んでたんだよ。おれのこと。先輩、先輩って、もうすっげえ、可愛かったよなぁ。うぶな中学一年生に慕われた上級生の気持ち、満喫しちゃった」
「やっ! うそ! っていうか、ぼくがそんなこというわけない! みて! 鳥肌たっちゃったよ」
「うそじゃねえよ」
「じゃあ、証明してよ」
「いいよ。ぜんぶおれの記憶ん中に納めてあるからさ。元の姿に戻ったら、さっそくみせてやる」
「げっ。いい、いい、いい。みたくない。そんなものみたら、ぼく吐いちゃう」
「なんだと! 旭のくせに、おれさまに向かってその物言いは! ああっ、くそ! 身体さえ戻れば、おまえなんて一捻りなのにっ!」
「一口なのに、の間違いじゃないの?」
「半人前のおまえなんか喰ったって、一年も寿命、伸びねえよ。悔しかったら友だち百人、作ってみろ!」
「うるさいうるさい!」
色調豊かな静謐な山々を、焔と旭の騒々しい声がかき乱す。
森の木々そっと揺らした枝の先から、真っ赤な葉がぱらぱらと舞い落ちた。
(了)
はじめまして。
時幸空です。このたびは「美しき魂」をご拝読くださり、ありがとうございました。
このお話は、児童文学(YA)というジャンルです。
この「美しき魂」は、イレブンシリーズの第一作目という位置づけです。この後もシリーズは、続きます。旭がいろんなあやかしと触れ、想いを交わしながら、イレブンの士としての道を進んでいく(かも? 笑)、そんな展開です。「美しき魂」にもちょろっと出てきましたが、焔があやかしなってしまった原因や、人を喰らうお話も、実はもうできているので、いつか本という形にできればいいなと思っています。
第二作目は、旭の父、太郎さんが単身赴任している先でのお話です。なぜか、焔は太郎さんにだけは敬語です。とても尊敬しているようです。焔の過去とも関係ありそうです(まだ謎)次回もがんばりますので、また読んでやってください。これからもよろしくお願いします。ありがとうございました。