月に手を伸ばす
今日のあの子は綺麗だった。
ううん、いっつも綺麗。
それで僕は色々話しかけたり贈ったりするんだけど、僕には絶対振り向かないんだよなぁ。
どうしてって僕は言うんだけど、そんなの分かりきったことだ。
だってあの子には、僕じゃない星が見えてるから。
「馬鹿かなぁ〜」
畳に転がって、指の間を通ってきた月光に口付ける。
そのまま手の平で月を撫で、包んだ。
あ〜あ。あの子もこんな風に簡単に手に入ったらいいのに。
いや、結局今だって……。
僕は握ったままの拳をずらす。
変わらず月は照っていた。
手に入れられてはいない。
そういう風に見えていただけだ。
僕からは手に入ったように見えても、人から見れば届かない月に手を伸ばす滑稽な図。
「……分かってるけどさ」
溜め息を吐いて腕を下ろした。
「難しいよ……」