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朝のホームルームが始まる前、教室の中はいつも通りの賑わいで溢れていた。
クラスメートたちが集まり、週末の話題や、SNSで話題になっている出来事について笑い合っている。
その中で、私は自分の席に座り、自分の居場所を探すように、窓の外を見ていた。
心の中で溜め息をつく。
ここにいると、いつも息苦しさを感じる。
みんなが私を特別扱いするのが嫌でたまらない。
「華恋、おはよう!」
取り巻きの一人が私に声をかけてくる。
彼女の笑顔には、いつもどこか作り物のような感じがある。
私はそれに気づいているけれど、何も言わずに微笑み返す。
「おはよう、今日は天気がいいね。」
そう返すと、彼女たちは満足そうに笑ってまた話し始めた。私はその輪の中に入ることなく、ただ眺めているだけだった。
昼休み、私は一人で中庭に出た。ここは少しだけ静かで、私が自分を取り戻せる場所だ。風に揺れる木々の音が心地よい。
ベンチに腰掛け、ぼんやりと空を見上げていると、遠くから何やら話し声が聞こえてきた。振り返ると、心桜と数人のクラスメートたちが楽しそうに笑っているのが見えた。心桜はいつも人の輪の中心にいる。その笑顔は輝いていて、周囲を惹きつけているようだった。
「やっぱり、心桜は人気者だな。」
私は小さく呟いた。その言葉に、どこか寂しさが混じっているのを感じた。
午後の授業中、先生が教室に入ってくると同時に、クラスメートたちが一斉に静かになった。数学のテストが返却されるということで、みんな少し緊張しているようだった。
先生が一枚ずつテスト用紙を配り始める。私の席にも一枚が置かれた。点数を見ると、満点だった。
「すごい、華恋ちゃん。また満点だなんて!」
取り巻きの一人が大げさに驚いた声を上げる。教室中の視線が一斉に私に集まった。その中には、賞賛の目もあれば、嫉妬の目もある。
「さすがだね、華恋」
心桜が少し皮肉っぽくそう言った。その言葉に、私は何も返せなかった。ただ、その表情には明らかに苛立ちが滲んでいるのがわかった。
放課後、私は教室を出て、校舎裏へと向かった。ここなら、少しは一人になれる。壁にもたれて深く息を吸う。学校にいると、まるで見えない鎖に縛られているような気がする。
「華恋、ここにいたんだ。」
ふいに聞こえた声に振り返ると、そこには蓮が立っていた。蓮は私の表情を見て驚いた。
「……何かあったのか?」
蓮の優しさに触れると、涙が出そうになるのをこらえた。
「大丈夫。ただ、少し疲れただけ。」
私は少し上を向いた後、笑顔を作った。
だけど、その笑顔はきっと偽りだと蓮にはわかってしまうだろう。
「華恋、無理しなくていいよ。君だって、人間なんだから。」
蓮はそう言って、私の肩に手を置いた。
その温かさが、私の心を少しだけ癒してくれる。
「ありがとう、蓮。」
その言葉を口にすると、私の胸の中に少しだけ光が差し込んだ気がした。
蓮はぽつりと華恋の背を見送ると呟いた。
「本当に……華恋と心桜は似てるね。」
帰り道、私は心桜と一緒に歩いていた。
お互いに何も話さず、ただ足音だけが響いている。
いつもなら、心桜はもっと話しかけてくるはずなのに、今日は何かを考え込んでいるようだった。
「心桜、どうかしたの?」
私が尋ねると、心桜は一瞬だけ私を見た。
その目には、悲しみと嫉妬が入り混じった感情が浮かんでいた。
「ねえ、華恋。あんたはどうしていつも完璧なの?」
その問いに、私は答えられなかった。心桜の言葉には、私への苛立ちと、そして自分に対する苛立ちが含まれているように感じた。
「私は完璧なんかじゃないよ。ただ、みんながそう見てるだけ。」
私は静かに答えた。だけど、その言葉は心桜には届かないようだった。
「どうだかね。私には、ただの言い訳にしか聞こえない。」
心桜はそう言って、私を置いて先に歩き出した。
その背中は、どこか寂しげに見えた。
家に帰ると、母がリビングで夕食の準備をしていた。私は何も言わず、ソファに座った。
「おかえり、華恋。今日はどうだった?」
母の優しい声に、私は少しだけ涙がこぼれそうになった。
「普通だったよ。特に何もない一日だった。」
その言葉を口にするのは、もう何回目だろう。
私の胸には重い何かが残ったままだった。
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