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完璧な悪女が、ひとりだけ騙せない  作者: 宵待 桜


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序章 目覚め


最初に気づいたのは、天井だった。


見知らぬ、天井。


白い漆喰に細い金の装飾が走っている。


朝の光がそこに落ちて、やわらかく輝いていた。


きれいだな、と思った。


それから…待って。


私はゆっくりと瞬きをした。


もう一度、天井を見る。


金の装飾。やわらかい光。変わらない。


夢ではないらしい。


では、ここはどこだろう。


体を起こそうとして、手をついた。


さらりとした感触。


絹だ、とわかった。


指先で触れると、滑らかで冷たくて、値段が想像できないほど上質な…待って、絹?


私はゆっくりと自分の手を見た。


白くて細い指に爪の形が整っている。


手の甲に青い血管が透けて見えて、まるで磁器みたいだと思った。


……これ、私の手?


心臓がどくりと鳴った。


おかしい。何かがおかしい。


この手は私の手じゃない。でも動く。


私が動かそうとすると、ちゃんと動く。


指を折り曲げると、白い指が折れ曲がる。


ゆっくりと、周囲を見渡した。


天蓋付きのベッド

深紅のカーテン

磨き上げられた床


壁には燭台、窓には薄いレースのカーテン。


調度品のひとつひとつが、重くて、古くて、品がある。


貴族の部屋だ、と思った。


でも私は貴族じゃない。


頭の中が、靄がかかったみたいにぼんやりしている。


昨日のことを思い出そうとすると、するりと逃げていく。


私は…どこにいたか、わからない。



ベッドから足を下ろした。

冷たい床の感触が足の裏に伝わる。


立ち上がると、思ったより体が軽かった。


華奢だ、と思った。


こんなに細い体で、どうやって生きているんだろう。


ふらりと、引き寄せられるように姿見の前に立った。


大きな鏡。銀の縁取り。


そこに映っていたのは知らない少女だった。


長い髪に燃えるような深紅の赤。


切れ長の目は黒に沈むような深紅で、整った顔立ちは冷たいほど美しい。


睫毛が長く唇が薄い。


まるで絵の中から抜け出してきたみたいに完璧で私は鏡から目が離せなかった。


この子は誰だろう。


手を上げた。


鏡の中の少女も手を上げた。


頬に触れた。


鏡の中の少女も頬に触れた。


冷たい指先の感触が、確かにあった。


……私、なんだ。この子が。


頭の靄が、少しずつ晴れていく気がした。


晴れていくにつれて胸の奥がざわざわしてきた。


何かを思い出しそうで思い出せなくて。


深紅の髪。

深紅の瞳。

貴族の部屋。


どこかで見たことがある。


この部屋を。この髪を。この顔を。


どこで?


記憶の底を手探りで探った。


漫画を読んでいた。


そうだ、漫画を読んでいた。

悪女が出てくる話で、婚約者に——


息が、止まった。


鏡の中の少女を、もう一度見た。


深紅の髪。深紅の瞳。冷たく美しい顔。


……まさか。


まさか、まさか、まさか!!!


頭の中で、何かがかちりと嵌まった。


でも私はまだ、その名前を心の中で呼ぶことができなかった。


呼んでしまったら、本当のことになってしまいそうで。


しばらくの間、ただ鏡を見つめていた。


朝の光が、窓から差し込んでいた。


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