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面倒事



「ふーさっぱりした。体が温まっている内にいつもの飲みますか」




 食堂の冷蔵庫を開け、いつも飲んでいるカフェインミルクを探すが、見当たらない。

 入れ間違えを考え、他の冷蔵庫を開けたり、物をどけたりするが無い。




「は?無いぞ。………買い忘れか」




 今日の朝、確かに注文票に書いてメイドに渡した。ということは買い出し担当のメイドが忘れたのだろう。珍しいな。




「マジか…しゃあない、買いに行くか」




 あまり人の多いところには立ち寄りたくないが、無い物は買わないといけないから。時間が空いてでも風呂→カフェインミルクを飲むの順番がいい。




「用事で出かけてきます。30分程度で戻ります」




 部屋から財布を持ち、連絡係のメイドに伝える。

 靴を履き外に出ると、空は少し赤くなっていた。




「確か東区に売ってたよな」




 南区は「人」、東区は「物」と都心は2つの出入口を作っている。

 理由は簡単で、まとめると渋滞が起きるからだ。人は身分証明書を提示して承諾および本人確認の他、物品検査があるらしく、比較的早く終わるらしい。ただ、物になると身分証明書や用途、制作場所などの聞き出しに検査などで時間がかかるシステムらしい。




「中央区より人は少ないが、それでも多いな」




 人混みの中を掻き分けるように歩き、目的の店へと歩いてく。




「お!アランとこの坊主じゃねえか!」


「久しぶりですね。いつものやつあるだけ下さい」


「おうよ!全部ってなると結構時間がかかるから、そこら辺うろついてな!」




 おじさんが店の奥へ商品を取りに行く。その間、俺は受取口に両腕と顔を乗せ、店内の商品をジッと見ていた。

 都心で暮らして18年経つ。今更この周辺で見るものは何もない。




「おいライン!!」




 突如、誰かに右肩を掴まれる。




─見つかったか─




 さっき誰かを探している同級生のアプルを見かけた。厄介事を押し付けられたくないから、見つからないように縮こまっていたのに。




「アプルか。どうした?」


「来てくれ!お前でも出来るような仕事だ!」


「はぁあ……分かった」




 ここで断った事がバレたら、後で親父になんて言われるか。

 そっちの方が面倒くさい。




「俺の店の隣に団福屋(だんぷくや)っていう団子専門店あるの分かるか?」


「店名は和陽(わよう)語なのに店主はユーベリア大陸出身のやつだろ」


「そうだ。そいつが観光客と喧嘩してるせいで俺ん家の店に人が入ってこねえんだ」


「喧嘩の仲裁をしろってことか?」


「あぁ」




─めんどくせえな。騎士団呼べよ─




 アプルに付いて歩いていくと、人溜まりが出来ている場所が見えてきた。




「だから拙者たちは払ったと言ってるでしょ!」




 人溜まりの中から随分と可愛らしい声と共に妙な1人称が聞こえる。




「そうだ!我々は確かにベンチの上に金を置いたぞ!」


「うるせえな!!払ってねえつってんだから払ってねえんだよ!!」


「そんな事言うなら店内を調べさせてください。」


「それはできねえ。どこの馬の骨だか分からねえに店を荒らさせる訳ねえだろ」




─赤髪に銀髪に黒髪か。3人とも不思議な服装だし、2人の髪色は都心じゃ珍しい。他大陸か異世界から来た人間だろう。詐欺られてるのか。─




「じゃあ俺だったらいいな」




 状況を整理し、団福屋の店主の前へ立つ。

 店主は俺の顔を見ると一瞬ビビったようだが、すぐに見下すような表情を浮かべる。




「誰かと思えば落ちこぼれの坊主じゃあねえか。驚かせやがって……」


「すみません。ベンチの上に金を置いてから、どれぐらいで店主から声をかけられましたか?」




 3人の内、一番大人っぽい赤髪の人に声をかける。




「え?……私達が立ち上がって、数歩歩いたぐらいで店主に止められました」


「なるほど。お金を置いたベンチというのはあそこのお皿を置いている所ですか?」


「はい」


「なるほど。ありがとうございます」




 ラインがお金が置いてあったとされているベンチに近づこうとすると、店主に肩を掴まれる。ラインは肩を掴んだ相手が店主だと確認すると、店主の手首を握り、ゆっくりと肩から手を放すように動かす。





「イデ!痛い痛い!放せやこの野郎!!テメェ一般人に手出していいのか!」


「正当防衛です。それよりも店主さん。ずっと気になっていたことがあるんですが、1つ聞いてもいいですか?」




 ラインはベンチに座り、貼り付けてある布を触りながら店主の方を見る。




「店主さんって、たまにベンチの下に上半身を突っ込んで何をなさっているんですか?」


「あ?……落とし物がないか見てんだよ」


「その時、ベンチがガタガタしているんですが、ベンチ板の裏でも触ってるんですか?」


「あ、あぁ。ガムとかの粘着物が張られてないか確認してるんだ」


「そうですか……あ、後ですね。最近こういう事件多いらしいですよ」


「何だよ。俺は世間話したい訳じゃねんだぞ!」


「まぁあまぁあ。どこだったかこんな話を聞いたことがあるんですよ。ファクトリー社の接着剤とそれを分解する液体を用いた詐欺事件の話をね」


「そ、それが何だっていうんだ」




―声が小さくなった。短気で暴力的な奴だから、何かあったら分かりやすいだろうと思ったけど、本当に分かりやすいな―




 皿を持ち上げ、もう片方の手でベンチの底に手を触れようとした時、側面に板があることに気付く。

 ニヤリと笑い、ベンチをひっくり返す。




―布が切れている部分からは側板が見えないけど、実際は上板から何cm側板を設けていたのか。風で布がベンチ下に触れた時にくっつかないようにするために―




「こういうことだ」




 逆さになったベンチの周りに人が集まり、ベンチの裏側を見る。そこには半透明な液体が塗られており、銀貨や銅貨が張り付いていた。中には和陽国独自の硬貨もあった。




「拙者たちが払った銀貨があるでござる!」


「ま、待て!この銀貨がこいつらの奴とは限らないだろ!」


「もうじき分かることだ。そろそろ騎士団の調査部が来る頃だし、この説明はそいつらにしてくれ」




 ラインの言葉通り、馬の走る音が遠くから聞こえてきた。

 おそらく聖騎士団の調査部を乗せた馬車の音だろう。




「聖騎士団治安部隊調査部だ。騒ぎを聞きつけて来たが、何の騒ぎだ」


「やっと来た。ライン、もうい……ってあれ、あいつどこに行ったんだ」




 カフェインミルクがギッシリ詰まったカゴを2つ受け取り、料金を渡す。




「遅れてすみません。残りはまた取りに来るんで」


「毎度!また来てくれよな」




 かごを両手で持ち、自宅の方へと歩き出す。




「面倒事は嫌いだ」

次回投稿予定

5月11日(日)20時00頃

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