影こそ王
「私が王です」
彼女はそう宣言された。玉座の間にいる人達と同様に私は目を離せなかった。
なぜなら、玉座の前に立つ人間は、真っ黒な影だったからだ。
そこだけ黒い絵の具で塗りつぶしたかのようで、よく見ると頭にはティアラを被っている。
それは毎日目にしたティアラの形であり、背丈も王女そのものだった。
だが王女は死んだ。私が書記官に呼ばれて戻ってくると、部屋には息絶えた彼女がいた。
王女の近衛だった私は一晩尋問され、解放された。
そして呪いのように兄妹達にも不幸が降りかかった。王の子息は全て絶え、最も深い血を持つのは王の兄。
にも拘らず、玉座に座るのは影だ。それが王位継承を宣言している。
影が言う。
「なぜ影が? という声が聞こえますね。なぜなら、前王が遺言を遺したからです。子供たちが死んだ後、私が王になれと。だから私が王になる」
王女と同じ声で力強い言葉を発される。私は頼もしさを感じつつも、ぬぐえぬ疑問をぶつける。
「ですが、貴方様は影です。どうして影が王だと皆様が認めるとお思いなのですか?」
表情は分からないが、彼女が笑ったのを理解した。
「皆様、私は良く知っております。なぜ元の私が死んだのか。それはここにいる方々が殺したからです。ねえ?」
彼女の目配せと共に、王の兄が倒れ、叫び声が上がる。
私は王女の影に見入ったままだった。
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