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完璧な悪女が、ひとりだけ騙せない  作者: 宵待 桜


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第十五章 差し伸べられた手


ルシアンの言葉が、頭から離れない。


リュセルヌの講義に気をつけてください、と言った。


でも、なぜルシアンの言葉を信じなければならないのか。


あの人は私を冷遇している。


婚約破棄も断わり、何も教えてくれない。


それなのに、すれ違いざまに一言だけ残して。


答えが出ないまま、また一週間が過ぎた。


その日の放課後、教室に忘れ物をして戻ったときのことだ。


廊下を歩いていると前方に人影があった。


リュセルヌだった。


私を見て、穏やかに微笑んだ。


「シャルム嬢。ちょうど良かった」


ちょうど良かったと言っているがきっと偶然ではないとすぐわかった。


待っていたのかもしれない。


「何でしょう」


「少し、お時間いただけますか。お話ししたいことがあります」


断るべきか、と思った。


でも断ったら、何かを悟られる。


アリスなら恐れて断る理由がない。


「……ええ」


研究室に通された。


本が多くて壁一面に本棚が並んで、魔法に関する古い文献が所狭しと詰め込まれている。


窓から夕方の光が差し込んで埃が光の中に浮かんでいた。


「お座りください」


向かい合って座った。


リュセルヌは相変わらず穏やかに微笑んでいる。で


も今日は、その笑顔の奥に何か違うものがある気がした。


真剣な、目だ。


「単刀直入にお話しします」


リュセルヌが言った。


「シャルム嬢は、星詠みの会をご存知ですか」


星詠みの会は知っている。


漫画の中に出てきた組織だ。


魔法を持つ者を集めて、でもその目的は漫画では最後まではっきり描かれなかった。


「……名前くらいは」


「そうですか」


リュセルヌは少し前のめりになった。


「私たちは声織りを守りたいと思っています」


私たち、と言った。


そして声織り、学術用語ではなく民話の呼び名の方を。


「魔法を持つ者は、この世界では命を狙われる。だから私たちは、そういう方々を守るための場所を作ろうとしています。力を持つ者が、安全に生きられる場所を」


穏やかな声で温かい言葉だった。


でも胸の奥の棘が、大きくなった気がした。


「……なぜ、私にその話を」


「シャルム嬢がそういう方だと、思っているからです」


はっきりと、そう言った。


私は彼を見た。


穏やかな笑顔、温かい目。


でもこの人は今、私が声織りだと確信して話している。


「買いかぶりすぎでは」


「そうでしょうか」


リュセルヌは笑顔を崩さなかった。


「廊下での出来事は、私も見ていました。あの生徒が変わった瞬間を」


ルシアンだけでなく、この人にも見られていた。


「シャルム嬢が恐れているのはわかります。でも、ひとりで抱えなくていい。私たちがいます」


差し伸べられた手のような言葉だった。


温かくて、優しくて


だからこそ怖かった。


嘘ではないかもしれない。


本当に守りたいと思っているかもしれない。


ルシアンと違って、この人は言葉をくれる。


説明をくれる。理由をくれる。


それなのに。


——あの棘が、消えない。


理屈ではないし論理でもない。


ただ最初に会った瞬間から刺さったまま抜けない、この感覚が踏み込むことを止めている。


「……考えさせてください」


私は立ち上がった。


「もちろん」


リュセルヌは穏やかに頷いた。


「扉はいつでも開いています」


研究室を出た。


廊下を歩きながら冷えた空気を吸い込んだ。


差し伸べられた手。


でも、その手を取っていいのかまだわからない。


星詠みの会は本当に守る組織なのか。


それとも…と考えても答えはない。


でも今日、一つだけわかったことがある。


この世界には、私のことを知っている人間が思っていたより多い。


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