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名誉の裏切り者

作者: 榊原

 奴を裏切った。

 別段難しいことではなかった。過去の勢力を排除してその座に就いたという奴のやり方にはだんだんとついて行けなくなって、だからみんなで決行した。

 奴のやり方は残虐非道、理想をいつまでも理想として語るような男だった。もうだめだと見切りをつけた我々は、腐敗を食い止めるために裏切った。

 集団で動けば奴の側についた彼らはあっけなく片付いたし、民衆はこちらに協力的だったし、我々と密かに通じていたあちらの幹部連中はそれとなく侵入の手引きをしてくれた。こんなに簡単だったならもっと早く実行していればよかったと思った。

 奴には奴の、我々には我々の持論があり、理想があった。それがうまく噛み合わなかっただけのこと。いい国をつくろうと彼らと心をともにしていたのは最初だけだった。

 正義の名の下に奴を追い出した我々は、これから理想を実現しようと国の頂点に立った。国民の顔は奴が支配していたころとは大違いで、我々が国家を導いていくのを期待していた。

 しかし、気がつけば瓦解一歩手前だった。我々の中に内通者が、裏切り者がいたのだ。結束だけが唯一の力だった我々はばらばらになり、互いを疑うことしかできなくなっていた。

 そして、気がつけばすでに瓦解していた。名誉の反逆者であり英雄であったはずの我々はいつの間にか国庫の金ばかりを食らうけだものとなっていた。我々の中に隠れ新勢力を本当の住処にする彼らの理想とこの現実は違う。だから排除されたのだ。かつての我々がそうしたように。

 世間は間違ったほうへ進んでいる。道を正さなければならない。もっと早くに反旗を翻していればこんなことにはならなかった。

 もう仲間とは呼べない裏切り者はそう繰り返して民衆をあおった。我々が奴を粛清したときによく使った文句と同じくだりは反逆者がすぐ近くにいることを示していたが、それが誰なのかはわからなかった。

 我々は内通者をあぶりだそうと必死だった。必死になるあまり他のことは蔑ろになっていき、当然ながら国民の顔色は変わっていった。

 結果として我々は、いや俺は豚箱にいる。たった二年の栄華だった。

 俺は国家に巣食うけだものたちの首領ということで仲間たちと引き離され、一人ここにいる。もしかしたら同輩たちは全員裏切り者だったのかもしれない。それならば内通者を見つけ出そうとしてもかなわないはずだ。

 右隣の牢獄には我々が追放した男がいた。おまえも来たか、という言葉が妙に馴れ馴れしかった。

 三年ほどすると、空いていた左隣へこちら側にいたはずの彼が入ってきた。右には我々が駆逐した男がいて、その左隣には新勢力に駆逐された俺がいて、さらにその左隣には以前の仲間がいる。裏切り者は、ああ、彼だったのだ。彼が俺を駆逐したのだ。そして彼もまた新勢力に駆逐されたに違いない。

 だいたい二、三年ごとに一人この豚箱に入れられるようだった。十五年もこの場所にいればわかる。新しい罪人は必ず左側へ連れて行かれ、右のほうへ収監されることはなかった。ずっと右のほうで死んだ人間がいても常に左側に投獄された。死体が運び出されて空っぽになった牢へ入れられることはなかった。

 ふとその事実に気づいた俺は恐ろしくなって、昔の上司がいる牢のさらに向こうを見た。

 まだ生きている歴代の国の支配者が奥から順に収容されていた。国の頂点にある椅子は、栄華という名の、牢獄への片道切符だったのだ。

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