落ちこぼれでも
ラナの目を真っすぐ見る。
何故、自分がこんな行動をしているのか分からないが、言ってしまった以上はもう逃げることはできない。
「ラナさんって、大魔王の娘、ラネル・アントレンですか?」
「七聖の子孫からそんな言葉が飛び出してくるとはな。随分と無責任じゃないか?」
「確かにそうですね。ただ、貴女と握手した時、強い吐き気や嫌悪感が不調が、お互いに発生しましたね。ラナさんもかは分かりませんが、その症状の他に幻覚の症状が自分にはありました。その時に何を見たと思いますか?」
「…さぁ。何を見たんだ?」
「大魔王。ヴァイル・アントレンの姿です。貴女に触れ、体調不良を起こし、私達七聖にとっては最も因縁深い大魔王の姿を見た。こういう現象は意外と何件かあるんですよ」
「フラッシュバック現象か」
「はい。過去に経験した強い恐怖やトラウマ体験が突然鮮明に蘇る現象をフラッシュバックといい、その記憶が子孫へ流れ、ごく稀にトラウマの原因となったものに関わることで発生してしまう現象ですね。最近ですと、武乱界の紅井家と蒼井家の当主が握手した際に起きたそうですよ。両家の問題についてはご存知ですか?」
「あぁ。0世代の話だが、西大陸を統一した紅井家と、東大陸を守ろうと各地の領主が連合を組み、その頭となったのが、過去紅井家と交流が盛んだった蒼井家だったそうだな。他にも、蒼井家一番の家臣だった朝村家が紅井家に寝返ったが、紅井家が洗脳や工作をしたかで、余計に溝が深くなったとか。色々と問題があったらしいな」
「はい。今に至るまで紅井家と蒼井家を筆頭に西大陸と東大陸を分かれていたそうですが、最近になった和解したそうです。そして最後に握手を交わした際にフラッシュバック現象が発生したそうです」
「つまりは、我が大魔王の娘で、ラインが七聖、特に勇者の血筋だからフラッシュバック現象が発生した。イコール我が大魔王だと言いたいんだな」
足りない。因縁のある人物が大魔王1人とは限らないし。先祖全員が今まで会ったことのある人物を調べて、その子孫を調べるなんて不可能に近い。
だからこ、最初は聖騎士団が所持している白状薬を飲ませようと思っていた。しかし、それよりも確実な証拠があった。
―昔地下室を漁ってたのが役に立つなんてな―
「まずこちらを」
ポケットから鉄製の懐中時計やコンパスように丸く小さい、蓋のついた物を取り出し机の上に置く。
横に付いているスイッチを押すと蓋が開く。中は。方角の書いていないコンパスのようで、薄汚れた白い布と、円の中心に固定され、先端が青く、眩いほど光っている針がラナの方を向いている。
「コンパス?いや、方角が書いていないのがおかしいな」
「初代七聖が使用していた大魔王探知機です。大魔王のいる方向にこの青く光っている先端が動き、距離が近くなる程光ります。めちゃくちゃ光ってますね」
大魔王探知機の蓋を閉め、次に胸ポケットから写真を1枚取り出す。
「父親が必死こいて探していましたが、初代七聖の1人が撮影した写真です」
「写真だと?カメラができたのは400年、いや、記憶にないが少なくとも0世代でないことはたし…まさか」
「0世代の王、科学の王と呼ばれたダスラ博士が発明した物です。ダスラ博士が開発したものは神々によって没収されましたが、一部は大魔王討伐のために七聖へ渡されていました。そして、この写真に写っている姿、少し幼いですが、貴女とそっくりですね」
「……」
ラナは写真を眺めながら、どこか懐かしそうな表情を浮かべる。
目を閉じ、一呼吸を置くと何かを決意したような表情でラインと目線を合わせる。
「1人でここまで来たのか?」
「えぇ」
「命知らずなんだな」
「確証がなかったので。ただ、一応保険も用意していましたよ」
「そうか。ラインの話は聞いていたが、やはり噂は噂に過ぎないな」
「光栄です」
「さて、これから我をどうするつもりだ?」
どうするか。騎士団や警備団に連絡を取り、その間に時間を稼ぐのがベストだろうけど、そんな実力が俺にあるだろうか。大魔王の娘に対して、薄まった勇者の血筋が勝てるのだろうか。
―何でだろう。いざ対面すると勝てそうな気がしてきた―
平均よりは高そうな魔力、低身長にさほど筋肉の付いていない肉体、警戒すべきは豊富であろう戦闘経験と知識量のみ。
おかしいな。その程度のレベルなのにどうして警備団はそこまで警戒しているんだ。シンプルに大魔王の血が流れているからか?いや、もしかしたら力が封印されてるとかか?
―考えてもしょうがないか。見舞いと答え合わせしに来ただけだし―
「どうもしませんよ」
「なに?」
「私はただラナさんの様子を見に来ただけですから」
親や家系など関係ない。当人が剣を使えないなら使えないし、何も悪いことをしていないなら悪人ではない。それが当たり前なんだ。そう、当たり前……。
「いいのか?バレたらタダではすまないと思うが」
「もしそうなったら、匿ってくださいね」
「ふ、いいだろう。あいつらも喜ぶだろうしな」
ラナがそう言うと、タイミング良く心達が部屋に入室してくる。
「心たちの仲間になるでござるか!!」
心が凄い目を輝かせながら手を握ってこちらを見てくる。
「い、いやまだ決めて訳じゃないですから」
「だけどライン君が入ってくれると私としても凄い嬉しいのよね。データも取れるし、チームに弟の1人しか男性いなかったからこれで2人になるし、部屋割りも誰かが1人部屋になるから取り合いになるからそれも無くなるしね」
「激しく同意だ」
「だけど七聖なんて有名人が一緒にいたら目立つし、何よりお金がもうそこまでないよ」
「変装すれば何とかなる。金銭面は……ま、まぁ後で考えよう」
賑やかで、楽しそうな雰囲気だ。子どもの頃、ホリーと百龍、エンシルの4人で遊んでいたのを思い出す。
将来のことなど全く分かってなくて、親の偉業を超えるんだと意気込み、先頭に立って後ろ向きながら歩き、3人が付いてきた。短い間だったが、今までの人生では最も輝いてて、楽しい時間だった。
「そういえば、皆さんってラナさんが大魔王の娘であることを知ってるんですね」
「まぁ、タイミングを見て言っているからな」
「最初聞いた時は驚いたけど、別に悪い子じゃないしね」
「0世代の王の娘なんて興味しか湧かないし、弟の良い経験になるしね」
「実際に旅して色々な奴と戦ってきた。ラナにはまだ勝てないが」
「拙者もラナ殿と旅して色々な事を学んだでござる。食べれる植物とか、火を起こす方法とか」
全員が大魔王の娘であることを知りながらも普通に接し、共に旅を続けている。
俺が求めていた人達、そして自分のことなど誰も知らない世界で生きていく。俺が捨てた願いを叶えるチャンスが目の前に……。
「いいですね。私も七聖の子孫でなければ一緒に旅をしてみたかったです」
「ライン。分かっていると思うが七聖の子孫であることに執着する必要はないんだぞ」
「はい。ただ、いくら馬鹿にされようと、いくら剣の才能がなくても……」
いくら、禁忌と言われている体術を勉強し、何年も修行をしていたとしても。
「落ちこぼれでも、私は七聖勇者の子孫ですから」
次回投稿予定
2025年6月29日(日) 20時00頃