お見舞い
心達と会ってから2日経ち、適当な菓子折りをもって土曜日に宿泊しているであろうホテルに向かうことにした。
「ベルインドホテル。合ってるな」
―本当はラナさんの体調を確認しに放課後に行きたかったが、あいつらが見張ってるせいで来れなかったな―
心達と解散してから、心に渡された紙切れの事や何を話したかホリー達に聞かれた。どれも適当に流していたが、夜中の23時まで見張っているもんだから中々行けなかった。
―まぁあ、その分調べる時間を確保出来たな―
ラナと握手した瞬間に発生した体調不良に加え、幻覚・幻聴の正体について調べきる事ができた。後は答え合わせをするだけだ。
ホテルの中に入り客室フロアの方へ入ろうとすると、左右に立っているガードマンが銃で通路を塞ぐ。しかし、俺の顔を見るなりその銃をどけた。
「お疲れ様です。調査のために客室フロアの方へ入らせていただきます」
「承知致しました」
ガードマンは敬礼をする。あくまでも形式的なものだが、ラインは軽く手を挙げ客室フロアの中へ入っていく。
「611。ここだな」
少しシワがついた紙を手に、目の前の部屋番号と紙に書かれた文字を何回か確認する。扉をノックすると、はーいという言葉と共に白い上着を羽織った女性が扉を開き、現れる。
「あら。君はあの時の子ね」
「ライン・ユベルです。ラナさんのお見舞いと、後用事があって参りました」
「あら菓子折りまで。どうぞ~」
部屋の中に案内されると、2人用の少し狭い部屋に5人が窮屈そうに座っていた。
ラナとカルイは同じベットの上に座り、もう1つのベッドには心が座っていた。倉識弟は椅子に座っていて、もう1つある椅子には誰かが座っていた形跡がある。おそらく倉敷姉だろう。
「どうも。ライン・ユベルです」
「おう来てくれたか。座るところないから心の隣にでも座ってくれ」
ラナの表情や口調から察するに、体調は治ったみたいだ。心は何か落ちつかない様子だが、軽く挨拶して隣に座る。
「体調は大丈夫ですか?」
「あぁ。今はなんともない。そっちも大丈夫か?」
「えぇ。何とも」
お互いに自身の体調を確認し、ラナが何か喋ろうとした時、倉敷姉が菓子折りを持って、隣に座ってきた。
「このラジャルっていうお店、かなりお高いお店じゃなかった?」
「なっ!お菓子か!」
全員集まってくるが、ラナが他よりも早く覗き込む。
「あぁー……そうですね」
「いくらしたんですか?」
「…1万ぐらいだった気がしますけど」
「「1万!?」」
ラナ、カルイ、心が大きな声を出し、驚いたような表情を見せる。
「1万って、このホテル何泊分でござるか?」
「ちょ、ちょっと待って。銀貨1枚と銅貨5枚だから1500でしょ……銅貨5枚出せば1週間泊れる」
「マジか……ホテル1週間分の菓子ってことか…」
3人がこしょこしょと話している内容が聞こえる。
―ベインドホテルに泊まってるからそうなんだろうと思ってたけど、相当お金ないんだな―
ベインドホテルや東区にある数か所のホテルは、国から助成金が出ており、目的が格安で宿泊させることで野宿を防ぎ、強盗や痴漢といった事件を防止することらしい。
「と、取り敢えずこの菓子折りは有難く頂いて、大事に保管、じゃないな、大切に食べさせてもらう。すまいな。卒業試合明後日なのに」
「卒業試合……出場するって知っていたんですね」
「有名だからな」
「……そうですね。ところで、心さんから来てくれって言われてので、見舞いも兼ねて来たんですが、私に何か用事でも?」
「あぁ。私が頼んだ」
ラナは枕元から本を持ってくると、中に挟んでた写真を取り出す。
その写真は教会の外観を撮った写真で、左側にほぼ見切れているが、金色の何かが映っている。
「この写真に映ってる場所を探してるんだが見つからなくてな。一応この街の案内所?的な場所に聞いてみたんだが、分からないと言われて、もしかしたら七聖子孫の勇者だったら分かるかもしれないと思ってな」
―珍しいな―
「この世界にある建物ですか?」
「あぁ」
「分かりました……」
―地面は舗装されていて白い。んで、この教会の形と、金色の像が左側だけある……―
「恐らくですが、イレイ王国のロイト教会だとおもいます。イレイ王国って、財政難な癖に景観を大切にしてるんです。なので、あそこは歩道とか地面が全て写真のように白く舗装されてるんですよ。後、右側に金色の像が置いてあったんですが、写真で置いてないのは売ったからなんですよね。割と最近。後…確か教会がこんな形してるはずなんで、イレイ王国のロイト教会で会ってるはずです」
「ホントか!!で、そのイレイ王国とかってのはどこにあるんだ?」
「ユーベリア大陸の右端です。都心から馬車で5時間ほどです」
「結構遠いんだな。分かった。ありがとう」
「教会に何か用なんですか?」
「まぁ、そんなとこだな。ラルイが行ってみたいって言うんだが、肝心な場所が分からなくてな」
「え?あ、うん。そうですね」
「そうなんですか」
―行ってみたい場所なのに住所が分からないことなんてあるのか―
「他にお手伝いことはありますか?」
「…いや大丈夫だ。ありがとう。凄く助かった」
「……実は自分も聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「なんだ?」
「出来ることならラナさんと2人で話したい事なので、可能でしたら他の人に一時的に退室していただくことはできますか?」
「……分かった。皆、すまないが少しばかり心か倉識の部屋に行っててくれ」
倉識姉弟以外、少し心配そうな顔をしながら部屋から出ていく。
「申し訳ないです。突然、部屋の外に行ってくれなんて、失礼なお願い事をしてしまって」
「構わない」
「話したい事なんですが……単刀直入に話しましょう」
ラナの目を真っすぐ見る。かなりの賭けだ。何故、自分がこんな行動をしているのか分からないが、ここまで来た以上、下がる訳にはいかない。
「ラナさんって、大魔王の娘、ラネル・アントレンですか?」
次回投稿予定
・6月15日(日)20時00頃